Episode-2. 圧倒的に
皆様!メリークリスマス!Episode-2です!!
今日、この投稿日は12月25日、すなわちクリスマス投稿です!!
何とか間に合いました。詳しいことは、活動内容にてお話しさせて頂きます!
では、本文をどうぞ!
突然に吹いてきた風によって、揺れる木々の音が静かだったバスケットコートに響く。
そして、風と同じように突然現れた《恐怖》という感覚に、動けなくなってしまった俺と和成は、その事を隠すように少女を睨み続けていた。
しかし、少女はいくら俺達が睨んでも、妖艶な笑みで返すだけ。このような状態が先程から続いていた。
どれくらい時間がたったのだろう、恐怖で焦る頭を無理矢理動かして考える。短い時間であるはずなのに、それでも俺たち2人には長く感じられた。辺りは依然として、少女が出す鋭い雰囲気に包まれているからである。
「ねぇ、返事を待ってるんだけど、やるの?やらないの?」
痺れを切らした様子の少女が俺に話しかけてきた。その表情は今だ変わらず、余裕の色が見える。
すると、もう慣れてしまったのか、恐怖をひた隠そうとしているのか、
定かではないが、和成が普段と同じように少女の言葉に返答する。
「おいおい、いきなり脅かしといて、自己紹介も無しに『私と賭けバスケしないかしら?』だぁ? 礼儀知らずもいいとこだぜ、全く……」
口調や声色はいつもと変わりはない、いつもの強気な態度の和成だ。第三者から見ても、全く変わりはない様に見えるだろう。
しかし、俺は和成の態度に違和感を感じていた。今まで長いことこいつを見てきたから分かる。和成は……
少女は和成が言った言葉で機嫌を悪くすることもなく、むしろ笑みを浮かべながら、凛とした態度で言い放った。
「あら、どうしてそんなに私のことが知りたいのかしら?
そんなに私の正体が知りたい?正体を確認したくなるほど私が怖いの?
……ふふっ、男の子なのに、情けないものねぇ……」
「……おーおー、言ってくれるじゃねぇの?」
和成の顔に青筋が浮かび上がる。一歩前に踏み出し、怒りに震えて少女を睨みつけた。和成のその様子を見た少女は、恐怖の色を見せることなく、無邪気な子供の様にケラケラと笑い、和成をさらに挑発する。
……不味いな、この状況……
そう思った俺は、和成の肩を掴み、少し強めに引き寄せた。
「うっ!……おい、何すんだ秀!!」
「落ち着け、和成。挑発に乗るな」
俺は和成を収める。しかし、和成に静まる気は無いようで、
「あんな言い方されて引き下がれってのか!?相手が女だろうがぜってぇ許さねぇ!」
と言い張り、聞く耳を持たなかった。
『落ち着け』だけじゃ無理か、こうなったら納得がいくように説明するしかない……
俺は今の状態の和成にも伝わるように、言葉を選んで説明を試みた。
「いいか?ここからはあくまでも俺の仮定だが………
あの娘はお前をわざと怒らしてる。さっき『賭けバスケ』っていってたろ?だから、俺たちと試合をする気だ」
「………」
和成は依然として少女を睨んではいるが、黙って俺の話を聞いていた。
少し落ち着いた事に安堵しながら、話を続ける。
「俺らはあの娘を知らない、けど、俺らは去年のインターハイ優勝校だ。今まで無名だった高校が全国で優勝。そんな大事、バスケをやってる奴なら誰でも知ってるだろ?」
和成は頷く。大分落ち着いてきた、もう一押しだ。
「どう調べたかは分からんが、とにかく俺たちがここで自主練してることをつきとめた。そして、俺らと賭けバスケがしたいと言い、和成を挑発した。何故和成には挑発したのか?何故俺には挑発しないのか?」
なんか推理小説の探偵になった気分だ……
そんな事を思いつつ、ラストスパートをかける。
「インターハイ優勝校のエースとして、雑誌やらなんやらでお前は名を知られてる。
あの子の目的や勝ちたい理由は分からない。だけどキレた優勝校のエースと1on1をする、それは本気になったときのお前のスキルを盗むチャンスでもあるし、勝てばあの娘の自信になる。
あの娘は本気のお前と戦りたい、だからお前を挑発したんだ」
俺が話を終えると、前方からパチパチパチと、音が聞こえてきた。
俺は視線を和成から外し、前に移す。すると少女が拍手をしている姿が目に入ってきた。
「お見事、だいたい合ってるわ。あんな少しの情報から良くそこまで分かったわね」
「どうも。まぁ、これぐらいなら」
俺は素直に礼を言った。和成は直ぐ頭に血が昇ってしまう、だから俺は常に冷静でなくてはいけない。が、冷や汗は相も変わらず頬を伝っている。ここまできても、俺の恐怖心はまだ抜けていなかった。
「だけど、あくまでも『だいたい』よ。目的は少し違うわ」
「仮説だって言ったろ? てか、あれだけの情報でここまで分かるだけでも充分凄いと思うんだが……」
冷静な態度を言外に匂わせながら言うと、少女はクスッと笑いながら、「それもそうね」と、了承の意を示した。
……よし、ここまでの流れはイイ感じ。この調子なら目的までなんとか聞き出せそうだ。
「それより俺はその『目的』ってやつが気になって仕方が……っ!?………和成!?」
隣の和成の様子を一瞥した瞬間、俺の体中は衝撃的な悪寒が走り、いつの間にか、少女のとは全く違う空気に支配されていた。
和成からは、あの少女の雰囲気と遜色無いほどの殺気が発っせられている。気を抜いてしまうと、立って居られなくなるのではないかと思うほどの威圧感だ。
久しぶりに見るが、間違いない……完璧に『本気』モードだ。
「……ははっ、いやー、マジでナメられたもんだなー、おれも……え~と、なんだ?『賭けバスケ』だっけ?いいぜ、やってやるよ」
口調は相変わらずユルいままだ。しかし、雰囲気は全く違う、これはかつて無いスイッチの入り方。いや、これはスイッチ入ったってより………
「完全にキレてんじゃねぇかよ……」
念のため少女を確認してみるが、眉をひそめるだけで、特に動揺の色は見当たらなかった。まるで和成程の奴等を沢山見てきたかのような態度である。
それにしても……やっちまったなぁ、落ち着かせたつもりだったんだが。……これ大丈夫なのか?キレ方が半端じゃないんだが……
だが、試合をするんだったら、別にこれでも良いのかも知れない。こいつの実力は日本から認められてる。
いくら悪い条件が揃いすぎていたとしても……こいつなら大丈夫なはずだ。
「あーあ、和成怒らしちゃったな……これじゃいくら君程の人でも勝つのは難しいぜ?」
俺は思ったことを正直にぶつける。これで、まだ余裕といった少女の表情を崩すことが出来るだろう……多分……
これから、負けて呆然とする少女の姿が頭に浮かんでくる。どうしても心苦しくもあるが。
仕方ないだろう。元々あっちから売って来た勝負だ、これぐらいならまだ許されるはず。
すると、少女はまたまたクスッと笑い、こう返した。
「そうかしら?やってみないと分からないわよ?」
この和成を見ても、少女の余裕綽々とした態度が変わることはなかった。変わるどころか、先程よりもっと余裕そうにしている。
その自信は、いったい何処から来るのだろうかのだろうか。全く予想がつかない。
「……そうか、ならやってハッキリさせよう。こいつもそろそろ爆発しそうだしな」
俺は親指で和成を示す。和成はしばらくの間喋ることが出来なかったフラストレーションも溜まっているのか、今まで以上に凄んでいる。
「ええ、最初からそのつもりで来たのだけど……貴方達と話すのが楽しくて、少しばかり目的を忘れかけてたわ……
けど、もう大丈夫。これ以上長居も不要だし、さっさと勝負しちゃいましょうか」
と、少女は淡々と言い放ち、フリースローラインへの移動を始めた。
……長引いた原因は、焚き付けてきたそちらにあるのだが……
天然な性格らしい少女が言った言葉に気をつられていると、和成が今までのお返しと言わんばかりの余裕の表情で、移動中の少女に話しかける。
「待てよ、まだ大事なことが残ってんじゃないの?」
「ん?何かまだあったのかしら?」
少女は小首を傾げながら、和成の疑問符をさらに疑問符で返す。
「あるわ!!てかこれが一番重要だろが!!」
重要?………あ!そういや『賭け』バスケだった!
俺も少女も長話で忘れていたが……確かに見過ごせない点がある。少女も流石にこの事には気づいたのか、ハッ!とした表情で和成に答えた。
「そうか、そうだったわね……まだ私達は……」
「『賭け』を決めてない。それに勝負内容も」
勝負と言っても、和成と少女がやるのは、あくまでも『賭けバスケ』だ。『賭け』が成立しないと、『賭け』バスケでは無くなってしまう。
「分かった、じゃあこうしましょう。勝負は、さっきまで貴方達がやってた5本先取。和成君、貴方との1on1でいいわね?」
「トーゼン!てか焚き付けてきたのはどっちだよ!最初っからそのつもりだっての!」
和成が叫ぶ。……確かにその通りではあるな……
問題の少女は一切怯むことなく話を続ける。
「そして肝心の『賭け』………私が勝ったら、貴方達は私の言う通りに動いてもらうわね。
勿論私がどんなことを言おうと拒否権は貴方達にはないわよ。その代わりに、私が負けたら、何でも拒否せずに言うこと聞いてあげるから」
「……ま、いいんじゃないか?不公平ってことは無さそうだ」
……そうは言ったものの、何故かどこか引っ掛かる。『拒否権無し』って位だから、たとえ約束していたとしても、拒否したくなるようなことを俺達にさせるつもりなのか?
俺が違和感の原因を考えていることに気づいたのか、和成は俺を見てフッと笑った。
「んな深く考えなくていいって!俺は負けねーよ」
……そうだな、その方が一番手っ取り早くていい。
少女の雰囲気は正直まだ色々な意味で怖いが、こいつを信じること以外、今の俺には何も出来ないだろう。
「んじゃそうしよう。いってこい」
「おう!」
和成は元気よく了承すると、既にフリースローラインに移動していた
少女と向き合った。
どちらも雰囲気の凄さは遜色ない。優勝校のエースと、女バスの選手。少女に相当な実力があるのは分かっているが、それでも今の和成が負ける姿は、俺には想像出来なかった。
「賭け、後から無しでした、ってオチは無しな!」
「その台詞、そのままお返しするわ。多分貴方達は嫌がると思うけど、我慢してね?」
少女は和成と同様に、自信満々に言い放った。やはり少女にも勝算があるらしい。
「じゃあ始めっか」
和成が開始の言葉を上げたの同時に、和成は※トリプルスレットのポーズに入る。
※トリプルスレット・・シュート・ドリブル・パス全ての動作に備えた状態。
和成がドリブルに入る瞬間、少し強めの風が、俺達を撫でるように吹き抜けた。その風は涼しげで俺を心地よい気分にさせたが、それと同時にどこか違和感を感じさせる、不思議な風であった。
その風に意識を取られていた時、少女が何かを囁いていたのだが、そのときの俺は勿論、対峙していた和成でさえも気づくことが出来なかった。
「……やっぱり私、弱いと思われてるみたいね、心外だわ……」
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和成には高校インターハイ優勝校としてのプライドがあった。エースという立場を任されていれば尚更だ。誰が相手だろうと負けられないと思いながら、いつも全力で練習に取り組んで来た。
その結果、インターハイ後の練習試合等は何処にも負けなかったし、練習の時の対人練習でさえもあまり負けなくなった。
その結果は、確実に彼の自信になった。ただ、少しなり過ぎたのかも知れない。
いわゆる、『天狗になる』というやつだろうか。試合等に勝って自信がつくたび、彼のプライドはそれ以上についていった。
和成はこの勝負、はっきり言って勝てるとしか思っていなかった。
何せ相手は名前も顔も知らない女子、こっちは世間に名の知れた(自分で言うのもおかしいが)、インターハイ優勝後からも負け無しのエース。
いくら強そうな雰囲気を醸し出していたとしても、自分なら技術に頼らずフィジカルだけで勝てると感じていた。
……が
驚愕の事実に耐えられず、体を支えるという機能を放棄したように、足から力が抜けていった。座り込んでしまった和成に、少女が微笑みかけてくる。
「……全然ね、貴方。もう少し抗えると思ったのだけど……私の思い過ごしかしら?」
試合終了 5本勝負
和成 0-5 少女
この日、和成は圧倒的に……負けた……
……強いですね、謎の少女……
星陵高校エースの和成が手も足も出ずに敗北……いったい彼女は何者なのでしょうか?
そして副部長PGの秀……この回では慎重すぎて、なんか弱そうに見えますね。しかし、秀は決して弱くありません。
前の回を見ると、秀は和成との1on1で和成から4本取り、最終的には和成の渾身のデイフェンスを抜いています。ということは………おっと!これ以上はこれから先のお楽しみです!
次回、秀と和成の運命が決まる……
次話は正月明け投稿になるやも知れません。そこはご了承ください。
では、次回でお会いしましょう!