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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 3 〉
20/100

20.老舗旅館へ到着

旅館は100年もの歴史を持つ老舗


大きな建物だが、その一つ一つがゆったり作られており、部屋数はそれほど多くないらしい。内装はモダンで、ロビーからおしゃれな庭園も眺められる。過ごしやすそうな雰囲気だった

杏実たちの部屋は最上階にあるらしく、老舗らしいゆっくりペースの仲居さんについていく

廊下もすべて絨毯張りで……フカフカで気持ちがよかった



ピッピー

「これで鍵が開きますので。」

仲居さんのカードキーの説明と共に部屋に入る

杏実たちの部屋は、和洋室。奥にベットが備え付けられており、それ以外の和室二部屋と露天風呂までついて、「さすがフミさん!」と思う豪華なお部屋だ

露天風呂付きの部屋は、足の悪い圭のためにフミが選んだと言っていたので、その配慮に感謝である


夕食は、今まで食べたこともないような豪華な懐石料理だった。それをみんなでおいしくいただいた後、杏実が仲居さんの片づけを手伝っていると、フミさんが思いついたように、杏実と向かいでまだお酒を飲んでいた颯人を見て口を開く


「あんた達、大浴場に入っておいで」

「え?」

「は?」

その声に二人同時に反応してしまい、一瞬びっくりして颯人と目が合う

車で気まずい会話をしたのち、颯人は杏実を一貫して無視していた(フミたちがいるためか、杏実の発言に気分を害したのかわからない)

よってそれ以来初めて視線が合ったのだ

杏実は一瞬表情が固まる。瞳が戸惑いで揺れた

颯人は目が合うとすぐに視線を逸らしてしまった


ズキッ

そのしぐさに胸が痛む

車で颯人に強く感情をぶつけてしまったことを、いまさらながら後悔した

誤解があるとはいえ”御曹司”の件は……颯人には関係のないことだったのに…


「なんでこいつと入りに行かなきゃなんねーんだ。風呂ならそこにあんだろ」

落ち込む杏実とは対照的に、冷静な声で颯人はフミに言い返す


「颯人。この露天は圭ちゃんと、私の風呂だよ。あんたたちは入れないんだよ」

「はぁ?」

颯人はあきれたように声を出し、怪訝そうに眉を寄せる


え?


杏実はひそかに部屋の露天風呂を楽しみにしていた

落ち込んでいたのも忘れ、口をはさむ


「なんで……フミさん、私楽しみにしてたのに!」

「杏実ちゃん……ごめんよ」

「私、女同士だし一緒に…」

「それじゃ颯人が一人でかわいそうだろ~?」

「あ…」


そうか…

いまさらながらその事実に気が付いて抗議の勢いを弱める


朝倉さんだけが……って駄目だよね…


がっくり肩を落とす

そんなフミたちに丸め込まれそうな杏実の様子を見て(かばってくれたのか)めんどくさそうに颯人が口をはさむ


「俺は別に一人で…」

「黙んな。颯人」

すかさずフミのどすの利いた声と鋭い視線が飛んだ。反論は無駄だと判断したのか、チッと颯人が舌打ちをするのが聞こえた

あの『黒の王子』と恐れられている颯人を、一瞬で黙らせる人物がいたとは…

その初めて見る光景にびっくりしていると、再び表情と声色を和らげたフミが杏実に向き直る


「というわけで、杏実ちゃんは大浴場で入っておくれ」


そ……そんな~


「お……おばあちゃん」

きっぱりと杏実の願いを打ち消すフミに、思わず圭に助けの視線を送る

圭はにこやかに杏実に笑いかける


う…

この笑い方……さらに嫌な予感がする


「杏実。あんたはあくまでも付き添いでしょ? つべこべ言わずいってらしゃいな」

ざっくりと切られる


杏実は渋々ながら、用意を始めることとなった




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