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第十五話

 ランチを終えてレストランを出た時には、すでに一時半を回っていた。ランチに二時間近くかけちゃったのか。ちょっと高いランチは、確かに美味しかった。小学生だけでは入れなさそうな雰囲気のお店も、居心地が良かった。それにしても、サービスが遅かったわけでもないお店に二時間近く。しおんと駄弁ってると妙に時間の流れが速いことがあるけど、そんな感じだった。


 お姉ちゃんと帰宅すると、早速プレゼント作りに取り掛かる。あたしの書いた完成図は、写真立ての下のフレーム部分に紫苑の花、左右にテニスボールとラケット、上部に雲とお日様。それをもとに、お姉ちゃんがフェルトに直接下書きを書いて、あたしが切り抜く。下書きが終わると、お姉ちゃんはフェルトにテニスラケットやボールの模様を刺繍してくれた。さすがに早い。あたしは切り抜きが終わると、紫苑の花びらにあたる紫色のフェルトの真ん中に黄色いフェルトをボンドで張り付けていく。パーツの作成が終わると、写真立てのフレーム部分に水色のフェルトを張り付けて、その上に各パーツを張り付けて完成だ。


「ゆうり、おつかれ。あとはボンドが乾くのを待つだけだね」


「うん、まあまあの出来、だよね?」


 あたし的には、なかなかだと思う。


「いいと思うよ。明日、出かける前に包装しよう」


「じゃあ、ウィッグ取っていい?」


「しょうがないなあ」


 それを肯定と受け取ったあたしはウィッグに手を掛けた。


「ねえ、ゆうり」


「なに?」


 あれ? まだダメだった?


「また、一緒に買い物行こうね」


「うん」


 今日のお姉ちゃんは何か情緒不安定だから同意しておいた。




 ウィッグとダテメガネを外し、部屋に戻ってTシャツとハーフパンツに着替えたおれは、机の上を見て愕然とした。なにやらファンシーな文房具とヘアコロン。うん、買い物に行くとテンション上がって不必要なものを買っちゃうことって、よくあるよね。それにしても、我ながらヒドいチョイスだな。まあ、ヘアコロンのお金を払ったのはお姉ちゃんだし、返品しちゃおう。ついでに文房具も押し付けちゃおう。


 再びお姉ちゃんの部屋のドアをノックする。すぐに「どぞー」と声がしたので中に入る。


「どしたの?」


「なんか余計なモン買っちゃったから、あげる」


 そういって、お姉ちゃんに文房具とヘアコロンを渡す。


「……やっぱりねぇ」


 お姉ちゃんはなにやら残念そうな顔をしてつぶやいた。




 翌日。


 ショートスリーブの白いTシャツにデニムのホットパンツ姿になったあたしは、ウィッグに昨日買ったヘアコロンを吹き付けられた。シャンプーみたいな、いいにおい。


「ゆうり、ホントにこれ、いらないの?」


 お姉ちゃんがヘアコロンを手に持ったまま聞く。


 いらないかと言われれば、いらなくはない。てか、欲しい。なんで昨日「あげる」なんて言ったんだろう。でも、共用にするつもりだったんだから、お姉ちゃんが持っててもいいか。


「いるけど、二人で使うんだからお姉ちゃんが持っててよ」


「そか」


 お姉ちゃんが満足げにうなづく。


 そして昨日作った写真立てに、あたしとしおんの写った写真を入れ、包装紙でラッピングする。よし、プレゼントっぽくなった。


「じゃ、お姉ちゃん、行ってくるね」


「ん、行ってらっしゃい」


 あたしが手を振ると、お姉ちゃんも手を振り返した。




 午後一時前、いつもの待ち合わせ場所になっているクレア公園に着くと、しおんはすでにベンチに座って待っていた。


「ひさしぶりー。元気だった?」


 あたしが手を振りながら言うと、しおんは


「うん。ほんとひさしぶり。一ケ月は長いよー」


 とうんざりしたように言った。


「あはは。暑いからファミレスでも行こうよ」


 少し歩いて、ファミレスと言ってもファストフードと似たような価格帯のチェーン店に入る。デザートとドリンクバーでぎりぎり五百円以内。それでもあたし的にはちょっと贅沢な時間だ。しおんも同じような感覚なんじゃないかな、たぶん。


 ドリンクバーから、あたしはコーラ、しおんはオレンジジュースを持ってきた。一息ついたところで、持ってきたプレゼントを取り出す。


「しおんちゃん、これ、バースデープレゼント」


「え? わたし、明日誕生日って言ったっけ?」


「聞いてないけど、テニス教室の申込書に書いてあったの見ちゃった。イヤだった?」


「ううん、うれしい。開けてもいい?」


「もちろん」


 しおんは丁寧に包装紙を開き、写真立てを手に取った。


「ゆうりちゃん、かわいい」


 しおんがクスッと笑いながら言う。


「かわいくないよ。あたし寝てるじゃん」


「写真立ては、手作り?」


「うん。お姉ちゃんに手伝ってもらったけど」


「かわいく出来てる。ありがとう、大切にするね」


 どうやら気に入ってもらえたみたい。中に入っている写真は、まあ、そのうち撮りなおそう。




 それから半月ほどたったある日、おれが登校すると中村が楽し気に話しかけてきた。


「なあなあ、知ってるか?」


「なにを?」


「最近、この辺で古谷のことを聞いて回ってるヤツがいるんだって。高校生くらいの男らしいぜ」


「なんだそりゃ。不審者か?」


「わかんねーけどな。あいつ、高校生にまでケンカ吹っ掛けたんじゃね?」


 しおんの席の方を見ると、しおんはまだ登校していなかった。



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