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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
39/100

39.質問の意図。プレゼントの意味


―――――― 二年前



「君は―――――― 本当の名前はなんていうの?」

 

 何と言われるのか警戒していた杏実は、以外にも平田から普通の質問をされたことに拍子抜けする

 というか平田がその程度のことを改めて聞くということは、本当に店長は店員の名前を徹底して伏せていたらしいということが窺がえた


「千歳 杏実と言います」

「ちとせ あみ……あみちゃんか。ふ~ん。”ちとせ”ってどんな字書くの?」

「千歳飴の”千歳”ですよ」

「ああ……それで“アメちゃん”か…。本当にキャンディちゃんだったんだ」

 平田は納得してうなずいている


 そんなことが気になっていたのだろうか?


 常に杏実のことをからかっていたが、実際杏実に興味を持っていたようには思えない

 やはり女性のこのならとりあえずなんでも知っておきたいのだろうか


「じゃあ……次ね。就職先はどこなの?」

「え…」

 ちょっとそれって個人情報じゃないのか? と思ったが、なんでも答えるようにと言われたので素直に答える


「ここから3駅離れたとこにある「やわらぎの里」という老人ホームです。そこに私の祖母が入居しているので…」

「え? “やわらぎの里”って……御影にある?(ちなみに御影というのは駅の名前だ)」

「ご存じなんですか?」

「ま……あね。ちょっと知り合いがいるんだ」


“知り合い”

 平田の言う知り合いとはきっと女の人だろうと推測する。職員と知り合いとか…

 この軽さなら―――3駅ぐらい超えてしまうと思うから

 そんな失礼なことを杏実が考えているとは知らず、平田はなにか考え込んでから……なにか思いついたように楽しそうに口に笑みを浮かべた


「なぁんだ……そっか…そっか。心配いらないじゃん」

「?」

 

 ひとしきり一人でうなずいた後、杏実の顔を見る

 いつも以上に楽しそうだ


「ありがとう。質問は以上だよ」

「そうですか」

 平田の質問が大したことがなくてホッとする


「まあ……アメちゃんにはお世話になったしね~。ちょっと今は無理なんだけど……後日“退職祝い”っていうことでとびきりのプレゼントを贈らせてもらうよ」


 はぁ?

「ええ~!!!け……結構です!?」

 平田の“お祝い”なんてどうせろくなもんじゃない


「ふふ……まあそう言わず……実はさあ…」

「本当に結構ですから!!」

そういって「お世話になりました」と言って踵を返す


「きっと気に入るとおもうけどなぁ…」

 後ろから楽しそうなつぶやきが聞こえてきたが、振り返らずに玄関へ歩いていく

 平田の含み笑いは外に出ても、杏実の耳の中に響いているように思えた



―――――


 今ならわかる。平田のあの質問の意味が

 

 平田は知っていたのだ


 杏実の好きな人が朝倉であること

 朝倉の祖母であるフミが「やわらぎの里」に入居していて、朝倉がたびたびそこに出入りしていたこと


 そして杏実は、偶然にもそこに就職した

 面白いネタだと思ったのだろう

 しかし………平田の意向に反して、杏実はこの二年間、朝倉と再会しなかった


 それで“あの合コン”?


 “プレゼント”と言っていた

 杏実のためにあの企画を立てたということだ(まあおおかたついでだろうが)

 そんなことして、平田に何のメリットがあるんだろう


 単純に杏実のため?

 それとも杏実が振られるのを見たかった?


 わからないが………多分ろくな理由じゃない。全く悪趣味だ

 改めて平田にはかかわりたくないと思うのだった


 しかし颯人の近くにいるかぎり、平田にかかわらずにはいられないことを――――杏実はまだ知る由もないのだった


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