表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の蝶はダメ人間  作者: ほろ苦
4/5

蝶々が四匹

読んで頂きありがとうございます(´・ω・`)

 ジルの馬車に乗せられ夜会の会場を離れてとある館にたどり着いた。

 イリーナは嫌々ジルにエスコートされ屋敷の中に案内されるとそこそこ広い屋敷に整えられた装飾品からある程度の財力がある家だとわかる。

 奥の一室に通され、そこには大きなベットが部屋の真ん中に配置されており一目で寝室だとわかるとイリーナの背中にじとりと汗が出る。

 ジルが不意にエスコートしていた手をぐいっと引いてイリーナの身体を自分に引き寄せると抱きかかえる形でベットにイリーナを押し倒した。

 イリーナは動揺を精一杯隠し、冷静を装ってジルを睨みつける。


「私の執事はどこにいるの?」

「怒った顔も素敵ですよ、イリーナ嬢」

「ええ、私はとても怒っているわ、侮辱もいい所ね。人質をとってこんな卑怯な事をされるなんて今までで初めてよ」


 イリーナは蔑む目でジルを見下すように睨むとさっきまで少しニヤケていたジルはすっと無表情になる。


「貴方を手に入れる事は容易い事ですよ。しかし、今回私が欲しいのは貴方ではない」


 私ではない?

 イリーナに覆いかぶさっていたジルは立ち上がるとベット横のチェストから書類を取り出しイリーナに差し出した。

 イリーナは上体を起こし書類を受け取り目を通す。


「新薬の貿易許可書です。これにタイガ王子の許可を頂きたい。我がガルジア国では新薬を貿易するのに皇族の許可が必要だがコレに関しては、なかなか許可が下りなくてね」


 薬の事は全く解らないイリーナだったが、見覚えのあるハーブ名の文字を見つけると目を細めた。

『セジラグタ』一種の麻薬である。

 この新薬は麻薬を正当化した薬なのだとすぐにわかった。

 こんなもの…

 イリーナはジルを軽蔑の眼差しで見るとジルは小さく微笑む。


「こういう薬を必要としている方は沢山いらっしゃる。イリーナ嬢、貴方はタイガ王子の伽候補なのでしょう?私の国では有名な話です。こんな紙切れ一枚署名させるの事は簡単な事でしょう?」


 イリーナは書類を持っていた手にグッと力がこもり黙っていた。


「聞けば優秀な執事と貴方の友人とは結婚真近だとか。よい結婚式になると良いですねー」


 顔を歪めジルを睨み怒りで震えるのをグッと我慢する。


「クロスに何かしたらタダじゃ済まさないわよ…」


 小さく呟き書類を持ったままイリーナは速足で部屋を出てジルの馬車に乗り夜会の会場に戻る。それから、自分の馬車に乗り換え急いで自分の屋敷に帰った。

 皆クロスが一緒にいないことを不思議がったので適当に嘘をついて誤魔化し、イリーナは早急に隣国に行く準備を進めた。

 次の日の早朝、侍女を一人つれて隣国に旅立ち、まる一日かけてガルジア国にたどり着くと遠縁の親せきの屋敷に泊めてもらう事にした。

 急がなければ……

 ジルは期限を言わなかったがクロスを人質にとっているとなると悠長にはしていられない。

 あまり長くクロスがいないと誘拐されている事がバレて大事になってしまったらクロスの命が危ない。

 イリーナの様子が少しおかしい事に侍女のアンはうすうす勘付いていたが黙ってついてきてくれた。

 イリーナは早速タイガ王子に今、ガルジア国に来ている逢いたいと手紙を書いて送る。

 一国の皇太子たるものが一隣国の伯爵令嬢に普通そうやすやすと逢えるものでもないのだが、次の日親せきの家に皇族の馬車が迎えにきたので少し驚いた。

 タイガ皇太子がいる屋敷に招かれ、テラスで待つように言われ周りを見回すと目の前に広がる見事な園庭とおいしそうなお茶とお茶菓子が準備されており小鳥のさえずりが響いていた。


「イリーナ!」

 一時して少し離れた所か響く懐かしいタイガ王子の声に振り返ると軽く手を振って歩いてくる王子と護衛が数名見えた。


「ご無沙汰しております皇太子様」

 イリーナはスカートを少しつまみ上げ淑女の礼をする。


「そうだな、でも手紙のやり取りが多すぎてあまり懐かしいとは思わないな」

 クスリと気さくに笑うタイガ皇太子にイリーナもおどけてみせた。


「突然こっちに来るなんて、あんなに嫌がってたのにどうしたんだ?」

 タイガ王子からの手紙にガルシアに遊びに来いだの、伽の手配しているから安心しておいでだの書かれていたのでその全部を拒否しまくっていたイリーナが突然やって来たのだ。

 普通不審がるだろう。

 イリーナは目を泳がせ深刻な顔をしてタイガ王子を見つめる。


「……その気になってくれたのか?」

 ……ちがう!

 物凄くツッコミたかったがイリーナは俯き苦虫をつぶしたような顔を隠し小さく頷いた。

 事情を話す為になんとか二人っきりで話す機会を作らなくては…

 何処でジルの手下が見張っているかわからないし、私が怪しい動きをすればタイガ王子の側近たちが私との接触を妨害するだろう。

 イリーナはしおらしく淑女を装う。


「わかった。準備ができ次第迎えに行くから」

「あの……出来るだけ早く」

 頬を染め俯き気味に恥じらうようにイリーナが言うとタイガ王子は顔を赤くして目を輝かせ頷いた。

 ああ、頭痛がする……がクロスのためだ急がねば。

 短いティータイムを済ませタイガ王子は忙しかったらしく笑顔で別れを告げ公務に戻って行った。

 ひとまずイリーナは親せきの屋敷でタイガ王子の迎えを待つしかない。

 すると思いがけない人物が訪ねてきた。


「お嬢様……ロイ様がお見えになっておりますがいかがなさいますか?」

 侍女のアンが少し気まずそうに伺いをたててきた。


「え……」

 確かにこの国はロイの国だし、近衛騎士団副隊長ならイリーナがタイガ王子と面会した事も筒抜けだろう。

 しかし、まさか自分に逢いに来ると思ってなかったイリーナは戸惑った。

 正直、今のイリーナにはロイの事を考えられる程、心に余裕はない。


「お引取りをお願いして……」

「本当によろしいのですか?」

 いつもはそんな再確認を取らない侍女のアンにイリーナは少し驚いたがゆっくり頷いた。

 わかりましたと言って下がるアンはとても良く出来た侍女だ。

 イリーナの小さい頃から美容と健康と躾までしてきた姉のような存在だ。

 ロイへの思いの事も特別なにも話していないのに侍女アンには何故かのバレているような気がした。


 ロイ様…アルポポの本読んだかな…

 せめて帰りの姿だけでもひと目見ようとカーテンに隠れてコソッと窓の外を覗き見てると背後から声をかけられた。


「……何をしてるのですか」

「!!!!」

 イリーナは突然の男性の声にビクっと驚き飛び跳ねる。

 ゆっくり振り返ると目の前にいるはずの無いロイが笑いをこらえ苦笑していた。


「な、なんでここに!」

「貴方の侍女はとても優秀なのでご主人様にとって最良の選択をしたのでしょう」

 侍女アンよ……アナタは私をご主人様と思ってないいないのではないだろうか…

 イリーナは顔を引き攣らせてロイを見た。

 騙して喧嘩別れのような状態でロイと別れていた私は、その、とても…気まずい。


「コレを返しに来ました」

 ロイの手にはイリーナが貸したアルポポの本を持っていた。

 わざわざご丁寧に持って来なくても良かったのにと思いつつイリーナは本を受け取ろうとするがロイは本を離さない。


「タイガ王子の伽のお相手をすると聞きました」

 ロイの真っ直ぐ見つめる目がまるでイリーナを蔑んでるように思えイリーナは直視出来なかった。

 皇族の伽はいわば高級娼婦と変わらない。

 イリーナだって本当に伽をするつもりはなく、クロスを救う為にタイガとふたりきりで話す機会を作るための手段でしかなかったが、ロイはその事を知らない。

 ロイに娼婦まがいな女という目で見られるのがとても屈辱的で耐え難かった。

 ただ黙って俯いているイリーナにロイは本を手放したかと思うと、不意にイリーナの両肩を掴み壁に押し付ける。

 ドンっと少し鈍い音がして急な衝撃に驚き顔あげると目の前にロイの顔がある。

 鋭く深緑がかった瞳に吸い込まれそうだ。


「貴方は男なら誰とでも相手をする、甘い蜜があるならどこへでもフラフラ飛んでいく蝶なのでしょう?なら、私の相手も出来るだろう?」

 心臓に突き刺さる言葉にイリーナは顔を歪め歯を食いしばり拳を強く握る。

 違う……私はそんなんじゃない……

 悔しくて段々と目に涙が溜まる、それでも耐えていた。


「……私も丁度いい相手を探していた、お互い利があるではないか?」

 丁度いい相手…それは都合よく遊べる娼婦…

 イリーナはその言葉にブチ切れた。

 強く握っていた右手で力いっぱいロイの左頬を平手で叩く。

 パーンッ

 その衝撃でロイは少し頭が横にブレて目を見開き固まり左頬はジワリと赤くなっていく。

 イリーナはポロリとひと雫涙を流し口をぎゅっと閉じて真っ赤な顔をして震えていた。

 好きになった人に侮辱され悔しくて悔しくて


「わたくしは…わたしはぁ…っ」

 何か言い返したいのに、言葉が出てこない……

 真っ赤になって小さく震えるイリーナにロイの瞳は潤み愛おしそうに眺め、そっと抱きしめた。


「やめて!離して!!」

 激しく抵抗するイリーナをロイは力強く抑え込むように包み込む。


「……嫌です……貴方が噂通りの女性なら、私はこんなに苦しまなかった……初めて逢ったあの日、無邪気に本の話をする貴方に私の心を奪われました」


 暴れるのを止めてイリーナは自分の耳を疑った。

 今、なんて?

 ロイの腕の中で顔を上げるとロイはイリーナの涙を拭うように頬にくちづけを落す。


「一度は諦めようとしたのに……貴方が他の誰かのものになると思うと我慢出来なかった……」

 苦しく愛おしそうにイリーナを見つめ小さく微笑むロイにイリーナの心はギュッと締め付けられる。


「私は弄ばれてもいい。その心が私のものにならなくても、少しでも貴方のそばで貴方を感じたい」

 ロイは強引にイリーナの唇を奪った。

 熱く情熱的に息も出来ない程深く……深く……

 イリーナはその熱に自分が溶かされているようで、抵抗も出来ないまま受け入れているとロイの手がイリーナの太腿辺りに触れる。

 顔が熱く息が荒くなりボーとしていたが、そのゾワッとする感触にイリーナはハッと我を取り戻す。


「ま、ま、ま、ま、待って下さい!!!」

「はぁ。もう、これ以上焦らさない下さい。私は貴方なら遊ばれても構いません」


 ロイの上気した顔にトロンと蕩けた瞳でイリーナに懇願した。しかし、イリーナは顔を引き攣らせて全力で首を横に振る。

 いくら好きな相手でも、初めてなのにベッドもない部屋の壁際でなんで難易度が高すぎる!

 というか、無理です!


「ロ、ロイ様、お止めになって……」

 イリーナは何とかしようと抵抗するが、ロイは全く止める気がなくイリーナのスカートを上げて素足に手を掛けた。

 イリーナはビクっと反応してもうどうして良いのかわからず涙が溢れてくる。


「や、やめ……うー、ごめんなさい……ロイさまぁ、私には無理です~」

 イリーナは今まで張っていた虚勢がガラガラと崩れ普段のダメ人間なイリーナに戻り本格的に泣き出した。

 それを見たロイはそんなに嫌なのかとショックな表情を浮かべる。


「イリーナ…」

「うっうっ。違うんです……私もロイ様が好き……でも、こういうの初めてで……出来ないんですぅ」

 真っ赤な顔をして口元に手をあて泣きながら訴えるイリーナの姿にロイは一瞬キョトンとして、どんどん顔が赤くなる。


「え、でも、初めてって……え?」

「ご、ごめんなさい……」

 ロイはイリーナの太腿から手を離してそっと抱き寄せた。


「謝るのは私の方です。貴方がこんなに可愛らしいなんて気が付かなかった。大丈夫、何もしません」

「っ……ロイ様、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

 ロイはイリーナが泣き止むまで黙って抱き締めて頭を撫でていた。

 イリーナも段々と落ち着いてきて、冷静を取り戻すと自分が物凄い恥ずかしい奴だと気付き落ち込んだ。

 そんなにイリーナを見てロイはクスリと笑う。


「イリーナ嬢……どうして殿下の伽を受けたのですか?」

 少し悲しげにロイが問いかけるとイリーナの顔が曇る。


「ロイ様……助けて下さい」

 意を決してイリーナはロイに全てを話した。

 ロイは話を聞いている途中から険しい表情に変わり、イリーナの手を強く握っていた。


「なんて事だ。サクラガ商会か……イリーナすまない、我が国の事で迷惑をかけて。クロス殿の事は私が何とかします。こちらの動きがバレてはいけないから王子の件はとりあえずこのまま進めておきましょう。」

「わかりました。クロスをどうか助けて下さい」

「私が此処に来た事もおそらくジルの手下が見張っているでしょう。変に怪しまれて、こちらの行動がバレれては厄介です。イリーナ嬢協力してもらえますか?」

「へ?はぁ」

 そうイリーナが返事をするとロイはイリーナのドレスの胸元を少し乱暴に乱しだした。

 イリーナは何が起こっているのか脳みそが把握するまで時間がかかり、だんだんと顔が赤くなる。


「ななななな!何するんですか?!」

 乱れた胸元のドレスを両手で押さえながら真っ赤な顔をして抗議するイリーナに対して至って冷静なロイは小さく微笑む。


「その姿で私の帰り際を窓から見送ってもらえますか?そうすれば、ジルの見張りは勘違いすると思います」

 ほぅ、男女の逢引がありましたよ―的な感じに仕上げるってことね。

 イリーナはそういう噂は沢山流れているので此処でロイとそういう事があったと思わせる狙いだとすぐに理解した。

 イリーナが頷くとロイはイリーナの頬に手を添えて優しく微笑む。


「大丈夫。貴方は私が必ず守ります」

 まるで夢を見ているようだった。

 一度は諦めた恋が此処で叶うなんて……イリーナは仮面をつけず素直な自分の最高の笑顔をロイに向けて返事をした。

 ロイと約束した通り、少し乱れた容姿で窓からロイに手を振り見送った。


 その数日後、タイガ皇太子からの迎えがやって来た。

 侍女のアンに見送られてイリーナは一人馬車に乗せられ、煌びやかな離宮に案内された。

 そこには5人の王族付侍女が待っており、体の隅から隅まで磨かれ白く輝くシルクの衣一枚身に着け無駄に大きく豪華なベットがある部屋に案内された。

 なにもするつもりはない…ないのだが…

 イリーナは変な汗が出てきて今すぐにでも自分の屋敷に帰りたいと思った。


「もう少しでタイガ様がお見えになります。今しばらくお待ちください」

 品の良い侍女の一人が頭を下げ、部屋の隅で視線を伏せて立っている。

 イリーナは大きなベットの横でどこで待とうかと考えているとギッと扉が開く音がした。

 音がする方に目をやると、イリーナと同じシルクの衣を身に着けたタイガ王子とお付の侍女が一緒に部屋に入る。


「待たせたな」

 少し頬を赤らめ、照れてイリーナを見つめるタイガ王子にイリーナは動揺しまくっていたがそれを隠す様に俯きベットに腰を下ろした。

 それはまるで蝶がベットに誘ているかの様に見えるが、実際の所イリーナはこれからどうしようかと悩み疲れ腰を下ろしただけだった。


「お前たちは下がれ」

 タイガ王子の言葉に侍女の二人は扉の外に消えるとタイガ王子はゆっくりとイリーナの元に歩み寄る。


展開的にどうだろうと思いつつまーいいかと…

あまりにあっけなく二人が両想いになってしまった感が作者としても残念ですw

最後まで読んで頂きありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ