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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 1 〉
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3.朝倉 颯人

 朝倉 颯人。入社6年目。


 平田とは同期。モデルのような整った顔立ちをしており、背の高さはおそらく180センチ近くあると思われる。広い肩幅に、大きな手。一見すらっとして細身に見えるが、腕時計越しに見える手首は骨太で、シャツ越しでも筋肉質で男らしい体つきををしているのがわかる。


 容姿がこれだけ整っているので、平田同様に女子社員からかなり人気があるのだ。

 しかし―――――平田とは正反対に、女子社員に対して無愛想。

 仕事に関係のない会話や付き合いはすべて断られるらしく、しつこく付きまとう女性に対しては容赦ない。冷たい視線でにらまれ、氷のごとく辛辣な言葉を浴びせられるらしい。


 よってひそかについたあだ名は『黒の王子』


 直接被害を受けた女性は二度と立ち向かえないらしいが、それ以外の女子からは硬派で素敵!……と人気がある。


 仕事面ではかなりのやり手で、若くして現在は主任。彼を指名する顧客も多く、判断・スピードも速く的確らしい。

 その風貌のよさと仕事に対する姿勢から男性社員からはかなり人気が高い。女子社員に対する態度と打って変わって男性とは付き合いがよく、特に平田とはよく飲みに行くという噂だ。


 そう聞くと女の人が嫌いなのか?

 ………と思うところだが、入社してから2~3人彼女がいたという噂。一応、あっち系(店長のような?)の人ではないらしい。しかもみんな飛び切りの美人だったらしい。


 まあ……その情報もすべてここに来る女性社員とパートの奥さん方から得られた情報…

 というのも『スクラリ』では平田同様、彼の話を聞かない日はないのだから。



 そして杏実は――――――そんな彼に報われない恋をして、三年になる。



 コーヒーフィルターから緩やかに落ちる水滴。辺りに香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。この香りは心を幸せにする効果があると思う。

 隣では小さな小鍋で温めたミルクが、小さな泡を立てながら柔らかな湯気を立ち上らせている。小さな気泡を見つめながら、杏実はふと昔を思い起こした。


 恋するきっかけ。

 彼が……杏実に表情を和らげてくれるようになったきっかけ。



 あれは三年前―――




『ミルクティーを”オレ”にして作ってもらうことはできないのかな?』


 注文の際そういったのは、入社2年にして『黒の王子』と噂されていた朝倉だった。

 整った顔立ちと首に下げた社員証から、スクラリの中でも入社当初から常に名前が認識されていた彼。なにより店内ではいつも不機嫌そうに顔をしかめているので、ある意味杏実には気になるお客だった。

 しかし注文以外で話しかけられるのは、この日が初めてだった。杏実はびっくりして言葉を失う。

 何より初めて合った視線―――――その黒い瞳は強い意志と人を魅了する強力な引力のような力を秘めていて、思わず引き込まれたのだ。


「聞いてますか?」


「あ……す…すみません。なんですか?」

「いや……ミルクティーを注文しようと思うんだけど、牛乳(ミルク)でミルクティーにできないのかなっと思って。どうもコーヒフレッシュでは味が……」

「……ああ…………わかります」

「え?」

「いえ……。店長に聞いてきますね。お待ちください」


 まさか噂の彼から話しかけられるとは思いもよらない出来事だった。しかしその内容には杏実にとって大いにうなずけるものだった。


 実のところ杏実もかなりのミルクティー好きなのだ。

 そしてロイヤルミルクティーのようなミルクで作る『オレ派』。温めたミルクで作るミルクティーは、まろやかで癖もなく後味もスッキリしており、ほのかな茶葉の香りも良い。

しかしながらスクラリの紅茶、いわゆるミルクティーには市販のコーヒーフレッシュが「御勝手にどうぞ」と言わんばかりに横に付けられて出されるのだ。

 アルバイト当初からそのことを不満に思った杏実は、何度か店長に掛け合ったことがあった。コーヒーに関しては豆からこだわりを見せ、淹れ方も指導があるほどだから改善の余地があると思われたからだ。しかし店長は紅茶にはまったく無頓着らしく聞く耳を持ってもらえなかった。コストと手間を考えてのことと頑として譲ってもらえたかったのだ。

しかし「アメちゃんが好きなら休憩用はオレにして作ってもいいわよぉ~」というので、休憩時間の自分用のみ『オレ』にして飲んでいた。

 茶葉はなかなか美味しいものを使っているのに、まったく勿体無いと思う。


 しかし今回はついにお客様から意見が出た。

店長も考え直すかもしれない。

 杏実は少し期待を膨らませ、店長を呼びに行ったのだ。


 しかし……その期待むなしく答えは―――――「NO!」


 結局、朝倉はストレートで紅茶を飲んで帰っていったのだった。いつものように不機嫌そうな様子で……


 そして3ケ月ぐらいたった、ある日のこと――――――

 朝倉は一人で『スクラリ』に入店してきた。



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