3話、鍵の贄
殆ど会話の話です。
「…私が…鍵?」
「はい、そう言うことです。」
弓子が唾を飲む。その空気に耐えかねた夜道が口を挟む。
「意味わかんねーよ‼︎どう言うことよ?え?弓子は分かったの?」
「いや、空気読んでゴクッてやって黙っただけだよ。全然わからないわよ。」
「ですよね。実は今妖怪界隈ではある犯罪集団の噂があるんですよ。昔ある妖魔術師によって封印された妖怪を次々と目覚めさせている集団、その名も庶孤羅!そのボスは金毛九尾だとか…まぁそもそも、ショコラの存在自体は天狗警察も全然把握されるまさわけなんですがね!そりゃもうひどいもんなんすよ!あいつら、せっかく高橋葦郎斎さまが封じた妖怪どもをどんどん目覚めさせて暴れさせて!こないだなんか‼︎地獄に二、三匹目面倒なやつを送り込んで来たんですよ!もう大天狗様がブチギレで、今警察には『庶孤羅絶殺令』が降ってましてね‼︎こないだは大天狗様が『庶孤羅のやつ見つけたら絶対捕まえて何がなんでも洗いざらい吐かせろ!』って演説をしてましたよ!」
「大変なんだな……」
「ねぇ夜道、この鴉丸さんって大丈夫なの?」
「初対面だしワカンねぇ。危ないかもな。」
「お見苦しいところをお見せしてしまいましたね。それで夜道さん。あなたはなぜ弓子さんが狙われているとお気づきに?」
「さっき水虎に襲われたんだよ。危なかったぜまったくよぉ〜。」
「何?それで今その水虎は何処に⁉︎」
「G大学の春影池のベンチの下の影に閉じ込めたまんま。それの処理も頼んでいい?」
「今すぐ案内してください‼︎水虎が面倒くさいのは倒し方なんです‼︎」
「お、おう。でも今は開いてねーと思うよ?」
「忍び込みましょう。」
「おい警察さんよぉ〜、それ不法侵入だぜ?」
「人間の法まで守ってはいられませんよ。」
「ワルだねおい!」
「早く連れて行ってください‼︎」
こうして3人は春影池に戻って来た。
「あのベンチの下にいるはずだよ?」
「逃げられてますね。妖気が感じられませんから。」
「どうやって?俺の影重の法はそんなにゆるくないぜ?」
「水虎の本体は水ですから、雫1つでも漏れればそっちに本体を移行できます。それに厄介なのは、水虎には雄と雌がいることです。あいつらは昔高橋葦郎斎様が封じたうちの1つです。雄と雌を別にして封印してあったのですが…マズイですね。ここに封印されてたのは雄なので、雌を探してあちこちに行くでしょう。そうなるとあちこちで水虎の被害が出てしまいます。その上、もし雌を見つけたならもう増えまくります。あいつらは雄と雌が出会った瞬間から発情期みたいな奴らですからね。なんにせよあの雄を封印してから地獄に持って行きましょう。今は昔と違って地獄も積極的に現世の保安をしてくれていますし。」
「なぁ鴉丸、いったいどうやって妖気を感じるんだ?」
「鴉天狗の持つ能力は『感じる』こと、いわゆる第六感と考えて下さい。その他にも空を飛んだりとかできますし、大天狗様とテレパシーが出来る上、実は念力も使えます。」
「これまたチートな妖怪だな。」
「いえ、どれも大天狗様が与えてくれた力でしてね、大天狗様がダメといえば使えません。そうなれば鴉天狗が元々持った能力である『変身』しか使えません。変身できるのは鴉だけですから、不便でしてね。」
「大天狗様って凄いのね。」
「弓子様は去らないかもしれませんが、弓子様のご先祖でいらっしゃいます高橋葦郎斎様のご友人でしたんですよ、大天狗様は。ですので弓子様の護衛に天狗警察は全面協力致します。今、テレパスした所大天狗様がこの任にはお前があたらと申されましたので、私鴉丸が夜道怪さんと一緒にあなたの護衛にあたります!どうぞよろしくお願いします‼︎」
「こちらこそお願いします。」
「なぁ、そろそろ戻らね?」
「そう致しましょう。」
3人は鴉丸の勤務する社[鴉丸署]に戻って来た。
「では、詳しい説明を致します。高橋葦郎斎様が封じた日本最凶の妖怪の封印を解くためには、その子孫である弓子様の肉体が必要なのです。血だけでは足りません。肉体全てが必要なのです。そのほかの条件はいくつもありますが、全ては伝えられておりません。恐らく葦郎斎様が伝えまいとしたのでしょう。しかし、葦郎斎様と契約していた妖怪のうちの一体が裏切りまして、漏れてしまったのです。」
「その妖怪は?」
「きっとねずみ男でしょ!私知ってるわ!ねずみ男は自分のためにあっちについたりこっちについたりするものね!」
「違います。というかわからないのです。」
「そいつが庶孤羅作った金毛九尾じゃないのか?」
「違うのです。庶孤羅はあちこちで封印を解いてテロを起こしていますが、葦郎斎様は金毛九尾とは契約していませんでした。その妖怪が何者なのかを突き止めることも、この一連の事件を解決するためには必要なのです。そこにご協力を」
「もちろんだ!それと、先に言っとくが俺は記憶が欠落してて葦郎斎とのことは『弓子を護る契約』のことしか覚えてねぇからな。」
「承知しました。」
「さてと、水虎を早く捕まえなければなりません。私が考えておくのでお二人はどうぞ、お帰りになって良いですよ。」
「じゃあそうするわぁ。」
「ちょ、ちょっと夜道!情報提供とかいいの?」
「うーん、鴉丸、いる?情報提供。」
「いえ大丈夫です。」
2人はアパートの部屋に戻った。弓子は情報提供が必要なかったことの理由がわからず、モヤモヤしたまま眠りについた。夜道は弓子の枕元で座って考え事をしていた。
「俺の杖、どこに行ったんだろ。」