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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
41/100

41.圭の思惑


「ねえ。おばあちゃん」

「なんだい?」


 フミと颯人がフミの部屋に入って、10分ぐらい経った

 お茶の用意も終わり、ケーキも素敵なアンティークのお皿に乗せられテーブルの上に並べられている。相変わらずケーキは抹茶かチーズケーキ、そのほかもフミと圭が好きなケーキのオンパレードだ


 あそこはイチゴのムースが有名なところなのに惜しいなあ…


 そう思うが、おこぼれ頂戴の身。贅沢は言えない


 今日のミルクティーはノンシュガー

 蜂蜜が無いせいもあるが、甘いケーキと一緒なのでちょうど良いだろうと思う。もちろんミルクは牛乳で『ラテ』にしている。颯人にミルクティーを入れるのは、あのホワイトデー以来。……とはいえ『スクラリ』とは茶葉が違うので、味は異なる。しかしなんだかドキドキした


 二人はまだ出てくる気配がないので、先に圭とお茶だけいただくことにする

 なんとなく、前から気になっていたことを杏実は口にした


「今日、朝倉さんと帰ってきたのはね……フミさんが手配してたみたいなの。知ってた?」

「……ふふふ。そうだったの。フミちゃんたら、頑張ってるのね」

 

 おかしそうに笑っている、やはり初耳のようだ

 圭は常にフミの援護に付いているが、自分で動くことはない。積極的にこの件に加担しているわけではないらしい


「笑い事じゃないよ。……ねえ。おばあちゃんは心配じゃないの?」

「心配?」

「うん」

 杏実がうなずくと、圭はちょっと考えるような顔をしてから、すぐに返事を返す


「別に心配なんかないわよ」

「え? じゃあ……私たちが付き合って……結婚してもいいの? そうなってほしいの?」

 杏実が必死でそういうと、圭は「あははは…」と笑い出した


「もう……なんで笑うのよ!?」

「杏実、あんた颯人くんに相手されると思ってるの?」


う……

痛いとこを突かれた


「……そんなこと思ってないけど」

 杏実が小さな声で反論すると、杏実の気持ちを察したのか、圭は温かみのある笑顔を向ける


「冗談よ。ばかね~。……というよりもね、フミちゃんがどうしようと、後は二人の問題でしょ? 外野がとやかくしても関係ないことなのよ」

 圭は紅茶を飲みながらさらに続ける


「まあ……颯人くんはあんな容姿だし男らしいところもあるから、かなりモテるでしょうね。でもね……颯人くんも、さすがに私の孫ともなると下手に手は出せないでしょ。それに基本的にフミちゃんの家庭の事情で女の人が苦手だから、周りの状況に流されることもないと思うのよね」


 フミさんの家庭の事情?


 初めて聞くフレーズに疑問がわく

 しかしそれ以上に、次に告げられる言葉に驚きを感じた


「それより私は……このことは杏実のためにいいんじゃないかと思ったのよ」

「え?」


 私?

 どういう意味だろう

 不思議そうにしている杏実に、あきれたように圭は話し始める


「あなた、今何歳だと思ってるの? もうこんな年になって本当に奥手で……男っ気もなければ……男の人と付き合ったことなんてないじゃないの。片思いしてるかと思えば、告白もできない。警戒心強い割には、すぐに周りに振り回されて傷ついて………心配なのよ。だから、颯人くんと接することで少しでも男の人に慣れればいいと思ったの。まあ癖がある子だけど、優しいところもあるし……良いリハビリになると思うのよ」


 リハビリ…

「そっ……かぁ…」

 杏実が反論するでもなく間抜けな返答を返したことで、圭はさらにあきれている

 しかし……何と答えたらよいのかわからなかったのだ


 圭がそんなことを考えていたとは驚きだった(完全に面白がっているのだと思っていた)

 しかし―――――圭の言うことも最もだ。この性格では心配されても無理はない

 圭の回りくどい優しさだったのだと思うと……少し申し訳なくなった


 しかし、事態はそう単純ではない

 “リハビリ…”

 普通に颯人と出会っていれば、それは効果があるのかもしれない。しかし……杏実はずっと前から颯人に思いを寄せている。颯人のそばにいることは、杏実にとっては危険な賭けなのだ

 このまま気持ちが膨らんでいけば、もっと我が儘になってしまうかもしれない。そばにいるだけじゃなくて……もっと…

 そしてその限界を超えた時……自分自身がどうなってしまうのか―――今の杏実には想像ができない

 でもきっと今のような自分ではないのかもしれないと思う。そしてそんな時、圭やフミを心配させてしまわないだろうか


 所詮想像でしかない未来

 颯人の隣りにいると、心臓の鼓動が杏実のすべてであるかのように……目の前がキラキラと輝いて見えて。しかし現実は甘くない

 その一部を今、垣間見たような気がして……――――――たまらなく不安になった



 ガシャーン

 フミの部屋から微かになにか物が落ちる音が聞こえた。同時に激しい言い争いの声が聞こえる

 杏実は思わずフミの部屋のドアを見て、圭に向きなおる。圭も不安そうに杏実を見ていた


「なにかあったのかな?」

「……どうだろうね」

 言い争いは続いているようだ

 杏実が気になってフミの部屋の方に視線を向けていると、それを見て圭が杏実に呼びかける


「杏実。ちょっと見てきなさい」

「ええ!」

あの二人の言い争いの渦中に踏み込むのはちょっと………いや、かなり勇気がいる

杏実が躊躇していると、突然声が消えた


解決したのだろうか

杏実が問うように圭に視線を向けると、圭は顔だけ動かし視線で「行ってきなさい」と言う。争う声も止んでいたので、今度は素直に腰を上げた


いったい何の話なんだろう


真剣な話に割り込むのは気が引けるが、二人が心配だ。第三者である杏実が、声をかけることによって、もしかすると冷静さを取り戻す可能性もある

杏実は何も物音のしなくなったフミの部屋の前で、一度深呼吸をすると―――――ゆっくりドアの取っ手に手をかけた



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