Episode-5 マタコレカ
『Episode-5 マタコレカ』お待たせ致しました。
受験終わっても時間が無い………キツいですね、以外とこの時期………
ですが、まだ春休みが残っています!そこで挽回します!
では、本編をどうぞ
「……ということだから、大会に参加してほしいって訳だ。どうだ和成、分かったか?」
「うー……何となくは分かったけど……話がぶっ飛びすぎだろ……」
日が昇り、着々とお昼時に近づいてきているバスケットコートの中。俺《秀》は、和成の説明を終えて一息ついていた。
先程まとめた時も思ったが、この話は結構長い。説明する側も疲れることをようやく理解できた。
俺が気持ちを理解した相手、八雲紫は本日二度目であろう、驚愕の表情を見せた。
「な、なんて分かりやすい説明なの……さっきも見せてもらったけど、底無しの対話術ね。まさか『あの』和成君に理解させるなんて……」
「……心なしか『あの』が強調されてたような……」
遠回しに馬鹿にされたことに気付き、和成はふくれっ面で不平を漏らした。そこに気づける分、まだまだ救いはあるのだろう。
「で、和成はどう思うんだ?……大会に参加するのか?けど大会に参加したら……」
しばらく帰れない
説明の時はすんなりと出てきた言葉が、今は出てこなくなっていた。説明の意味を一つ一つ理解するたび、この言葉が俺を苦しめてくる。
どうすればいい、と焦る気持ちを抑えつけ和成の返答を待った。だが、待つと言っても答えは分かっているようなものだった。
和成は本能に従って行動する癖がある。よっぽどのことがない限り、理性は信用しないらしい。
あのバスケ馬鹿の本能は何か、その答えはすぐそこにある。和成は考える素振りを3秒ほど見せた後、明るい笑顔で言い放った。
「出ようぜ!てか、出るしかないって!」
にかっと効果音が聞こえてきそうなほど、良い笑顔でそう言った和成。
予想通り過ぎる和成の回答に、俺と紫はお互い別々の感情を露にした。
「………あのなぁ、この状況分かってるのか?」
「流石和成君!そう言うと思ってたわ♪」
本能のまま縛られずに行動している和成には、いつも振り回されてきた。当然そのたびに面倒臭いと思っていたし、正直付き合うのを止めてしまいたいと思った時もあった。
そんな馬鹿に、どうして………
「憧れたんだろうな……俺は……」
ボソッと漏れた本音を、聞き逃してくれるような二人ではなく、
「「憧れた?誰に?」」
と、同時に質問されてしまった。
「あ、いや、何でもないよ。気にしないで」
俺が慌てつつも、迅速に取り繕ったのが効いたのか、二人は首をかしげながらも深くは追求してこなかった。
何とか回避したのも束の間、『和成にもっと深く考えさせる』という大事に気づいた俺は、そのための策を脳内で練り始める。
あの単純な和成に考えさせるためには、やはり一番単純な手が一番効くはず。
その単純な手、それにはもう心当たりがあった。要は和成の大事なものを盾に取れば良いだけだ。
………正直この手を使うのは気が引けるが、今一番有効なカードはこれしかない。俺は意を決して、カードを切る為に口を開いた。
「………なぁ、和成、良く考えてみろ。今ここに留まったら、友達や先輩は勿論、東風谷ともしばらく会えなくなるんだぞ?」
唐突な切り札の登場に、和成は、うっ!と言葉を詰まらせた。彼女Loveな和成は、この手の話に滅法弱い。話の内容に『東風谷』という単語が入ると、あたふたと慌て始めてしまう。
しかし、今回は勝手が違った。
「………そ、そうだよな、確かに美琴と会えなく………どうすれば良いんだ………」
そこには、頭を抱えながら負のオーラと共にぶつぶつと言葉を発している和成の姿があったのだ。
この光景を見た俺と紫の体には、戦慄が走っていた。
「「………こ、効果抜群だ………」」
『会えない』というイレギュラーが加わるだけで、ここまで弱点が刺激されるとは、正直予想外だった。
何時もならこの反応を見て、ニヤニヤと笑いながら楽しんでいるところだが、今はそうもいかない。
戦慄の際に沸いた罪悪感をどう対処したら良いのか、和成をどう立ち直させれば良いのか。脳内議論が最高潮に達したとき、背後から声が上がる。
「和成、どうやら東風谷さんも幻想入りしているようだよ?」
聞くものを安心させる柔らかな声が、俺達の耳に優しく響いた。これはいつも俺達が聞いていた者の声、常にハイスピードで繰り広げられるバスケットの選手とは思えない程の、優しすぎる声だ。
俺と和成は突如の声に驚き、ガバッと勢い良く後ろを振り向いた。
サラサラとしたストレートヘアを風に靡かせ、綺麗に整ったその顔にはにっこりと笑みを浮かべている。
191㎝の長身を誇る、Cらしい立派な体は、見るもの全員に不動の威圧感を与えていた。
「光、ここにいたのか。道理で来ないはずだな………」
「おい、秀!まだそこじゃないだろ!?光!あいつ、美琴がどうしたって!?」
俺が光との再開シーンを続行させようとすると、和成が驚愕の顔でそれを制し、光に食って掛かる。その顔は、和成の本気度を表していた。
光は、「とにかく、落ち着いてよ。和成」と和成を宥める。幾分か落ち着いたのを確認した光は、コホンと咳払いをしてから、東風谷のことについて話し始めた。
「さっき藍さんから聞いた話だと、最近は俺達三人のように幻想入りしている人間が増えているそうなんだ。
どれくらいの人が幻想入りしたのか、それはまだ正確には把握してないらしいけど、東風谷さんは間違いなくこの幻想郷にいるって」
「じゃあ、美琴に会えなくなるってことは無いんだな!!」
和成が目を輝かせながら、万歳!と叫び出した。和成の件に関しては『和成が立ち直って良かった』と素直に喜んだが、状況的には何も良くなっていない。むしろ悪い方に進んでしまっている。
光のせいだ………と恨めしげに光を睨む。その時、俺はふと光の説明に疑問を持った。
光は先程、『藍さんから聞いた話だと』と言っていたが、その藍とは誰なのだろう。この八雲家の住民か?
訊くのが一番と判断した俺は、光に疑問をぶつけた。
「なぁ、光。さっき藍って言ってたけど、それって誰だ?」
俺の質問にビクッと体を震わせた光。その行動に、1つの心当たりを見つけたちょうどその時、光の後ろからまた新たな人物が2人現れた。
1人は短く切り揃えられた金髪の上に、2つの尖りがあるZUN帽子を乗せ、白のロングスカートと青い前掛けを合わせた、大人のという印象を持たせるような美しい容姿だ。
どうやら紫と同じ『妖怪』らしく、服の上からでも分かるその見事なプロポーションの体に、沢山の狐尻尾がふわふわと付いていた。数えてみると9本程付いていることが分かる。
これが俗に言う『九尾の狐』という妖怪なのか。
2人目は、セミロングの茶髪が綺麗な9歳ほどの少女だった。赤いベストに赤いスカートを身にまとい、首元に蝶結びのリボンをつけ、頭には緑のZUN帽をかぶっていて、ZUN帽子の横からひょこっと生えている猫耳と、ふよふよと左右に動く2本の猫尻尾を見る限り、この子も妖怪なのだろう。
狐尻尾の妖怪は俺達を見るなり柔らかい笑顔を向け、猫耳の少女は沢山の狐尻尾に埋もれ、俺達から逃げるように隠れてしまった。
「君達が秀君と和成君だな?話は光と紫様から聞いているぞ。私は八雲藍、藍とでも呼んでくれ。こっちの隠れてるのは橙、この子は人見知りでな、決して嫌ってるわけではないからな」
「ご丁寧にどうも、桜雷秀です。こっちは鈴木和成、この子は馬鹿です」
「馬鹿って言うなぁっ!!」
完全に立ち直った和成が叫び、辺りは笑いの渦に包まれた。
こんな思い切り笑ったのは久し振りだった。先輩達を勝たせなくてはいけないという重圧に追われながらの活動、俺達はいつの間にか心から笑えなくなっていたようだ。
ここにいたら、幾分か楽になるかも知れない。しかし、ここで逃げ出したら回りに多大な迷惑になるに違いない。
そんな考えが顔に出ていたのか、光が俺を見てやんわりと微笑みを浮かべた。
「そんな深く考えることないよ。秀も説明を聞いたなら分かってるとは思うけど、オレ達はここにいた方が良い、いいや、『いるべき』なんだ。そうだろう?」
俺は光の言った意味を良く理解していた。理解していたが、その事から逃げてたのだ。俺達がとても『特別』な存在にあること、それを認めたくなかっただけだ。
俺は目を伏せ、覚悟を決める為に自分に言い聞かせる。もう逃げてはいけない、この状況を受け入れるしかないのだ。
「………あぁ、そうだな。ありがとう、光。ただ………」
俺は目を開け、光の方に向き直る。光はコートのフェンスに逃げるように寄りかかり、俺達、正確には藍さんと紫から8メートルほど距離を空けていた。
「もう少し、近くで喋ってくれないか?」
俺が言うと、光はフッと笑い前髪をさらりと整える。この前髪を整える仕草、これは光が女性による恐怖を隠そうとしているときにする、癖の1つなのだ。
「……秀、オレに死ねといっているの?」
「………そ、そこまで苦手なのか………何故か少し傷ついたな………」
そう言った藍を含む女性全員が、その言葉を肯定するように頷いた。
その姿を見て、あわあわと慌て始める光。どうやら罪悪感はしっかりと働いているらしいが、それでも光は近づけない様でガックリと項垂れている。
………流石に可哀想に思えてきたので、後で説明しておいてやろう、そんなことを思っていた俺をじーっと見詰める藍。まるで品定めでもするかのように、じろじろと俺を見ているので、思わずたじろいてしまう。
俺に何か付いているのだろうか?
「あ、あのー、俺に何か?」
思い切って訊いてみると、藍はいかにも不思議といった表情で、俺を見ながら答えた。
「あ、ああ、ちょっとな。何故光は君を見ても大丈夫なのだろうか、とふと思ったんだ」
「………え」
「………えって………君、女の子だろ?光の範囲内じゃないか」
………マタコレカ
俺は思わずわなわなと震え出してしまう。紫、和成、光が震える俺を見て、ハッと声を出した。状況を全く理解できていない藍と橙は、首を傾げ不思議そうにしている。
「ま、不味い!禁句の類いのモノが出てしまった!」
「駄目!これ以上刺激しては駄目だよ!!」
「ま、まだ、まだなんとかなるはずよ!早く手を打たないと!」
わたわたと慌てる3人を見て、ますます不思議そうにする2人。まだ俺の震えは止まらない。
3人が焦りすぎて、どうしたいいんだー!と叫び始めたその時、今まで藍の後ろに隠れていた橙が、トテトテと駆け出したのだ。呆然として叫ぶのを止めた和成達の横を通り抜け、俺の前で足を止め、
「………おねーさん、震えてるけど、大丈夫?」
と、声をかけた。
その瞬間、ピタリと俺の震えが止まった。和成達が崩れ落ち「終わった………」と頭を抱え、藍はその光景にさらに呆然としていた。
「………ははっ、そうか。見えちゃうんだな、やっぱ。髪型変えても、言動も行動も男らしくしてるのに………この顔のせいで………」
目に涙を浮かべながら、俺は天を仰ぐ。刹那、驚いて目が丸くなっている筈の5人の顔を見ることもなく、俺はコートに崩れ落ちてしまった。
段々と目の前が暗くなる、どうやら俺は気絶するようだ。
恐らく、俺のプライドが砕け散った衝撃で、意識を保つことが出来なくなったのだろう。
物凄く意味不明な気絶理由で、俺の意識は暗黙の彼方に沈んでいった………
いかがでしたでしょうか?今回もバスケしなかったです、タイトル詐欺です。
まぁ、それはさておき、今回はとうとう光が登場しました!長かったです。天然でのほほんとしたキャラのつもりで出しましたが………どうでしょうか?ちゃんと天然してますかね?
東方キャラも二人登場しましたし、段々と濃くなっていく内容にテンション上がりっぱなしです。
秀君はショックで気絶………新たに判明した、秀のお茶目(?)な一面が見えましたね。とことん女と言われるのが嫌いな秀君。個人的には凄く好きです(笑)
そしてお知らせです。
当作品のpv、4000を突破致しました!本当にありがとうございます!評価も色々な方からしてもらえて、嬉しい限りです!
今後とも、どうかこの作品を宜しくお願い致します!
次回予告コーナー!(コーナーにしてしまいました)
屈辱という名の心の傷をどうにか完治させた秀は、幻想郷に留まることを決意!?
幻想郷のバスケ大会は、『幻想祭』の他にもう1つ大会があった!?
(追伸.次回予告って、大幅なネタバレにならないようにするのが難しいです)
次回をお楽しみに!是非閲覧してください!!