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幻想郷で、バスケの頂点目指します  作者: local
第3Q ~三日の準備期間~
9/13

Episode-7 がっかりさせないでよ?

『Episode-7 がっかりさせないでよ?』お待たせ致しました!


執筆の途中でブラウザフリーズが発生し、書いていた物が消滅したというアクシデントもありましたが、何とか書き終わりました!


では、本編をどうぞ!

 


 ここは幻想郷。人間、妖怪、神といったありとあらゆる種族が生息している。


 鬱蒼と茂る森林、果てしなく連なる山々、現代の地球では見ることが出来ない光景が、見渡す限りに続いていた。

 唯一違いを見せず、周囲を優しく照らしていた太陽は、一日の仕事を終えるようにその神々しい姿を山の向こうに隠した。



 その夕焼けが美しい幻想郷につい最近仲間入りした女顔のコンプレックスを持つ少年、桜雷秀おうらいしゅうが、博麗神社に建てられたコートにて自主練習をしていた。


 たとえ一人でも決して手を抜かないその姿を、この神社の巫女、博麗霊夢はくれいれいむが見詰めている。

 脇の部分が無い、紅白色の巫女服を着ている彼女は、縁側でお茶を啜りながらげんなりとした表情を浮かべた。



「良くもまぁ、そんなに長々と練習していられるわね………」



 霊夢の言葉に、秀は不敵に微笑む。その表情には余裕さが滲み出ていた。



「そりゃな、招待された客でいるつもりはさらさら無いし。………そう言う霊夢もさっきまで練習してたじゃないか、お互い様だよ」



「それでもあんたの練習量は異常よ。食事、手伝い、睡眠以外の時間は全てバスケットに使ってるじゃない。そろそろ止めたらどうなの?」



「いや、もう少しだけやるよ。もう少しで、ドライブコンビネーションのコツがつかめそうなんだ」



 その言葉に、霊夢はやれやれと肩を竦めた。


 いくら言っても練習を続けようとする秀。そんな彼を見ていた霊夢は、呆れとは別物の、不思議な感情が沸いていることに気づいた。


 呆れを通り越してしまったからなのか、最初から抱いていたものなのか、それははっきりとしない。だが、この感情が心の中に存在するのは確かだ。


 それは、純粋な『敬意』の感情だった。自分とは明らかに違う努力の量、妖怪と比べたら遥かに少ない寿命の中で、こんなに多くの時間を費やせるバスケットに対する覚悟。それは霊夢の遥かに上をいっている。


 ………だが、それでも私は………


 霊夢は自分の中にある、誰にも負けない武器の存在に、笑みと共に言葉を溢した。



「………負けないわ、『これ』がある限り絶対、誰にもね………」



 ボールを突いていたのにも関わらず、霊夢の言葉に反応した秀が首を傾げる。



「今、何か言ったか?」



 その聴力の良さに驚かされた霊夢だったが、すぐに自分の調子を取り戻し、やんわりと話を転換させる。



「いいえ、何でもないわ。それより、もう夜ご飯にするからお風呂に入ってきなさいよ」



「………ああ、分かった」



 秀の本能はまだまだ練習し足りないと騒ぎ出していたが、それと同時に空腹にも襲われつつあった。腹が減っては戦はできぬ、秀は大人しく風呂場へと向かうことにした。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 脱衣場で服を脱ぎ、秀は風呂場に足を踏み入れる。


 石畳の綺麗に整頓された風呂場には、独り暮らしにしては大きめの、木製の風呂が佇んでいた。プラスチックの浴槽ばかり入ってきた秀にとって、その存在は新鮮なものであり興味を引かれた。


 この幻想郷には電気も、ガス管も、水道管も通っていないという話を、秀は紫から聞いていた。


 五右衛門風呂や鉄砲風呂辺りを予想していた秀は、この『長方形の木製浴槽』の登場に、驚きを隠せなかった。



「………どうやって風呂を沸かしてるんだ?」



 気になって仕方がなくなった秀は、浴槽を色々な角度から観察し始めた。すると、浴槽の側面にお札のような物を発見することが出来た。


 これが紫の言っていた『霊力』という力なのだろうか。


 この霊力の他にも、『妖力』、『魔力』、『神力』等といった、あちらの世界では考えられない原理が存在しているらしい。この力はこのように、日常生活にも活かすことが出来るようだ。


 秀の興味は計り知れないほどに大きくなっていた。このままでは、それらを知る為に旅に出てしまうかも知れない。秀は、興奮もそこそこに、風呂に入るため体を洗い始めた。






 体をある程度洗った後、風呂の湯に湯に浸かる。疲れた体を程よい温かさが包み、とても心地良い。

 彼の体に溜まった疲れは癒されていたが、心に巣くった『外の世界への心残り』だけは癒されなかった。


 紫の家で大胆発言をして、確実に吹っ切れたはずだった。

 しかし、時間の経過に比例し、どんどん膨れ上がってくる不安感。それは、秀の心を滅入らせるには充分過ぎる程、大きなものとなっていた。



「………ふぅ、情けない………キャプテンがこの様じゃ駄目だな………」



 秀は自身の頬を、両手で思いっきり叩いた。風呂場にバシッと鋭い音が響く。

 頬への痛みを堪え、秀は気持ちを整理させる。痛みが引いた頃、彼の心はもう完全に前を向いていた。



「………絶対に頂点を掴み取ってやる。………そして絶対に、アンタを越えて見せるさ………」



 ギュッと握り締めた手に強い思いを込めながら、秀は風呂から上がり、風呂場を後にするための支度を始めた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 秀が風呂に入っている間に、作った料理をちゃぶ台に並べていた霊夢の動きがピタリと止まる。その視線の先にはある物が置いてあった。


 秀の手荷物である黒色のデイパック、ゆかりが外の世界から持ってきた物だ。


 外の世界から来た者達をこちらでは『外来人とらいじん』と呼んでいる。その外来人の数は決して多くなく、幻想郷の住民からすれば、外の世界の物はとても珍しい存在なのだ。


 当然、デイパックなど見たことがない霊夢は、その佇む姿に興味を引かれていた。



「………ちょっと見るだけなら、別に問題ないわよね………?」



 霊夢は自分自身に言い聞かせる様に呟き、ふつふつと沸き上がる好奇心に身を委ね、デイパックを手に持ちじろじろと観察し始めた。


 見る限り物を入れる道具らしいが、何とも不思議な形をしている。同じ物を運ぶ際に使う、風呂敷とは似てもつかない新鮮なフォルム。

 霊夢が滅多に抱かない好奇心は膨れ上がり、その内に見るだけでは満足しなくなっていた。



「………この中はどうなっているのかしら………」



 デイパックの前に付いているポケットに手を掛けるが、開け方が分からない。

 押してみたり、引いてみたり等の試行錯誤を繰り返すこと三十秒。霊夢は強敵の『チャック』の存在に打ち勝ち、前ポケットを開けること成功する。



 そこから出てきたのは、黒色のロングリストバンドだった。



 15㎝程の長さを持つそれは、全くと言って良いほど使われていないらしく、特に大きなほつれは見当たらなかった。



「新品?………何故使わないの………?」



 まだまだ入るスペースのある前ポケットに、秀はこれしか入れていなかった。すなわち、このリストバンドは秀にとって、大切な物ということに繋がる。


 仮設を立てながら観察していた霊夢は、そのリストバンドに施された刺繍を見つけた。『T.K』と筆記体で縫われている。


 とても綺麗な出来だということは分かるが、ローマ字など見たこともない霊夢にはただの模様にしか見えていなかった。



「………模様まで入れる物を何故………?」



「何してるんだ、霊夢」



 背後からの唐突な声に、霊夢の体はびくりと震えた。振り返り声の主、秀の姿を見た霊夢は、思わず呆然としてしまう。



「………あんた、誰?」



 霊夢が面白半分で貸した、女物の浴衣を律儀に着ている秀。今まで無造作風に跳ねさせられていた髪の毛は、風呂で濡れたことにより本来の姿を取り戻し、光の様なサラサラとしたストレートヘアになっている。


 これらの変化が重なり、秀はもう『可愛い少女』にしか見えなくなっていた。



「誰って………俺は秀だ。三日間泊めさせて貰っている、桜雷秀。この短時間で忘れたのか?」



「いや、覚えてるけど………本当に可愛い顔してるのね。普段の格好でも見えちゃうけど、髪形と服も変えたらもう女子にしか見えないわ」



 霊夢の言葉に、秀は完全に不機嫌になっていた。怒りを叫ぶまでには至らなかったが、後もう少しで爆発しそうなことが、秀の険しくなる表情から容易に読み取ることが出来た。



「まあまあ、そんな顔しないで。じゃあさっさと準備して、ご飯にしちゃいましょうか」



 霊夢は観察していたリストバンドを前ポケットにそさくさと隠すと、手を止めていた準備を再開させる。


 まるで、その場を取り繕うかの様な霊夢の態度に、小首を傾げる秀だったが、腹が減り過ぎて詳しく追及する気力すらも残っていない。仕方がなくなった秀は、霊夢と共にご飯仕度を整える。



 準備を終えた二人は、手を合わせて食事の挨拶を済ませると、それぞれのペースで料理に手をつけ始めた。


 食卓に並んでいたのは、野菜炒め、焼き魚、白米、味噌汁という、ありふれたものだったが、味は申し分無かった。


 やはり食材の質が違うのか、一つ一つの材料が新鮮で、とても良い味を出している。材料もそうだが、調理する側も相当にレベルが高いこと分かる。



「………旨い、物凄く旨い………」



 思わずぽろりと溢れた秀の感想を、霊夢は微笑みながら素直に受け止める。



「ありがと、今回は自信があったからね。中々の出来でしょ?」



「中々どころじゃないさ。店で出ててもおかしくないレベルだ。最高だよ」



 秀のハイテンション褒めに、「そ、そんなにおだてても、何も出ないわよ………」と、赤面しながら呟く霊夢。


 そんな取るに足らない会話を繰り広げること10分。腹が膨れ、考える気力も回復してきた秀は、ずっと合点がいかなかった件について訊いてみることにした。



「なぁ、霊夢。聞きたいことがあるんだ。『幻想祭は今年で何回目か』、『何故幻想祭の前に、新人戦を開くことになった』の二つなんだが………教えてくれるか?」



 唐突の真面目な質問に、霊夢は目を見開く。秀の表情をじっくりと見詰めた後に箸を置き、眉をひそめながら腕を組んだ。



「………分かった、別に教えて困ることじゃないからね。まず一つ目だけど、幻想祭は今年で第五回目。因みに新人戦は、幻想祭が第三回目の時から導入された大会らしいわ」



 霊夢は聞かれた内容を中心に、丁寧に答えていく。



「そして二つ目、残念ながら、私には良く分からない。あのスキマ妖怪のことだから、何か裏はあるんでしょうけどね………」



「………そうか」



 その言葉に顔色を暗くする秀。しかし霊夢はそれだけでは終わらず、「でも、私の推測であえて言うなら」と軽く前置きをしてから、自分なりの意見を話し始めた。



「幻想祭の第四回大会が終わった後、紫から幻想祭を開いた経緯を聞く機会があったの。聞く前は単なる暇潰しだと思ってたんだけど、予想以上に重たい理由でね………あいつなりの覚悟があったことを知ったわ」



 悲しげに目を伏せる霊夢。秀はその姿を見るだけで、事の重さが理解することが出来た。


 霊夢は固く目を閉じたまま、話を続ける。



「当然、人数整理の目的も兼ねてるかも知れない。だけど、私はそこまでの覚悟を無下にしたくはない筈よ。

どうせやるなら、実力の高い選手を集め、クオリティの高い大会にして、もっと沢山の輩をバスケに熱中させたいと思ったんじゃないかしら?」



「なるほどな、確かにそれは充分にあり得る。………流石は博麗の巫女と言ったところだな。回りを見てないようで、良く理解している」



 その言葉に博麗の巫女は、心外だとでも言うように肩を竦めた。



「そりゃそうよ。そうしないと、この世界では生きていけないわ」



 今は変わりつつあるが、元々は弱肉強食の厳しい世界、丁寧に生きていく術を教えてくれる者など、雀の涙ほどしか存在しないだろう。

 霊夢はそんな過酷な状況の中で、今この瞬間まで生き抜いてきた。その過程で手にした『誇り』、それは彼女の心の中で、静かながらも力強く存在していた。



「………これで分かった筈よ。貴方達は、そんな重い覚悟やら誓いやらを持つ奴等の壁を、越えていかなくちゃいけないのよ。生半可な気持ちで挑んでも、瞬殺されるだけよ」



「………分かってる。それに、こっちは外の世界での生活を捨てて、ここまで来たんだ」



 秀は、っすぐ霊夢を見捉えながら、口の端を上げて不敵に笑った。



「安っぽい覚悟で通れる道なら………拍子抜けも良いところだ」



 その強気な姿勢を見て、少なからず安心した霊夢は同じように不敵に笑い返し、



「………がっかりさせないでよ?」



 とだけ言い残すと、食べ終わった皿を持ち台所に向かって歩き始めた。霊夢の姿が完全見えなくなった時、秀は右の拳を固く握り締め、虚空に突き出す。



「そう、絶対に越えるんだ。だから、どっかで見てろよ………」



 熱意がこもった拳とは裏腹に、秀の目は冷たく冴えていた。





「………この裏切り者が………」






いかがだったでしょうか?

生活回です。書いててとても楽しかったです(笑)


今回は、初めての『三人称視点』ということで執筆させて頂いたのですが、どうでしたでしょうか?

はっきり言って、自信がありません。正しく表現できているのか、とても不安です。

もし宜しかったら、アドバイスの程を宜しくお願い致します!



そしてお知らせです。

当作品のpv.5000、ユニーク数.2800を突破致しました!

評価数も増え、ブックマークは10件を突破………本当に嬉しいです………(嬉し泣)


今後とも、当作品を宜しくお願い致します!



次回予告コーナー!!

準備期間二日目、和成と魔理沙、二人のお昼時の生活を覗く!


お昼時、ということは………!?



次回も閲覧、お願い致します!

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