金の陽光、銀の月華 1
完結済みの新作をUPしていきます。
独特の世界観ですが、楽しんでいただけると幸いです。
地球からほど近い漆黒の宇宙に浮かぶ、白銀の宇宙船、クロノシア。
その中の一室、自分の職場。
いつもは春樹と数人のスタッフしかいないこの部屋に、ハリヤやジェニー、万里に雪白といった時空異邦人が全員集合している。
警備兵だっていつもの二倍はいるし、時空省の次官とか室長とか・・とにかく偉い人たちまで大集合だ。
これら大勢の人たちのみならず、自分や時空省長官である父親までこの部屋に集まることになるなんて、と秋は歯ぎしりをした。
「・・・・・・」
大勢の人たちに囲まれている依頼者の存在を見つけた瞬間、秋は自分の眉間に大きくしわが寄ったのをはっきりと感じた。
お気に入りのロックミュージックも、隣ですまなそうに自分を見ている父親 ― 礎 宗司の気持ちもなにも耳に届かない。
視線は目の前の人物にくぎ付けだ。
東雲宮 緋室。
地球国唯一の王子、秋の今回の依頼者 ― 憎い憎い王族。
百八十はあるだろう長身に均整の取れた筋肉が服の上からでもわかる。
彫が深い顔つきは威厳と畏怖を相手に与えるだろう。
座っているだけなのに異様な威圧感を発し、支配することになれた王族特有の傲慢さが漂う雰囲気に、秋は思わず舌打ちをした。
片方だけ繋いでいたイヤホンを引き抜き、依頼主の前に憮然と立つ。
「時空異邦人、礎 秋よ」
その態度、慇懃無礼。
傲慢にて不遜。
王族を恐れず敬わない秋の態度に、室内の時空省員は「やってしまった」と頭を抱えた。王子の後ろに立っている側近らしき人物は怒りで顔を赤くしている。
しかし、ただ一人・・当の本人の王子は一瞬面食らっただけで、次の瞬間にはふんわりと笑んで秋に握手を求めた。
「東雲宮 緋室だ。こっちは側近のソウバ・アジュシュ」
だが、秋は緋室の右手を一瞥しただけで手を伸ばさない。
そればかりか、顔を見るのも嫌だといわんばかりにそっぽを向いた。
「秋っ」
「最高位の時空異邦人の王族嫌いは知っている。だが、これほどまでとはな。
皆が止めるはずだ」
「殿下、申し訳ありません」
「かまわない」
宗司の言葉に緋室は鷹揚に微笑んで、それがまた秋の癇に障った。
「時空異邦人・・・秋と呼んでも?」
「どうぞ」
「秋
今回探してもらいたいのは王妃の装飾品のひとつ、金陽だ。
金陽は銀月という装飾品と対になっているもので、金陽は頭上を銀月は首元を彩る。
これが銀月だ」
机の上に置かれているのは繊細な銀細工が美しいネックレスだった。
細い鎖が幾重にも重なり、繊細なきらめきを表現している。
ところどころにあしらわれた真珠とサファイアの対比がすばらしい。
そう思っていると、次の瞬間には大粒のサファイアが美しいペンダントに変化した。
「惑星エンジニアのアライブメタルね。実物は始めて見たわ」
「たぶん、金陽に合わせて変化しているのだと思う」
「そう。で、どのような経緯で金陽は盗まれたの?」
「宝物庫で掃除をしていた侍女の話によると、朝、掃除に行くと見慣れぬ女が金陽の目の前に立っていたらしい。
慌てて注意すると、女は金陽を手にとって白い煙と共に消えたそうだ。
一緒にいた近衛兵もその瞬間を目撃している。
前の晩に別の侍女が中に誰もいないことを確認してから施錠し、鍵も詰め所にずっとあった。
つまり、女の進入経路は不明だ」
「女が消えた後に、三日月と鬼の焦げ後はあった?」
指摘に緋室が目を見張る。
後ろでジェニーが「思いつかなかった」と呟いたのが聞こえた。
「どうなの?あったの?」
「よくわかったな。そのとおりだ。
それで盗難事件として警察に届けたところ、時空異邦人を使用する許可が下りた」
「使用、ね」
その言葉に秋の目が剣呑な光を帯びるが、緋室は気づかない。
「三日月と鬼の焦げ後って事は、月国の呪術師の仕業に間違いない。
その線で警察も捜査してくれている」
「月国警察に協力依頼はしないの?」
「状況証拠だけで確実な証拠はないからな・・今のところはしていない。
だが、捜査を担当しているチーム『紅姫』は以前に金星国王子の誘拐事件を解決したことがあり、太陽系連合捜査権を持っているから問題はないだろう」
「そう。
三日月と鬼・・・は月国の呪術師結社。
彼らは自分達が行った証拠として、自分達の紋章を現場に残す。
白い煙と共に逃走するのも彼らの常套手段よ。
でも、腑に落ちないわ。
白煙を使ったとしても初期逃走は走るか車なのに・・・忽然と消えたって言うのが気にかかるわね。
そもそも、この時点ではただの盗難事件よ。それがなぜ時空省に?」
疑問をつぶやくと、「あぁ、忘れていた」と緋室が言った。
「女が忽然と現れて消えたという点が気にかかったらしく、警察のほうが時空省に現場検証を頼んだ。
結果、時空を裂いた形跡が見つかったので、時空異邦人に協力依頼をまわすことになった」
「それなら納得よ。金陽は時空の流れにある可能性が高いのね。・・・もちろん、犯人も」
「そういうことだ」
なるほどね、と一人ごちて、秋はもう一度銀月を見た。
「それにしても『サファイアは送った側の心が変われば色が変わる』といわれている宝石よ。
ソレをわざわざ王妃の装飾品にするなんて悪趣味だわ」
「秋、口を慎め」
すかさず宗司の叱責が飛ぶが、緋室は気を悪くした様子がない。
「初代の王妃が何よりも青が好きだったそうだ。サファイアを使っているのはそれだけの理由だ」
深い青色の大粒のサファイアが室内を照らすLEDの光を受けてキラキラと輝いている。
しかしその光はどこ悲しく、泣いているようにも見えた。
「触っても?」
「あぁ」
秋が銀月を手に取った瞬間、室内に泣き声が響いた。
しゃくりあげる声。
嗚咽。誰かを求める声 ― 応接室の中に少女の声で木霊する。
「何これ?」
声の主を探って視線をさまよわせたが、部屋のどこにも不穏な影は見当たらない。
はたと気づいて手のひらの銀月に視線を戻すと、鳴き声の主はそこにいた。
『金陽・・・金陽はどこ?』
銀月の上にうっすらと少女の姿が見える。
本体のネックレスと同じ、銀色の髪に青い瞳の少女がべそべそと泣きじゃくっていた。
手の上に突然現れた少女の姿に、秋の好奇心が刺激された。
知識として知っていたことに出会えて、素直に感激する。
「アライブメタルには一つ一つ精霊が宿っているっていうの、本当だったのね」
『金陽・・・金陽はどこ?・・・金陽。どこ行っちゃったの?遠い・・遠いよ』
少女はひたすら泣き続けていた。
火のような勢いとはまさにこのことだ。
かん高い鳴き声を耳障りと思いながらも、秋は何とか優しい笑顔を作って精霊に話しかけた。
「貴方は銀月?」
『うん。・・・・お姉さんは?』
呼ばれて、精霊は初めて自分の姿が実体化していることを知ったようだ。
自分の体を確認した後、涙のたまった瞳で秋を見上げた。
「私は秋っていうの。金陽を探す仲間よ」
『本当?』
「本当よ。だから、貴女が知っている金陽を私に教えて」
提案に銀月は黙った。何かを考えるように、探るように秋をじっと見上げている。
『・・・・・お姉さんに触れてもいいなら』
「どうぞ」
秋の答えを聞いて、銀月はぱぁと顔をほころばせた。
現金なもので彼女から涙はもう消えている。
精霊の姿が消え、本体が熱で溶けた金属のように原型をなくしてから、秋の首に巻きついた。
硬質的な輝きが美しいチョーカー。
青い宝石が、首の右側で光った。
「素敵・・」
不思議な光景に、室内がざわめく。ほとんどが感心のざわめきの中、緋室とソウバだけは険しい顔をした。
「殿下、あれはまずいのでは?」
「かまわない。ただ、金陽と銀月の伝承については漏らすな」
「はい」
頷いて、ソウバは元の位置まで下がった。
緋室の険しい視線は秋に固定されている。
一方の秋は、首に居座った銀月と共に時空の流れを見ていた。
全神経を集中して、銀月に教えてもらった金陽を探す。
アメリカ、イタリア、フランス、中国、台湾、フィリピン、日本 ― 今はもう滅びてしまった前氷期の国々の歴史や偉人達が見える。
何千年もの時をさかのぼり、たどり、悠久の時空の流れの中からたった一つを探る。
深呼吸を何度か繰り返し、最後にひときわ長く息を吐いた。
「見つけた」
「!」
「前氷期千七百七十七年・・五月、この豪華絢爛な建物はヴェルサイユね」
「フランス!ブルボン王朝か!」
「その時代はルイ十六世ね」
秋の言葉で時空省の者達が色めきたった。
他の時空異邦人が探索に失敗していた分、彼らの安堵は大きい。
中でも宗司はひときわ満足顔で笑い、指示を飛ばした。
「秋が言うなら間違いない。春樹、第一操舵室に連絡。渡航準備だ」
「はい」
しかし、緋室とソウバは怪訝な顔だ。
「確かか?」
「疑うなら帰れば?」
疑いの含んだ視線も口調も秋の癇に障る。
容赦も遠慮もない一言に、緋室は口をつぐんだ。
彼とて金陽が見つからないと困るのだ。
「馬鹿にされたくないわ、私は礎 秋。
唯一の男性時空異邦人・礎 宗司と時空異邦人リュシエンヌ・ラダの娘。
歴代最高の能力者。無制限に飛べる唯一の時空異邦人よ」
そう高らかに宣言する言葉は不遜だが、彼女が浮かべる笑みは神々しかった。
あまりの美しさに思わずときめいて、緋室は胸を押さえた。
「どうするの?すぐに飛ぶ?それとも日を改める?」
「すぐに、行こう。・・・秋を信じるよ」
ここで逃げたら思いっきり馬鹿にしてやると心に決めていた秋は、即答した彼の様子を好ましく感じた。
根性あるじゃん、と口の中でつぶやく。
そして改めて、緋室を上から下まで眺めて・・・眉根がよった。
「春樹。渡航服」
「え・・・あぁ、わかった」
短い言葉で秋の意図を察した春樹。
いちいち説明しなくてもわかってくれる従兄ほど便利なものはないと心底思う。
だが、目の前の王子は全くもって秋の意図を理解していないようで困惑顔だ。
「秋、これ」
「わかった。ありがとう。・・・王子様、これに着替えてきて。その服は装飾が多すぎる」
春樹から受け取った洋服を緋室に突きつける。
「時空を渡るときの注意事項は三つ。
第一に、一切の器具の持ち込み禁止。
第二に、渡航先に何かを置いてくるまた渡航先のものを持ち帰るのも禁止。
第三に、時空異邦人には絶対服従。
以上のことを守りますって言う誓約書にサインして、着替えて、全身スキャンを受けてから、第一渡航室に降りてきて。
それじゃあ、私も制服に着替えてくるから。第一渡航室で会いましょう」
言うだけ言ってから、これ以上ここには居たくないとばかりに体を翻す秋の様子に室内のものは皆、あっけに取られた。
「・・・なんて無礼なっ!」
数秒間の沈黙の後、ソウバが憤慨した声を上げた。
宗司をはじめとした時空省職員は何も反論できずに小さくなっている。
それほどまでに、秋の態度はよろしくなかった。
「なにとぞ無礼はお許しいただきたい。後で言って聞かせますので」
「いっこうに気にしてないのだが」と緋室は言おうとしたが、怒りの収まらないソウバから先に罵声が飛んだ。
「いくら王族嫌いとはいえ、公事と私事を分離しないとはどういう教育ですか?
それに、こちらにいらっしゃるのは地球国 第七代国王 東雲宮 黄季様のご長男で皇太子である東雲宮 緋室殿下ですよ!
いくら最高位の時空異邦人とはいえ、あの態度は許せません」
ソウバの勢いにさすがの緋室も口を挟めない。
他人事にして、知らぬ顔で茶をすすった。
「それに何より、無制限に飛べる時空異邦人がいるという報告書は提出されていません。
いったいどういうことですか?」
「それは・・・」
宗司の言葉尻が不自然にすぼんだ。
他の時空省職員たちも視線をさまよわせはじめ、室内に不自然な空気が流れた。
これは何かあるな、とぴんときた緋室は今だに唸っているソウバを止めることにした。
「もういい。ソウバ」
「殿下?」
「俺たちの目的は金陽の奪還だ。それさえできれば、別に他はどうでもいいことだろう。
秋は能力が高くて、おまけに金陽を見つけた。
何か不都合があるか?何か文句があるのか?」
「それは・・・ありませんが・・」
「ないなら、もう黙れ。文句は聞き苦しいぞ。
時空省長官、秋はすごい能力者なのだろう?」
「歴代最高、唯一無二の時空異邦人で、クロノシアの誇りです」
はっきり告げる宗司の顔は誇らしさに輝いていた。
「仕事さえしっかりしてもらえるのならば、態度は一向に問題にしない。
さぁ、お茶も飲んだし・・・服を着替えて第一操舵室へと行こうか」
まだ不満げな側近を抑えて、緋室は優雅に立ち上がった。
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