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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
43/100

43.王子の謝罪


「追いつくかなぁ…」


 あれからすぐに出てきた杏実だが、颯人とはタイムラグがある。しかも颯人はただでさえ足が速い

 杏実はホームの自動ドアを出ると、小走りに敷地内の庭を駆け抜ける

 颯人に追いつける自信はないが、ここは進むしかない


 その時、門をでてすぐのところで立ち止って考え込んでいる颯人の後ろ姿を見つけた。ホッとして走ってきた速度を緩める


 颯人の表情は後ろからでは確認できなかった

 杏実が近づいて声をかけようとした時、颯人が急に振り向いた


「あ…」


 杏実がびっくりして声を上げると、颯人は杏実に気が付き目を丸くした。そこに杏実がいたことに驚いているようだった

 先ほど怒鳴った相手が、まさか追いかけてくるとは思わなかったのだろう

 杏実は、先ほどの気まずさをできるだけ出さないように、颯人の方へ歩み寄っていく。杏実が口を開くよりも先に颯人が口を開いた


「おまえ…」

 しかしそれ以上は何も言わない。戸惑っているような―――――初めて見る表情だった


「私も帰ろうと思って、追ってきちゃいました。」

 杏実は先ほどのことには触れず、笑顔でそう言う。こんな状況で笑顔を浮かべられたのは、颯人がもう怒っていないとわかったから。颯人の表情は、杏実に対しての言葉は本心ではなかったのだと告げていた


 颯人は杏実のその様子を見て、表情を和らげた


「おまえ。ほんと……バカだなぁ…」

 そう言い苦笑して、杏実の頭にポンッと手を乗せる。その手も優しい


「さっきは悪かった。」

 颯人は杏実を見てそう言う。真剣な表情だった

 杏実はその言葉にニコッと笑顔で答える。それだけで伝わる気がしたのだ。その杏実の表情に、颯人も口角を上げて――――――少し微笑んだ


 颯人が笑顔になった

 それだけで十分だと思った





「フミさんにまた無理難題を押し付けられたんですか?」

 駅に向かう途中、杏実がそうたずねると颯人は思い出したのか、一瞬顔をしかめてから答える


「……まあな」

「そうですか…」

 もしかして自分は関係ある事柄なのか気になったが、そこは聞かないことにする

 颯人が言いたければ自分から言うだろうと思う


「まあ……フミ婆の言ってることもわからないでもないけどな。………でも今回は、思い通りになるつもりはない。絶対に…」

 この声に颯人の強い意志を感じる。事情は分からないが、颯人が頑張るのなら応援したいと思う


「そうですか。……頑張ってくださいね!! 私も応援します!」

 そう言って颯人にガッツポーズを作る。颯人はそれを見て、一瞬困ったような表情を浮かべたが、すぐに意志の強そうな表情に笑顔を見せた

 なんだかその連帯感がうれしかった


「ところで杏実。お前ケーキ食べれたのか?」

 颯人は唐突に尋ねてくる

 

 そういえば……と思う


「いえ……みんなが揃ってから食べようと思ってたので…」

「そうか。お前楽しみにしてたのに、悪かったな」

 本日颯人が謝るのは2回目だ。………というか、“黒の王子”そのいつもの振る舞い(好きな人に対してちょっと失礼だが)からは意外すぎて、驚いてしまう

 杏実のその驚いた様子に気が付いたのか、颯人は目を細めて杏実を睨む


「なんだ? その態度は。……俺だって悪かったと思えば謝る。いつもはそう思わないだけだ」


 なんとも傲慢な考えだ

 しかし謝ってくれたということは、颯人は杏実のことを少しでも気にかけてくれているということだ。嫌われていた状況から考えると……飛躍的な前進だと思う


「ふふふ…」

 杏実が笑うと、ポカッと頭をごつかれた

 

 痛った~

 もう……すぐ手が出るんだから

 手加減しているとはいえ男の人の力は強いのだ。杏実がごつかれたところをさすりながらつぶやく


「何も殴ることないのに…」

「せっかく何かおごってやろうかと思ったのに、変に疑るお前が悪い」

「……え?」


 おごる?

 

 颯人から発せられた言葉に驚いて思わず、颯人の方を見る


「本当ですか?」

「悪かったと思ったからな。時間があるならおごってやる」

「あ……ありがとうございます!」


 う……うれしい!!!

 込みあげてくる喜びに、満面の笑顔を隠せない

 心の中でくるくるとダンスを踊る心地。まさにそんな心境だった


 颯人はそんな杏実の様子に「単純だな」と苦笑している。でも……なんて言われようと関係ない

 颯人がおごってくれる…。いつものような強制、嫌々でなく。自分から。もうそれは杏実の中で奇跡に近い出来事だった


 そうだ!

 そういえばこの駅の近くに『ミルクティー』が美味しい店があるのだ。ケーキなどは種類のない普通の喫茶店だが、“同志”には是非お勧めしたい店なのだ


「朝倉さん! じゃあこの近くに、ちょっと紅茶が美味しい店があるので、そこに行きませんか?   あ……でもケーキはショートケーキぐらいしかないんですけど……でもお茶は最高なんです」

杏実がそういうと、颯人は「いいよ」と言って、歩き始める

しかし、ふと立ち止まって杏実を振り返った


「でも、おまえ……ケーキが食いたかったんだろ? もっとそういう店じゃなくていいのか?」

「いいんです。やっぱりお茶が美味しい店じゃないと。それに、私ケーキはイチゴ派なので、ショートケーキ大好きなんです。おばあちゃん達が選ぶのってチーズケーキか抹茶なので……今日はある意味ラッキーです!」

杏実がそういって道を案内しようと颯人の隣に並ぶ


颯人は呆れたように微笑んで「ラッキーって……おまえほんと仕方ねえなぁ…」そう言って、再び頭をポンとたたいた



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