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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 3 〉
19/100

19.車内にて。


 奇跡のような再会を経て―――最悪の別れ

それで終わってしまうと思っていた

しかし神様ってきっと悪戯好きらしい


嘘のような……現実が杏実に降りかかっている気がする

今、杏実は朝倉の車の助手席に座っていた


あの後わかったことだが、朝倉はフミさんの孫だったのだ(本当にいたとは驚いた)


そう―――――例の孫


よって、フミの口癖のような”嫁発言”

……冗談だと(孫すらいないのだと)思っていた杏実だが、フミの妄想によると、どうやら杏実は朝倉の『未来の孫嫁』ということになる

とはいえ現実には嫌われてしまった杏実は、今日一言も話せていない

フミがいくら注意しようと、杏実の質問には完全無視

まあ普段の、朝倉の女性に対する態度を考えれば当然のように思えるが、『スクラリ』の時のような表情を、見れないのはやはり悲しかった

でも………

完全に断たれたと思っていた朝倉との接点が、思いがけず繋がり杏実はうれしいと思う

そしてこんなに近くに朝倉を感じれることが


「おい」

朝倉が小さく呼びかける声が聞こえた。それまで話をすることや、ましてや話しかけられることなどなかった杏実は、当然フミや圭への呼びかけと思い反応することなく窓の外を見ている

すると再び声が聞こえてきた


「おい!お前」


え?


ぼんやりとのどかな景色を見ていた杏実は、その声に少しびっくりして朝倉のほうに目を向ける

朝倉は杏実のほうを見ていた。その表情は相変わらず不機嫌にしかめられてはいたが


「え…私?」

「ほかに誰がいる」

後部座席を見ると圭もフミも寝息を立てて眠っていた


「あ……おばあちゃん達、寝ちゃったんだ…」

「お前、車酔ったりしてないのか?」

「え?……なんで急に話…」

話しかけられたことにびっくりして、つい本音が出てしまい……あわてて口を手でふさぐ


朝倉は、その言葉を聞き、さらに眉をひそめた

その表情は「なんか文句あんのか」と言っているようで、杏実は否定するように必死で首を振る

その様子を見てか、しばらくすると短くため息をついて表情を和らげた

そして前を見ながら、ゆっくりと話し始める


「圭さんやフミ婆がいる時に話すと、うるさいからな。………”嫁”だのなんだのって、勝手に言いやがるし…」

「え?」


ひょっとして、フミは朝倉にも杏実のことをいろいろと言っていたのだろうか?


あの時……杏実を”合コンの時の千歳”だと認識する前に、フミさんは杏実を圭の孫だと紹介した

その時の朝倉の嫌そうな表情が、疑問に残っていたが……そういった理由かもしれないと思うと合点がいく


フミさんったら…


フミが朝倉に杏実のことを薦め、朝倉が明らかに嫌そうな顔をする……容易に想像できるので、なんだかおかしくなってしまう


「なにがおかしい」

想像して思わず笑ってしまった杏実に、鋭い指摘を投げかけられる


朝倉さんの前だった…

これ以上嫌われたくはないので、あわてて説明する


「ご……ごめんなさい。フミさんが朝倉さんにも同じこと言ってたんだと思うと、おかしくて…」

「は?」

朝倉は訳が分からないという風に、一層顔をしかめた


「……私もフミさんに、孫と結婚しなさいって散々言われてたので。……フミさん、面白いなって思って」

杏実が説明すると、朝倉はあきれたように「はぁ~」とため息をつく


「全く面白くない。……ったくどうしようもねえな」

投げやりな言葉に、なんだか共感を覚えてしまう。案外、お互い祖母に振り回されいる同志なのかもしれない

そう思うとうれしかった


「ふふっ…」

杏実が笑っても、朝倉は今度は何も言ってこない

朝倉も同じ気持ちなのだろう


「ところで……酔ってないのかよ」

唐突に朝倉は杏実にそう尋ねてきた

どうやら突然杏実に話しかけたのは、このことを聞くためらしい

少しのお酒にも酔ってしまった杏実を心配してくれていたのだろうか?


「……大丈夫です。弱いのはお酒だけだから…」


杏実がそうゆうと、前を向いていた朝倉は、顔色を確認するようにじっと杏実を見つめてきた

視線を向けられたことにびっくりして、胸がドキッと跳ねる

どうやら車は、信号で止まっていたようだ

そして朝倉は杏実が元気な様子に安心したのか、「ふ~ん…」とつぶやいた



―――お酒


そのキーワードは、自然と朝倉とのキスを思い出させ、たちまち顔が赤くなる

杏実は気まずくなって、朝倉から視線を外した


だめだめ……思い出したらだめ

あれは朝倉さんにとっては、何の意味もないことだったんだから!


そんな杏実の感情を知ってか知らずか、さらに朝倉は杏実に話しかけてきた


「……おまえ、あの時とずいぶん印象が違うな。圭さんの前だけ猫かぶってんのか?」

「え?」


猫?

その言葉にキョトンと目を丸くする杏実に、馬鹿にするように苦笑する


「髪も金髪で化粧もケバケバだっただろーが!」


ああ…

その言葉で改めて朝倉に誤解されていたことを思い出した

杏実は誤解を解こうと口を開きかける


「あの、それは…」

「実はほかの連中と一緒で、あんとき”御曹司”狙ってたのか?」


”御曹司”


朝倉の誤解した発言に強い否定の言葉が浮かんだが、それよりも”その言葉”にゾッと嫌悪感が湧いてくる。あの執拗な視線や手つきは、今思い出しても気持ち悪い

思い出したくもない

そんな人に好意を持っていたなどと誤解されるのは、たまらなく嫌だった


「違います!? あの日は先輩に頼まれて仕方なく参加しただけですし……先輩が地味だからって無理やり化粧されて……髪もウイッグで。………ましてやあんな御曹司となんて……やめてください!!」


思わず強い口調になってしまった

朝倉は必至で否定する杏実を見ていた

いまさら誤解を解いたところで、杏実に対する嫌悪感が消えるとも思えなかったが、それでもそのことは否定せずにいられなかった

今後御曹司の名前聞くことすら、杏実は嫌だったから


「そうか…」


朝倉は理解したのか、興味がないのか、そういうと再び運転に集中するという風に前を向いてしまう


それっきり会話は途切れてしまい、目的地の旅館へ到着した




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