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金の陽光、銀の月華 2

服を着替えた後に通された部屋は、まるで空港の検閲所のような雰囲気だった。

身に着けていた金具をすべて取り外し、全身スキャンへと進む。

もちろんソウバもだ。


「・・・・・」


全身スキャンは自分が囚人になったような感覚を緋室ひむろに与えた。

すべてのものを取り外され、そのすべてを確認され、自分の体までもを透かして見られる。

何度受けてもあまり気分のいいものではない。

検閲の奥で待ち構えていた職員が緋室の顔を見てにやりと笑んだ。

その顔は先ほども見た顔で、確かとき春樹はるきと呼んでいた。

無言の彼に促されて、足を進める。

検閲所の次に通された部屋は白で統一されていた。

その部屋の南側の壁には大きな水槽が備え付けられていて、その横幅と高さ、奥行きのすべてが三十メートル以上ある。

水槽の横にはこれまた大型の液晶があって、素人には理解できないデータがいろいろ表示されていた。

また、何人もの職員がコンピューターの画面と向きあっていた。

すべて画面が浮動形式の最新型のパソコンだ。


「・・・」


緋室はものめずらしげに周りを見ながら水槽の側まで足を進めた。


「ここは第一操舵室、通称『空の部屋』。秋専用の部屋だよ。

改めましてようこそ、緋室殿下。俺は第一操舵室の主任で、いしずえ 春樹はるきという」


「あぁ、よろしく」


やっと話したその青年は、ひどく長く伸ばした髪を左側でゆるい三つ網にしていた。

それに加えて銀縁のフレーム眼鏡に白衣、にやけた笑いというオプションがなおさら彼を怪しくみせている。


「操舵室は第一から第五まであり、能力順で使用できる部屋が決まっている。

もちろん、第一は秋、第二はハリヤ、第三と第四はジェニーと万理まりでまわしている。

君の従妹の雪白ゆきしろは第五だ。

王族初の時空異邦人タイムストレンジャーだかなんだか知らないが、ここでは能力が全てだ。

前氷期ぜんひょうきにもいけないし戦争地帯にもいけない雪白は、はっきり言って役立たずでね。

仕事も回せないし、邪魔なんだ。さっさと王宮に引き取ってくれないか?

王族はここには必要ないよ」


「無礼な!」


「父上と叔父上・・・雪白の父に申し上げておこう」


声を荒げたソウバを制して言った緋室の返答は彼にとって満足のいくものだったようで、春樹はにんまりと笑った。


「ありがとう。

王族の客が来たらいつか言ってやろうと思っていたことでね、すっきりしたよ。

さぁ、これに乗ってくれ。あぁもちろん王子様だけだよ」


春樹の足元を見ると、直径一メートルほどの丸い部分がありそこだけ他の床から飛び出していた。

文句を言いたげなソウバを残して春樹に続くと、その床がふわりと浮き上がった。


「移動板か」


二人を乗せた移動板は水槽にそって垂直に上がる。

水槽の高さまで上がると、脇の部分に待機している秋と数人の職員の姿が目に入った。

ひらりと春樹がそこで飛び降りた。


「殿下はそのまま水槽の中へ」


移動板は水槽の中へと進み、ゆっくりと底に着地した。

移動板は緋室が降りるとすぐに上へと戻っていく。

ふわりと浮き上がっていく動きを目で追っていると、水槽の端に立ちながら春樹と話している秋の姿が目に入った。


「説明?しているわけないじゃない。貴方がしたんでしょ?」


「俺がするわけないだろー。説明はお前の仕事でしょー」


「知らないわよ」


そんな不穏な会話が聞こえてきて緋室は冷や汗をかいた。

ここで何をさせられるのだろう。

困惑と心配が入り混じった不安な気持ちで上を見上げていると、秋と視線が合った。

そして、次の瞬間 ―・・・。


「危ないッ・・・っ!」


三十メートルはあろうかという差。それを秋は何のためらいもなく飛び降りたのだ。

しかし、緋室の心配は杞憂に終わる。

彼女の周りだけ時空の流れが遅くなり、秋は羽毛布団の上に立つようにゆったりと着地した。


「・・すごい・・」


目の前で見た時空異邦人の能力に、素直に賞賛が零れた。

しかし、秋は緋室を一瞥しただけで何も言わない。

水槽の中央に立つ彼を放置して、脇から足環を二つ手に取る。

コードを引きずりながら中央まで戻ってきて、足環のひとつを緋室に差し出した。


「これを足につないで」


「肌に直接触れさせてくださいねー」


上部のスピーカーから春樹の補足が聞こえた。

外を見るといつの間にか下に戻った彼が、マイクを持った手をひらひらと振っている。


「あぁ、わかった」


自分の足に装着しながら、秋を見た。

彼女も同じように右足に足環をつないでいる

秋がはいているブーツが右足だけ短い理由がやっとわかった。

緋室が装着し終わったのを確認してから、秋が外に向かって手を振った。

同時にメインコンピューターには二人の生体データが映し出されて、監視する職員達の動きが早くなる。


「シンクロ率、九十八パーセント」


「心拍数異常なし、血圧も問題なしです」


部下達の声に春樹はにんまりと笑いながら頷いた。


「了解・・・殿下ー」


間延びした春樹の声がスピーカーから落ちてきた。


「説明を受けていないって事でちょっとびっくりするかもしれないですけど、深呼吸して平常心で居てくださいねー。

・・・・それでは、ミュウアクアの放水開始」


「え?・・・・・うわっ!」


春樹の声と同時に水槽の上部四方から水が飛び出してきた。

ドドドドという勢い溢れる音が水槽に響く。


「水?」


「万年水晶の雫、希少水ミュウアクアよ」


水の種類なんて今はどうでもいい。


「これはどういうことだ?溺れさす気か?」


緋室の怒号を聞いた春樹は困ったように笑いながら、従妹の名を呼ぶだけだ。


「秋ー」


真正面に浮かんでいる秋を睨むと、彼女はしぶしぶといった風情で口を割った。

「ミュウアクアは時空旅行タイムトラベルの絶対条件。

この希少水に全身をつけることで緩衝材として使用して、自らの肉体に負担がかからないようにするのよ」


さっきの説明云々ってこれか、と思う。

すでにミュウウアクアは緋室の体を浮き上がらせていた。

足環から延びているコードはいつの間にか床から三十センチくらいで固定されており、それ以上の余裕を緋室に与えない。

このままでは溺れ死ぬ。

そんな恐怖が緋室の全身を襲った。

死ぬ。

絶対に死ぬ。


「緋室殿下の心拍数が上昇、血圧、血中アドレナリン濃度も上昇」


「殿下ー、大丈夫ですから落ち着いてください」


部下からの報告を聞き、春樹がのんびりとマイクに向かって告げた。

スピーカーから流れてくる声に、「落ち着けるかッ」と悪態をつくが、ミュウアクアに阻まれてきちんとした声にならない。

コードが固定されている所為でこれ以上浮かべない。

ミュウウアクアは緋室の首、唇、鼻を次々と飲み込み、数秒後には全身を飲み込んだ。

ゴボリと口から空気が弾けた。

苦しさの中、何とかミュアクアの中で目を開くと、目の前に光の帯があった。

いや、正確には違う。

光の帯だと思ったそれは秋の髪の毛でゆらゆらきらきらと輝いている。

水の流れによるその神々しい動きに見とれていると、秋が手を差し出してきた。

彼女の行動の意味を図りかねて、差し出された手のひらと彼女の顔を交互に見る。

すると、秋はいらだったように再度手のひらを伸ばしてきた。

手を取れという意味だとなんとか解釈し、手を伸ばした。

そして、二人の手のひらが重なった瞬間、世界は変わった。






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