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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
37/100

37.背中越しに……

 

 祖母たちと旅行してから2ヶ月経った

 

 偶然にも杏実と颯人は親友の孫同士であった。しかし本当なら接点のない二人

 しかしフミは黙っていなかった


 あの手この手を使って二人を出会わせた

 フミから外で食事をと誘われると、颯人が現れた(その時は怒って帰ってしまった)

 珍しく映画を見ようと誘われ、行くと隣には颯人がいた(おばあちゃん達はこなかった)

 オーナーの権限を使って杏実を呼び出したこともある(あの時は何の用かあせった)

 

 颯人は最初こそ怒って帰ってしまったのだが、2回目からは杏実に言っても仕方ないと思ったのか、付き合って食事をしたりしてくれていた

 颯人は勘がいいので、杏実のようにすんなり騙されないようだが、その手腕はさりげないうえに、割と強引らしい。もともと日ごろから無理難題を押し付けられているらしく、どうやらその区別がつきにくいようなのだ

 

 詳しくは知らないけれど…


「それじゃ……それがフミさんのケーキですか?」

「まあな」

「じゃあ……私少し遅れてきたので、朝倉さんが帰る前でよかったです」

「よかった……って…」

 

 杏実の楽天的な発想に颯人はあきれて苦笑する


「品物受け取るまでしばらく待たされたからな。大方二人揃うまで、渡さないでほしいとかあらかじめ言ってたんだろうな」


 おお……なるほど

 すごく用意周到だ


「フミさん徹底してますね…」

「感心してんな……あほ」

 颯人はそういうと、杏実の頭をコツンッと叩いた


 あほって…


 そう思うが、颯人が杏実に言葉を返してくれる

 そんな当たり前のことがうれしくて思わず笑ってしまった

 突然笑い始めた杏実にさらに颯人は怪訝そうにしている


 店の外に出て、颯人は杏実のつかんでいた手を離した

 今は初夏。冬でもないのに颯人から伝わるぬくもりがなくなると、急に手が冷たくなったような気がした


 もっと繋いでいたかったな


 杏実はこっそりとそう思う。贅沢な望みだとわかっている。でも思うのは自由だ。杏実のそんな思いには気づくはずもなく颯人は平然としたものだ


「用事はこれだけだったのか?」

「いえ。おばあちゃん達から頼まれた物もあったんですけど……もう終わりました。このケーキを受け取ったら、おばあちゃんのとこに帰るつもりだったんです」

 杏実がそういうと、颯人は何か言いたげに杏実を見たが、何も言わずそのまま「そうか…」とつぶやいた。

その表情に疑問も感じたが……ハッと思い立つ


「もしかしてなにか用事があったんですか? 私、今からおばあちゃん達に会いに行くだけなのでケーキは渡しておきますよ」

 そういって、ニコッと笑う

 そして颯人が持っていたケーキの袋を取ろうと、手を伸ばす。しかしさっと杏実の伸ばした手から袋が離れた


「違う」

「え?」

 頭上から不機嫌そうな声色が響く。戸惑って頭上をみあげると、それと同時に杏実の持っていた紙袋が颯人に奪われた


「こんな休みの日に、ばばあどもの用事しか予定がないことに気の毒に思っただけだ。いくぞ」

 そういって、さっさと歩き始めてしまう


 颯人は杏実よりも足が速い

 遅れないように早足でついていく


 どうやら荷物を持ってくれるらしい


 言葉や態度は冷たいが、颯人の不器用な優しさが伝わる

 うれしかった



 何気ない会話を交わしていると、突然颯人が立ち止った

 少し後方を歩いていた杏実は、思わず颯人の背中にぶつかってしまう


「…った」

 鼻孔にふんわりと颯人の木のような深い優しい香りがした


 ぶつかったときに少し赤くなった鼻の頭をさすっていると、背中越しに颯人の声が聞こえた

 誰かと話をしているようだ


「よお」

「朝倉と休みの日に会うなんてめずらしいね。なにしてんの?」

「あ? ……これだよ」

 そういうと持っていたケーキの袋を少し持ち上げる


「あはは………フミさんも相変わらずだね~。毎回なんだかんだ付き合ってる朝倉にも感心しちゃうよ~」

「逆らうと後でえらい目に合う」

「あはははは……!!それで海外飛ばされたんだもんね~」

「あれは恵利が…」

「彼女にもいつも振り回されてるもんね~? まあ……今回は結果的に出世できたんだしよかったんじゃないの?」

「バカ言え。あっちで俺がどんだけ仕事してきたと思ってんだ」

「ふ~ん……まあ朝倉の事情なんて興味ないけどね」


 海外?


 よくわからない言葉も飛び交っている

 颯人のくだけた様子やフミのことを知っていることから、かなり親しい間柄らしい。しかし―――


 この声…なんか聞き覚えがあるような…

 そっと背中越しに覗いてみる


 そして後悔した


「あれ?」


 気が付かないように、そっと覗いたにかかわらず、杏実にその話し相手が気が付いた

 その人物を確認すると、杏実はびっくりして言葉を失う

 いや…

 もっと早く気が付くべきだった……あの声………口調……軽さ…


――――――平田がそこにいた




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