第一話
初投稿です。
お目汚しで恐縮ですが、お読みいただければ幸いです。
って、前書き堅いなー。
「悠太、行ったぞー!」
おれが声のした方を見ると、ピンク色のビニールボールが転がってきた。とっさに持っていた箒で、それを声の主へ打ち返す。声の主である幼馴染の中村もそれを打ち返し、昼下がりの清掃時間は急遽ホッケーの時間になった。
「なに遊んでんのよっ!」
背後から女子の怒声。やべ、古谷だ。
「遊んでんじゃねーよ。ホッケーだよホッケー」
よせばいいのに中村が言い返す。
「それを遊んでるって言ってるの!」
「はぁ? ちゃんと掃いてるじゃねえか」
「ゴミを散らかしただけでしょ!」
おれと中村の男子二人と古谷ほか女子二人の計五人は、校舎三階にある体育館前廊下の清掃担当だ。そして、清掃時間もそろそろ終わりという頃に事件は起こった。中村がたまたま転がっていたビニールボールを見つけてしまったのだ。
「ゴミが無くなれば文句ねえだろ!」
「チリトリに集めて捨てるまでが清掃なの!」
中村も持論を展開しているが、どうみても分が悪い。
「悠太も何か言ってやれよ!」
中村は案の定、こっちに振ってきた。と、そこでキーンコーン……と清掃時間終了のチャイムが鳴った。
「先生に言いつけてやるからっ!」
古谷はそう言い残すと、ほかの女子二人とともに清掃用具を片付けて校舎へと戻って行った。
「あー、あいつ本気で言いつける気だぞ」
おれは箒をロッカーに仕舞いながら言う。
「かまわねえよ! ホントあいつムカつくよな!」
憤懣やる方ない感じの中村。持っていた箒をロッカーに投げ入れると、乱暴に扉を閉めた。中村は背が高く、お坊ちゃん風で顔もいい方、多少やんちゃだけど性格は悪くないはずなのだが、なぜか古谷とは相性が悪かった。
訂正しよう。「なぜか」ではない。なぜなら古谷は大の男嫌いで、古谷と相性のいい男子なんていないからだ。その古谷は去年の終わりごろに突然転入してきた。なにが突然なのかと言うと、二学期の途中の平日に転入してきたからだ。おれの感覚では、転入生は学年の初めとか学期の初めとかに転入してくるものだと思っていた。古谷は平均より高めの身長にショートヘア、そしていつもロングパンツだったから一見男子のようにも見えた。もともと口数の少ない子だったけど、特に男子とは一切口を利かなかった。たまに男子に向かって発せられる言葉は、怒声か罵声だった。
おれは芳野悠太、十一歳。初雁市立南小学校六年三組。もちろん中村と古谷は同じクラス。背の順に並んで男子では二番目。つまり背は低い。でも去年は「前へ倣え」で腰に手を当てていた。今年は前に倣う立場になっただけマシだ。他にこれといった特徴はないけれど、断れない性格のせいか、いろいろと巻き込まれやすい体質だと思う。
そして今日も。
放課後、おれと中村は担任の先生に指導室へ呼び出された。そしてたっぷりお説教をくらった。
今日の掃除の時間中、おれと中村はずっとボール遊びをしていたと先生には報告されていた。盛りすぎだろ。その他にも学校の帰りにジュースを買って飲んでいたとか、市長選挙のポスターに落書きしていたとか、今回の件とは関係ないことまで怒られた。古谷がチクったのか? 何で知ってたんだ。
三十分近くも怒られたあと、おれと中村はそれぞれ一発ゲンコツを食らってやっと解放された。これって体罰じゃないの?
「いやー、今日は長かったな」
すでに誰もいなくなった教室に戻ると、中村が伸びをしながら言った。
「長かったなじゃねえよ。ジュースとかポスターとか、おれ、関係ないじゃん」
「いやいや、止めなかったんだから同罪だろ」
「じゃあ今度から止めてやるよ」
「お? 何? 悠太って古谷側の人間なワケ?」
正直、中村と古谷だったら、古谷の言ってることの方が正しい。でも、古谷側かと言われるとちょっとなあ?
「そうじゃないけど。お前のせいでせっかくのゴールデンウィーク気分が台無しなんだよ」
そう、明日から連休で今日は気分が良かったのに。別に何の予定もないけど。
「そこは気分を切り替えていこうぜ!」
そう言うと中村はランドセルを背負った。
「そうだな。さっさと帰ろう」
おれもランドセルを背負うと、二人で教室を後にした。