ジョン・レノンになりたかった男
練習のため短編を書いてみました。厳しい感想などお待ちしています。
野外に設置された特設ステージの真ん中にその男はいた。時には語り、時には歌い人々の記憶に自分という存在を残そうと必死になっている。
「みんな聞いてくれ。世の中、右だとか左だとかそんな事ばかりいってるから戦争はなくならないんだ。それなら俺が今ここで新しい思想を発表するぜ、右でも左でもなく中だ。真の平和を愛する新しい思想それが中派だ、どこの国の誰だって参加は自由だ誰の許可もいらない、条件はただ一つ核があるこの世界を憎み一日の中で一度は必ず親は子供の事を、子供は親の事をすべての人間が身近な人の事を愛する時間を持つだけでいい。簡単な事だろ?」男がそういうと場内から大きな歓声と拍手がおきる。
「どうやら、ここにいる人達はみんな中派って事でいいみたいだな。それじゃあ俺の歌を聴いてくれ。世界中の愛する人に歌います」男はギターを手にとりマイクスタンドの前にたち演奏をはじめた。
世界中の暗殺者にききたい 今お前は幸せかい?
分かってるさお前だって本当はこんな事やりたくないってことぐらい
生活のため仕方なくしているのかな? それなら俺から一つ仕事を頼みたい
金はいくらでも払うから お前の家族を暗殺してくれ
一流のお前には簡単な話だろ だけど今お前はどんな気分なんだろうな
世界中の武器商人にききたい 今回の戦争でいくら設けたんだい?
分かってるさ愛する家族の為にやりたくもないこんな仕事をやっているって事ぐらい
だけど君は愛する家族の前でいつも笑えているかい 一つ最新型の武器を頼みたい 目的は勿論君の家族に向けて使うのさ どうだい笑えないだろう
世界中の戦争指導者にいいたい あんたらのいう通りにすれば本当に幸せになれるのかい?
分からないなまた一人家族が戦争で殺されたんだ
昨日まで一緒になって笑ってたかわいい女の子さ 一体いつまでこんな事続ければいいんだい もうあんたらのいう平和なんていらないよ 欲しいのは家族みんなで笑いあってた過去なんだから
そういえばあんたらの顔ずいぶん変わったな後は髭を生やせばヒットラーにそっくりだ
Hey you この美しい地球で六十億人が一斉に笑えたら
Hey you この青い空を子供達の笑顔で埋め尽くせるなら
Hey you この広い大地の素晴らしい緑をいつまでも
オーライ これから生まれてくる命へ君たちの未来が幸せで溢れる事を願います
どんなに辛い出来事も明るい未来の為に歩きだそう
未来は愛する者が進んでいく道なのだから
男が歌い終わるとそれまで静かに聞いていた観客が一斉に大きな歓声と拍手を送った。鳴り止まない歓声の中男に対してアンコールの要求がはじまる。
アンコールに応えて再び歌い始めた男の歌が後半に差し掛かった時突然
どこからか二発の銃声の音が鳴り響いた。それまで大歓声に包まれていた野外が一瞬にして静まり返る。そして観客がステージの上を見てみるとさっきまで歌っていた男がその場に倒れ込んでいた。突然の出来事に場内は大騒ぎになり、逃げまとう人々でごった返した。
警備員が慌ててステージで倒れてる男を保護し救急隊へと連絡をする。男の体を見てみると、胸の近くを右と左両方打ち抜かれていた。
「ちく......しょー、何だよこれ。こんなはずじゃ......なかったのに......死にたくないよ......こんなこと......するんじゃなかった」男はそういってそのまま意識を失った。
しばらくして救急隊が駆けつけたが男はすでに息をしていなかった。
翌日になると昨日の出来事など何も無かったように人々は日常の生活に戻っていく、男の歌を思い出す者など誰もいない。
その日の夕方一人の男がマーケットで食料を買いに来ていた。その男は夏なのに厚手のコートを羽織っていて店主の女も怪しそうに見ていたがたくさんの食料を買っていったのでそんな事は気にならなくなり丁寧に接客した。
「あんた、気前がいいね。こんだけ買ってくれたんだからサービスでこの果物をやるよ。食後に家族と一緒に食べな」そういって女がリンゴを三つ渡した。
「あいにく俺には一緒に食べる家族も友達もいないんでな、全員殺されたんだよこの腐った世界に」男はそういってリンゴを受け取らず人混みの中に姿を消した。