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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 3 〉
29/100

29.二人きりの夜~4

まるでクラッカーのようだった


くるくるの回る金色のリボンや、赤や黄色の色とりどりの小さな紙ふぶきが、ひらひらと二人の頭上から落ちてくる

あの小さな個体の中にどれだけのものが詰まっていたのだろう

その光景に呆然とする


まさか破裂しちゃうなんて…いったい何が起こってるの?


でも……きれいだな~と思ってしまう

心を揺さぶられる体験を短時間で何度もしたせいか、妙に冷静に眺められていた

本当の理由は……一瞬、隣にいる颯人の存在を忘れていたせいだろうけれど


気が付くと、頭上に舞う紙ふぶきの中に、小さなパラシュートがゆっくり降りてくるのが見えた


とっさに手を伸ばして、それを受け止める

パラシュートには小さな巻物のような紙がくくりつけてあった


なんだろ?


パラシュートの紐を解いて、その巻物のようなものを取り出す

その時、ふと視線を感じて顔を上げると、颯人もその手の中のものを見ていた

颯人が近くにいたことをすっかり忘れていた杏実は、再び心臓が跳ねるのを感じた

さっき頬に感じた颯人のぬくもりと、杏実を誘うような黒い瞳が脳裏に浮かび、あわてて打ち消そうと首を振り、颯人から視線を逸らした

そして動揺を悟られないよう……冷静を装うために口を動かす


「これ、なんでしょうか?」


颯人はちらっと杏実を見てから苦笑する


「なんだろうな。……まあろくなもんでは無いことはわかるな」

「……そうなんですか?」

「……恐らくな」


まるで中身がわかっているかのような言い方だ


そういえばさっきも、「もう一回来る」と言っていた。ひょっとして颯人はこれを仕込んだ犯人が分かっているのではないだろうか

杏実がそのことを聞こうと口を開きかけた時、その隙をついて颯人は、ヒョイっと杏実の掌の中にある巻物を取り上げた


「あ!」

とっさに杏実が取り返そうと手を伸ばすが、颯人は頭上に手を上げて、届かない位置にそれを掲げる


「朝倉さん! 返してくださいよ」

颯人は杏実の抗議の声を無視して、杏実の頭上でその巻物を開く

そして――――――ピタッと体の動きを止めた

表情も固まっている


「朝倉さん?なんて書いてあるんですか?」

杏実はその様子を怪訝に思いながらも、颯人に問いかける

自分でも中身を見ようとするが杏実のはるか真上にあるため、颯人の方に身体を乗り出さない限りそれは無理だろう

先ほどの出来事が思い出されて、颯人にこれ以上近づく事はためらわれた


その紙には、何か大きく文字が書かれているようだが、裏からましてや薄明りということもあって、内容はわからなかった

再び颯人を見ると、先ほどより明らかに顔色が曇っている

漂う黒いオーラと限りなく細められた瞳に、思わずビクッと身体を揺らす

怖い……しかしその理由がわからなければ意味がない

思い切ってもう一度たずねてみることにした


「私にも見せてくださいよ! 犯人が分か…」

「萌のやつ……帰ったらぶっ殺す」

杏実の言葉が聞こえていないのか、颯人はそうさらに低い声でつぶやくと、手のひらで紙をぐしゃっと潰してゴミ箱へ放り投げた

紙は緩やかな放物線を描き、きれいにゴミ箱の中に納まった


「おお!!」


思わずその鮮やかなシュートに、感嘆の声を上げる

その声を聞いて、颯人も我に返ったのか杏実を見た


って私も感心してる場合じゃない!?


「朝倉さん! なんで捨てちゃうんですか? なんて書いてあったんです?」

「お前には関係ない」

「関係……ってありますよ。怖かったうえに、目の前で爆発したんですから」

「紙のことは忘れろ」

「そんな…。だって……犯人が分かるかもしれないじゃないですか」

「犯人ならわかってる」

「え?」


わかってるって?


「現物を見たときから大体の見当がついてた」

「誰なんですか? やっぱりおばあちゃん達?」

「いや違う。萌だ」


「もえ?」

颯人から女の人の名前が出たことにドキッとしてしまう


恋人の名前とか?


そう思うと不安で胸がドンドンと波打つ

―――――怖い


「萌って……誰ですか?」

「あ? お前会ったことないか?」


会った?


とっさに『スクラリ』で働いていたころ、颯人に親しげに話していた女性たちを思い出す

みんなきれいに化粧をして、かわいい人ばかりだった

特に”元カノ”と噂されていた人もかなりの美人

『萌』

しかしそんな名前の人は、思い当たらなかった

しかも杏実が『スクラリ』で働いていたことを、颯人が知っているわけがない

今日で3回目?……の出会いなのだから


「わ……からないです」

「そうか。まあ、あいつもそんなしょっちゅう顔だしてるわけじゃねーか…」


”あいつ”

親しい関係の人なんだ…


しかし杏実が暗い気持ちになりかけたとき、颯人から意外な言葉が返ってきた


「萌はフミ婆の孫。俺といとこ」

「へ…?」


いとこ?


「まあいとこ…つっても、あいつが生まれたときから一緒に住んでたから、妹みたいなもんだけどな」

「妹ですか…」


はは…

安心して気が抜けた

そんな杏実の様子に気が付かず、颯人は事情を説明し始めた


「あいつ、超メカオタクで最近結構凝ったもん作るようになりやがったんだ。こんなもん作るのなんて朝飯前だろう。まだ高校生なんだけどな」

「朝飯前って…」


そんなことある?

作りも精巧だったし、動くおもちゃぐらいだったらモーターかなんかだと思うけど、音が鳴ってカウントダウン…しかも破裂した上にパラシュート?

しかも高校生?!


とても『そのいとこ』が作ったなんて思えない

杏実が納得のいかない表情を浮かべていると、颯人は口角をかすかにあげて意地悪そう笑う


「疑ってんな?」


う…

ばれたらしょうがない。杏実はしぶしぶうなずく


「まあ……お前がそう思うのも仕方ねーけど。でも俺はこれ系のおもちゃに何度か被害を受けてる」

「そうなんですか?」

杏実はその発言に目を丸くして颯人を見返す


「まあな。だから確信が持てる。……まあ確かに性能も上がってたし、最初見たときはいつもと使い方が違ってたから、萌の仕業じゃないのかもしれないとは思ったんだが…」

「どういう意味ですか?」


いつもと使い方が違う?

いつもはどんなふうに使われてるんだろう?


颯人は疑問いっぱいの杏実の顔を見て、短くため息をつく

「まあ…それはいいんだよ。とりあえず今回は萌の仕業ってわけだ」


ますますわからない


「どうして朝倉さんは萌さんだとわかったんですか?」

そういってからハッと思い出す


あの紙だ!

あの紙に萌さんからの”メッセージ”が書いてあったんだ

そう思って、先ほど颯人が投げたゴミ箱の中の紙を拾おうと上体を浮かす

しかし颯人は杏実の腕を素早くつかみ引き留めた


「何をする気だ?」

颯人から不穏な空気が漂う


気づかれた!?


「えっと…紙の中身を…」

その雰囲気にたじろぎ、しどろもどろになる

颯人はさらにつかんだ手に力を入れて、杏実をとどめようとした


「あれのことは忘れろ、と言ったはずだ」

「そんなぁ………気になります」

その言葉に一層颯人の視線は鋭くなる


こ…怖い


「だ……だって…朝倉さんが確信を持てたってことは、あの紙は萌さんの何かメッセージだったんじゃないんですか? 私にも知る権利が…」

「絶対ダメだ!」

そう強い口調できっぱり言われると、杏実も何も言われなくなる

杏実が反論の言葉を一瞬飲み込むと、颯人は納得したと思ったのか、もう話は終わりという風にぱっと杏実の手を離した


うう…横暴だよ

『黒の王子』

そのあだ名が付いたのは怖いだけじゃない。王子様のごとく『俺様』な性格も例えられていたに違いない。そう確信する


残念な気持ちはあるが、渋々紙のことはあきらめることにする


そうするともう一つ疑問が湧いてきた


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