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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
40/100

40.長年の癖

「杏実ちゃん遅かったじゃないか~……心配したよ」

 

 祖母たちの部屋に入ると、フミが心配そうに駆け寄ってきた

 あれから普通に帰ってきたので、そんなに遅くはないと思うのだが、先ほどの話のせいか少し心配症になっているらしい


「ただいま、フミさん。ごめんね……お待たせ」

 杏実が笑顔でそういうと、ほっとしたように表情を和らげる

 そして杏実の後ろから入ってきた颯人を見た


「なんだ、颯人もいたのかい」

「……今更、白々しい」


 颯人はそういうと、反論しようとしたフミを無視して部屋の中に入り、ソファに座る圭に挨拶している

 杏実も遅れて圭のほうへ駆け寄った


「おばあちゃん。ただいま。」

 杏実がニコッと笑うと、圭も穏やかな表情を浮かべる

 こんな何気ない瞬間がとても好きだ


「途中で朝倉さんに会ったんだよ。……外うろうろしてたら、お腹空いちゃった。……ケーキ私の分もあるよね?」

「さあ?どうだろうね……フミちゃんが頼んでたから」

「そっか…」


 杏実は確認しようと、フミのほうを振り向く

 フミはまだ入り口付近で立ちすくんでおり、あごに手を当てて何か考え事をしているようだった


「フミさん?」

 邪魔をしては悪いので、恐る恐る近くにより名前を呼んでみる


 するとフミは杏実に振り返り、じっと杏実を見つめてつぶやく


「そうじゃ……その手があった…」


 ……手?

 なにか手伝いがいるのだろうか


 杏実が怪訝そうに首をかしげると、フミは今気が付いたかのように杏実に笑いかける


「どうしたんじゃ? 杏実ちゃん」

「ああ……えっと…私たちの分もケーキあるのかなぁ~って思って」

 杏実がそういうと、フミはうれしそうに笑う


「もちろんあるよ」

「よかった! じゃあ……お茶の用意するね。フミさんはいつも通り、コーヒーでいい?」

「ああ……よろしく」

 杏実が了解を込めてにっこり笑うと、颯人が置いたケーキの箱をテーブルの上に取りに行く

 颯人は早々と椅子に座り、テレビをみてくつろいでいるようだった


「おばあちゃんは私と同じ紅茶でいいよね?」

「よろしくね」


 圭の返事を確認してケーキの箱を持ってキッチンへ行こうする

 ふと顔を上げると、颯人がこちらを見ていた

 

 ?

「朝倉さん? なんですか?」

 杏実が不思議に思ってそういうと、颯人は怪訝そうに眉を寄せる


 な……なに?

 

 杏実がその状況に戸惑っていると、スッとフミがソファーの横に立ち、未だ杏実に不穏な視線を向ける颯人に話しかける


「おい。颯人」

「あ?」

 颯人はそのフミの呼びかけに、フミの方へ視線を向ける


「あんたが言ってた件について、ちょっといい事思いついたんだ。話あるから、部屋まで来な」


 この二か月で気が付いたことだが、フミは杏実と話す口調と、颯人と話す口調が異なる

 ちょっと“ヤンキーちっくなお祖母ちゃん”に変化するのだ。雰囲気も怖い

 しかし颯人も負けじと口が悪いので、特に問題はないようだ

 昔からこんな感じなのかもしれない


 しかし今回は、颯人にも身に覚えの無いことだったのだろう

 颯人はフミの突然の言葉に、怪訝そうに言い返す


「俺が言ってた件? 何のことだよ」

「前に言ってた杏実ちゃんの…」


 え? 私?

 

 険悪なムードにハラハラして傍観していた杏実は、自分の名前が出てきたことにびっくりする

 しかしフミも杏実が聞いていたことに気が付いたのか、ハッと口をつぐんだ


「なんでもいいだろ。ほら、つべこべ言わず来るんだよ!」

 そういって部屋の方へ歩いていく

 颯人はまだ納得がいかないようだったが、渋々ながらフミの後をついていく


 私のこと?

 さっぱりわからない…

 というか……颯人が杏実の話題をフミにすることすら想像できない

 いや………颯人が杏実について話すとすれば、否定的な何かだろう


 もう、会いたくないからやめろ……とか?

 

 自分で考えてへこむ


 杏実がそんなことを考えながら、フミの部屋に入ろうとする颯人を目で追っていると、颯人が突然振り向いた


「おい、杏実」

「ひゃい!」

急に呼びかけられたことにびっくりして、変な返事をしてしまった


「なんで、俺には聞かない?」

「え?」


 聞く?

 なんのことだろう


 杏実が不思議そうにしていると、颯人が不機嫌そうに眉をひそめた


「フミ婆と圭さんには飲み物聞いといて、俺のはどうするつもりだった」


 あ!

――――――― すっかり忘れてた


 というよりも、颯人の飲み物は必然的に杏実と同じ『ミルクティー』だと思っていたのだ

 長年の癖

 しかし……そんなこと颯人は知らない

 目の前で二人に聞いて、すぐにキッチンへ行こうとしていた杏実を見て、おかしいと思うのも無理もない

“まさか……俺の分は入れないつもりだったんじゃないだろうな” と言わんばかりの視線だ


 怖い!!

 杏実はあわてて弁解する


「す……すみません!? 朝倉さんには私と同じミルクティーにするつもりで……入れないつもりじゃなくて!……癖で……じゃなかった…あわわ…」

 もう大混乱だ

 どうすればうまく弁解できるのかわからない


 そんな杏実の言葉を受け、颯人は一瞬目を丸くする。そしてすぐに再び顔をしかめると、動揺している杏実に向かって言い放った


「じゃあ。それでいい」

 そういってフミの部屋に入っていった


 え?

 もう少し追及されるものと思っていた杏実は拍子抜けする


『それでいい』

……どうやらミルクティー( それ )でいいらしい


怖かった………が、変わらぬ“同志”の言葉に思わずおかしくなる


「ふふふ……」

思わず笑い出した杏実の様子を、圭が面白そうに見ていた




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