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幻想郷で、バスケの頂点目指します  作者: local
第3Q ~三日の準備期間~
12/13

Episode-9 おやすみなさい

『Episode-9 おやすみなさい』お待たせ致しました!


前回の唐突な変更、申し訳ありませんでした。この場を借りて(?)改めて謝罪させて頂きます。


では、本編をどうぞ!


 


 東の地平線から、太陽が完全に姿を現す。


 柔らかな日の光が、魔法の森全体を優しく、美しく照らしていた。


 魔法の森にある代表的な建物の一つ『霧雨魔法店』。そこから幾分か離れた場所に、八角塔屋付きの洋風造りの家が建っていた。


 その家の主は、アリス・マーガトロイド。魔法使いとしてこの森に住んでいる彼女は、外の世界からやって来た一之瀬光いちのせひかるを自身の家に泊めてやっていた。

 


 光の起きる時間は非常に早い。あちらの世界では日の出と共に目を覚まし、自宅で生活している誰よりも早く、朝の支度を始めるのだ。


 光は今回の朝も同じ様に、日の出と共に目を覚ましていた。しかし、光の身に、大きなイレギュラーが発生。寝ていたベットから1㎜も動けない状態に陥ってしまった。



「………せ、折角、慣れ始めてた所、だったのに………」



 何度も何度もこの言葉を呟くが、一向に状況は変わらない、一体どうすれば良いのだろうか。『考えるのを止めて全力で逃げ出してしまえ』、と訴え始める本能をなんとか静め、隣で寝ている全ての元凶を、横目で恨めしげに見詰めた。






 光の隣に居たのは、美しい金髪に薄い肌の色を持つ、部屋に置いてある人形以上に人形らしい容姿の少女。






 そう、他ならぬこの家の主、アリス・マーガトロイド本人だった。


 彼女は光と同じベッドで幸せそうに熟睡しており、光の左腕を抱き締める様にして掴んでいる。

 一体いつのまに入り込んだのか、光には皆目検討も付かなかった。



「………いや、それよりも………」



 もし、この光景を第三者に見られてしまうようなことがあれば、大きなな誤解を生んでしまうだろう。先ずはこの状況を打開するための策を、早急に手配しなければいけない。


 光は模索するが、どう考えても『直接起こす』という結論に至ってしまう。しかし、彼にはそう出来ない理由があった。



 光は女性恐怖症なのである。女性とは適度な距離を取らなくてはいけないという、重度な症状を抱えていた。


 幸いなことに、彼の恐怖症には『慣れ』が存在していた。

 最初の一日目はアリスの半径5m内でさえも、まともに居られなかった光。彼の多大な努力が項を奏したのか、以前の彼ならば信じられない行動、『アリスと同じソファーに座る』という偉業を成し遂げることができた。


 確実に慣れ始め、類を見ない達成感を感じていた光を突如として襲った『添い寝』という名のイレギュラー。彼の体を自由に動けなくさせるには充分過ぎた。


 しかも、アリスはとても幸せそうな表情で寝てしまっている。

 睡眠の楽しさを良く理解している光には、こんな表情で寝ている人物を起こすことなど、到底出来ない。



 光は他の方法を探すため更に考え進めるが、良い案は出てこない。こうなったら仕方がないと、彼は考えるよりも行動に出ることにした。



 アリスに掴まれ自由に動かない左腕を、彼女を起こさないようにゆっくりと引き抜こうとする。するとアリスは、



「………ん………んぅ………」



 と数回唸った後、光の腕を更に強く掴んだ。更に、今まで若干空いていた体と体の隙間を埋め、完全に密着させてきた。




 ………ぎゃ、逆効果だったぁっ!!




 光は脳内で叫び、戦慄した。

 まさか事態が悪化するとは思ってもみなかった彼は、しばらくの間動けずにいた。



 もう完全に手遅れである。こうなってしまっては、光には何も出来ない………が、


 光は思わず頬を赤らめる。何も抵抗できない状態に陥ったことにより、この状況を改めて理解することができた。


 まるで人形の様な美少女が、自分の腕を掴みながら同じベッドで眠っている。抜け出すのに必死で意識していなかったが、相当なシチュエーションだ。


 女性恐怖症を持つ光だが、本当に女性が嫌いという訳では無い。『過去にあった体験』が、彼の本能をそうさせているだけ。


 普通の男性と同じ様に、女性を好きになったこともある。しかし、その時は恐怖に打ち勝てず、自分の想いから逃げてしまっていた。


 そんな自分に嫌気が差していた光は、この世界での懸ける想いは人一倍強かった。



「………オレはこの世界でなら、変われる気がする………」



 そう呟いた光は、大きな期待に身を委ね瞳を閉じた。






 ………刹那。






「………ふぇ?」



 隣から間の抜けた声が上がる。その声にハッと反応した光は、古びた機械のようにぎこちなく隣を見た。



 そこには、今まで閉じていた筈の目を開いている、アリスがいた。青色の綺麗な瞳が光を真っ直ぐ見詰めている。


 数秒ほど見詰めあった二人は、かあっと効果音が出そうな程、互いに顔を真っ赤にした。



「ふえええぇぇっ!!!?」



「う、うわあぁっ!!」



 アリスが恥じらいと驚きが混ざった叫び声をあげる。その声に驚いてしまった光はベットから転げ落ちた。



「な、なななな、なん、な、なんでぇ!?」



 アリスが状況が理解できないといった様に、しどろもどろと驚きの声をあげる。



「お、オレにも分かんないよ………朝起きたら、アリスが何故か隣にいたんだ………」



「え、え!? う、嘘でしょ………」



 アリスは頬を両手で押さえながら、その場にしゃがみこんだ。



「………ちょっとのつもりが、腕まで掴んで朝まで寝ちゃうなんて………は、恥ずかしい………」



 ぶつぶつと恥ずかしげに呟くアリスを、首を傾げながら見詰める光。


 その時アリスは、昨日の出来事を思い返していた。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 遡ること8時間前。


 光を寝かせた客用寝室に魔導書を忘れてしまったアリスは、緊張しながらも取りにいく為に足を踏み入れた。



「………んぅ、うぅ………」



 魔導書も回収し、アリスが部屋から出ようとしていたその時、衣が擦れる音と共に、唸り声が聞こえてきた。


 その途端、アリスの歩みが止まる。突如聞こえてきた音により、抱いていた気持ちが膨れ上がった。



 自分が恋している『かもしれない』男性が、自分の家で寝ている。



 今までこんな体験が無かった分、余計に意識してしまう。果たして、このまま部屋を後にしてしまって良いのだろうか。


 否、ここで逃げてしまってはいけない。

 あくまで『かもしれない』であり、まだ確実に決まった訳ではない。


 ここはじっくり見極めよう。

 アリスは今だかつてない程の決意を胸に、光が寝ているベットの前に立った。



 寝付きが悪かったのか、掛けた筈の毛布は寝返りによって乱れ、左側に人一人分のスペースができる程、光は動いていた。


 普通ならば見ることがない光の寝顔を前に、胸の鼓動が大きくなるアリスだったが、ふと頭に疑問が過った。



「………これから、どうすれば良いの?」



『見極める』と張り切って行動に出た所までは良かった。しかし、ここから何をしてら良いか、という一番大事な答えが出ずにいた。


 アリスは目を閉じ、深く思案しようとするが、焦りと恥じらいが影響し上手く頭が回らない。



「うぅ………早くしないと起きちゃうかも………けど、どうすれば良いの………」



 焦りが溢れそうになった時、光が寝顔が改めて目に入る。

 幸せそうに眠っているその顔は、今まで見たどの表情よりも可愛く見えた。


 クールな見た目の光に、天然な性格と可愛い寝顔のギャップ。色々な光を知れて、嬉しさと満足感に満たされるアリスの頭に、ひどく単純な確かめ方が浮かんできた。それは………



 光の隣に寝てみれば良いだけだ。



 対象の男性と一緒のベットに寝る、これをすることにより、相手との距離が物理的に縮まる。その時抱いた感情によって、自分が本当に恋しているのかが分かる、という作戦だ。


 アリスは自分の思考が、大胆な方向へ傾いていくことに気づかないまま、行動に移していく。


 光が起きないよう、隣にゆっくりと寝そべることに成功したアリスは、光の寝顔をより近くで眺めることができた。



 近くで見る彼は、見る者の視線を惹き付ける、何とも言えない不思議な物がある。寝ている時にしか見せないだろう、無防備で魅力的なその表情と相まり、アリスのときめきは最高潮に達していた。


 そのときめきの中、彼女は光のことをもっと知りたい、もっと知ってもらいたい、という感情が生まれていた


  これらの結果により、アリスは確信する。彼女が抱いていた感情は………



「………やっぱり、恋………だったんだ………」



 途端、甘くとろけそうな心地好さと、この恋がどんな結果になるか分からない事への恐怖が、彼女の心に巣食いだす。


 だが、アリスはその二つの感情よりも上をいく、夜特有の『眠気』に襲われ、瞼は閉じかけていた。


 段々と暗くなる視界の中、アリスは目の前で眠る愛しき者に、やんわりと告げた。





「………おやすみなさい、光………」




 その言葉と同時に、アリスは眠りについた。勿論、『彼女が光の腕を掴んだのは、寝ている間だった』ということは、言うまでもないことだろう。




 ーーーーーーーーーーーーーーーー




 時は戻る。


 完全に目が覚めた光とアリスは、リビングにてトーストとコンソメスープ、スクランブルエッグに紅茶というお洒落な朝食を取っていた。


 しかし、二人は先程のイレギュラーが響いているのか、互いの顔を紅潮させながら会話もしていないので、リビングには重い沈黙が流れてしまっている。



『『………何か会話しないとなぁ』』



 図らずも考えがシンクロする二人は、この由々しき問題の解決策を探すが、どちらも全くと言っても差し支え無い程、思い付かなった。


 空気が悪くなっていくのは止められないことなのかと思われた、その時。




「………なんでこんなに重々しい空気なのかしら?」



 

 死角から突然聞こえてきた声に、体が飛び上がる程驚いた盛大に驚いた光とアリス。


 目を見開きながら振り返ったその先には、紅白色の巫女服を着たセミロングの女性、博麗霊夢はくれいれいむが立っていた。



「………喧嘩でもしたの?」



 その場に漂う悪い空気を感じ取った霊夢が、眉をひそめる。

 


「い、いや、喧嘩なんてしてないよ。………ただ、ちょっと………ね?」



 慌てて言った光は、アリスの方を向きウインクをする。彼の『合わせろ』というサインに気付いたアリスは、焦りながらもさりげなく確実に、フォローを入れた。



「え、ええ、本当にちょっとしたことだから、気にしないで。………それより、勝手に人ん家に入ってくるぐらいだから、それなりの用件があるんじゃないの?」



 はぐらかすような光とアリスの態度に、首を捻りますます不思議がる霊夢。しかし、深く追求するつもりは無いらしく、溜め息を付きながらも話を転換させた。



「………まぁいいわ、それより………光、あんた達『星陵せいりょう』に試合の申し込みがきてるの。日程は今日の午後からで、相手は人里の最強チーム………どう? やってみる?」



 久し振りの試合に、興奮し舞い上がりそうになる光だったが、ここでは不味いとグッと我慢する。



「………オレがそんな話を断るとでも?」



 余裕の笑みでいい放った光を見て、霊夢は優しく微笑んだ。



「ええ、思ってないわ、どうせそう言うと思って受けちゃったしね。集合場所は人里のストリートコート、行き方はアリスが知ってるから。じゃ、またね、二人とも」



 背中越しに手を振りながら、霊夢はアリス邸を後にした。


 切り抜けたことの安心感にホッとする光とアリスは、部屋の空気が良い感じに和らいでいることに気付く。


 霊夢の突然の訪問は、功を奏したらしい。二人は顔を見合せ、ふふっと笑みを溢した。



「霊夢、ファインプレーだったね。やっぱり博麗の巫女は侮れないよ」



「でしょう?やるときはやるのよ、あの巫女は」



 今までの空気が嘘だったかの様に、会話が弾む二人。お互いの緊張感はすっかり抜けて、普通に話せていた。


 その時アリスは、大きな手応えを感じていた。最初は怖がってばかりだった光が、自分に心を開きつつある。


 これからもっと頑張って、彼を恐怖から救おう。彼女は人知れず決意を固めていた。



 しかし、彼女はまだ知らなかった。






 光を閉じ込める、鎖の存在。逃れられない恐怖の重さを………


いかがでしたでしょうか。今回で第三Qも終了です。

話の数も10を突破し、着々と充実してきています。どんな作品になっていくのか、自分で言うのも何ですが、非常に楽しみです。


準備期間最後の三日目ですが、この三日間の中で一番、否、当作品の中で一番恋愛をしていた回でした。こういう回をガンガン増やしていきたいです。


さて、今回で三回目の『三人称視点』での執筆でしたが、自分的にはとても手応えを感じています。まだまだ未熟な面も沢山ありますが、どうか完結までお付き合い下さい。



次回予告コーナー!!


お待たせ致しました!とうとう本格的にタイトル回収が始まります!!


秀達『チーム星陵』の初試合が幕を開ける。人里最強チームとの試合、一体どうなるのか!?



次回も閲覧お願い致します!



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