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高校三年 卒業式 (後編)

 雅之は運動場で整列していた。

 もうすぐ、卒業式の会場である体育館に入場するからだ。

 落ち着かない様子の雅之は、何度も手の平に人と言う字を書き飲み込んでいた。

 その時、不意に背後から声を掛けられる。


「何、緊張してんだ?」


 突然の事に雅之は驚き飛び上がる。その驚き方に声を掛けた健介も少し驚いた。


「そんなに驚く事ないだろ?」

「だ、だって! 急に声掛けるからさ」

「何の話?」


 雅之と健介の間に、和彦が笑顔で乱入してきた。もちろん、雅之は「うわっ」と、驚きの声をあげ、健介と和彦は変な目で雅之を見ていた。

 二人に背を向け、手の平に人と言う字を書く雅之は、何度もそれを飲み続けた。


「ユキの奴何してるんだ?」

「あれだ。緊張を解そうとしてるんだとさ」

「あれって、効果あるか?」

「さぁ? 本人の気持ち次第じゃないか?」


 呆れた様子の健介は、目を細め雅之の背中を見据えていた。和彦は「ふ〜ん」と言いながら軽く首を縦に振った。

 その時、列の前方から担任の声が聞こえる。


「オイ! そこ、ちゃんと並ばんか!」


 もちろん、この声は健介と和彦に向けられたもので、二人は担任の死角へと隠れた。


「完全に、俺等に向けた言葉だったな」

「そうみたいだね」


 和彦がそう言い微笑んだ時、身近で携帯の着信音を鳴らしている者がいた。

 何と無く聞き覚えのある着信音だが、健介も和彦も電源を切っているため自分のではないとすぐに気付き、辺りを見回す。


「誰だよ。携帯の音鳴らしてるの」

「マナーにするか電源切るか、どっちかに出来ないのかな?」


 健介と和彦がそう言った時、目の前で携帯を取り出した者がいた。

 その人物とは、先程まで手の平に人と言う字を書いていた雅之だった。

 もちろん、その携帯からは着信音が鳴り響いていて、周りの生徒が迷惑そうな目を向けていた。


「アハハハハッ。僕のだった」


 笑いながら健介と和彦の方に携帯を向ける雅之に、呆れたようにため息を吐く二人は「早く出ろ」とほぼ同時に言った。

 笑顔を見せる雅之が携帯を開くと、画面に見覚えのない電話番号が映っていた。

 「う〜ん」と唸り声を上げる雅之が、軽く首を傾げた時、また前方から担任の声が響く。


「誰だ! 携帯を鳴らしてるのは!」


 その声に健介は、


「マサ! 何やってんだ! 早く出るか切るかどっちかにしろ!」

「う、うん。そうだね」


 少し焦りを見せながら、雅之は電話に出た。


「もしもし?」


 恐る恐るそう言うと、オドオドと慌てた様な声が聞こえてくる。何処か聞き覚えのある声。

 眉間にシワを寄せる雅之に、和彦が問う。


「誰からだ?」

「聞き覚えがあるんだけど……」


 そう言った次の瞬間、


『わ、私よ! 久美子!』


と、携帯の向うから聞こえた。

 その言葉で、ようやく声の主が久美子だと分かった雅之は、「あ〜ぁ」と、言い大きく頷くと、笑顔で和彦に「久美子からだよ」と、伝えた。

 何と無く気分が落ち着いた様子の雅之は、なぜ電話をしてきたのか聞く。


「どうかしたの? 慌ててる様だけど」

『そ、それが! 安奈が――』


 一瞬で雅之の表情が変わる。明らかに先程までとは違う顔付きの雅之に、健介も和彦も不安になった。

 ゆっくりと、右手を下ろし電話を切った雅之は、暫く俯く。

 と、そこに担任がやってきて怒鳴りつける。


「お前か! 携帯の音を鳴らしていたのは!」


 担任は雅之に怒鳴る。だが、反応は無い。担任はそんな雅之にもう一度声を上げた。


「倉田! 人の話を訊いている――!」


 その時、突然雅之が走りだした。


「お、オイ! 倉田! お前!」

「雅之は、俺と和彦が!」

「ま、待て! 加藤! 白羽!」


 担任の声など無視し、健介と和彦は雅之の後を追った。

 もちろん、走るのがそんなに速いわけじゃない雅之に、健介も和彦もすぐに追い付く事が出来た。

 だが、雅之がどこに向っているのか二人には分からない。ただ、ひたすら雅之についていった。

 暫く走り、人通りの多い駅前につく。この瞬間、健介も和彦も何処へ向うかおおよそ予測がつき、切符を買う前に雅之に問う。


「ユキ! 何があったか説明しろよ! 卒業式を駄目にしてまで行かなきゃいけない事なのか?」


 強い口調でそう言う和彦に、雅之は返事を返さない。それどころか、切符を買ってそそくさと駅の中に行こうとする。

 そんな雅之の右肩を健介は力強く掴んだ。


「おい! 待てよ。何で無視すんだ」

「ごめん。でも、急がないと……」


 何だか泣きそうな声の雅之に、健介も和彦も顔を見合す。

 そして、和彦は静かにため息を吐き、切符を二枚買い一枚を健介に手渡した。

 薄らと目に涙を浮かべる雅之は、二人の顔を見て震えた声で言う。


「健介、和彦」

「それより、急ぐんだろ? あっ、でも、ちゃんと事情は聞かせてもらうぞ。電車の中で」

「うん。わかった」

「ま、待てよ。俺も行くのか? 卒業式はどうすんだ!」


 歩き出した二人に、健介がそう言う。だが、和彦が微笑みながら言う。


「今、戻っても式には間に合わないよ。こうなったからには三人仲良く校長室で卒業証書を貰うしかないよ」

「けどよ。由梨絵や親になんて言えば……」

「まぁ、そこは上手く誤魔化せば良いさ」

「あのな〜」


 少し怒った様な表情を見せた健介だったが、渋々と言った感じで二人の後に続いた。

 何とか電車に乗り込んだ。健介と和彦はそこで、やっと雅之から事情を聞いた。


「それじゃあ、今病院なのか?」

「うん。久美子が言うには」

「でも、鈴木が事故に……」

「何でも、道路に飛び出した男の子を助けようとしたとか……」


 少し泣きそうになる雅之に、健介は励ましの声を掛けようと思ったが、言葉が見つからなかった。

 それから暫く、電車に揺られ続けようやく駅に辿り着いた。

 相変わらず、乗り物酔いでフラフラの足取りの雅之は健介と和彦に支えられ駅を出た。


「それで、何処の病院だ?」

「ウウッ……。確か、青山病院とか……」

「何処だよ、その病院!」


 健介がそう叫んだ時、和彦が一人の若い人に声を掛けその場所を聞き出した。


「青山病院は向うらしい! 急ぐぞ!」

「ああ。って、言うか俺は、コイツが心配なんだが」

「ぼ、僕は……平気だよ……」


 顔色を悪くしながらそう言う雅之は、フラフラの足取りで和彦の指差した道を走り出した。

 そんな雅之を心配しつつ、健介と和彦は後に続いた。額から汗を流しながら走り続けた三人は、ようやく青山病院へとたどりついた。

 雅之はすぐさま受付へと急ぐ。


「す、すいません! ここに、す、すす、鈴木 安奈さんがいるって!」


 焦りながらもそう伝えたその時、雅之の背後から驚いた様子の声が聞こえた。


「えっ、ま、マサ!」


 安奈の声。雅之はその声に振り返る。

 そこには、腕に包帯を巻いた安奈の姿があった。


「あ、安奈?」

「どうしたの? そんなに慌てて。あれ? 今、式の最中じゃないの?」


 落ち着いた様子の安奈に少々戸惑う健介と和彦。雅之の方は、ホッとしたのか何だか目に涙を浮かべている。

 首を傾げる安奈に、和彦は疑問をぶつける。


「鈴木。お前、事故にあったんじゃないのか?」

「事故? 私が? 誰が、そんな事」

「久美子から、連絡あったんだよ。マサの携帯に」

「久美ちゃんから?」


 安奈がそう言った時、久美子と冷夏と和美の三人が病院に駆け込んでくる。慌てた様子の三人が受付に行くのが見えた安奈は、呆れた様にため息を吐き言う。


「はぁ〜っ。こんなに軽い怪我なのに、こんなに多くの人を巻き込んじゃって」


 慌てる三人に安奈が駆け寄ると、三人は驚きの声を上げた。


 その後、久美子から事情を聞いた結果、久美子が慌てて大げさに皆に連絡した事が分かった。

 男の子を突き飛ばし、倒れた拍子にちょっと腕を痛めただけで、トラックは安奈に衝突はしなかったとの事。だが、トラックの前に倒れ動かない安奈を目撃した久美子は、安奈がトラックにはねられたと思い、病院に電話し、雅之に連絡して急いで学校へ行き、冷夏と和美を連れてきたとの事。

 もちろん、この後久美子は和美の鉄拳をあびた。集まった皆の大切な卒業式を駄目にしたのだから――。



「かんぱ〜い!」


 雅之の家では、予定通り卒業パーティーが行われていた。卒業証書は後日校長室で受け取る事になるが、今日が卒業式だったと言う事は変わり無い為、パーティーを開催したのだ。

 テーブルの上に並べられた料理を食べる健介。その横には、由梨絵の姿があり嬉しそうに微笑んでいる。

 その向かいには和彦と恵利が楽しげに話しをしており、その横では、久美子がテーブルの料理と睨み合っていた。

 ソファーに座る和美と冷夏は、コップに注がれたジュースを飲みながら、料理と睨み合う久美子をまっていた。


 そして、雅之と安奈は――。


「腕は、大丈夫?」

「うん。平気だよ。体は丈夫だから」


 明るい笑みを雅之に見せる。中と違い静かな庭で二人は話をしていた。


「でも、ビックリしたよ。事故にあったって聞いて」

「ごめんね。久美ちゃんの早とちりで、卒業式駄目にして」

「ううん。いいよ。全然気にして無いから」


 雅之がニコッと微笑んだ。それと同時に安奈も微笑む。


「卒業したんだよね。私達」

「そうだね。お互い違う高校だったけど、何だか同じ高校に通ってたみたいに思えるよ」

「うん。皆、よくマサの家に集まったもんね」

「卒業して、皆それぞれの道を歩んで行くけど、また、こうして集まれるかな?」


 雅之が少し寂しそうな瞳でそう言うと、安奈が不意に雅之に軽く口付けする。

 少し驚いた表情の雅之に、安奈は優しく微笑み言う。


「大丈夫だよ。私はいつまでもマサと一緒だもん」


 笑みを浮かべる安奈に雅之も笑みを浮かべた。その瞬間、窓から皆がコッチを見ているのに気付いた。


「な、なにしてるの?」

「何じゃない二人だけでもりあがんな!」


 久美子はそう言い安奈の腕を引く。

 それから、皆で騒いだ。今までの沢山の思い出を言い合いながら。

 また、ここで皆で騒ごうと、誓った。

 『間違いメール 番外編集』と、題しまして、これまで色々と物語をお送りいたしましたが、遂に終幕を迎えました。

 これまで、数々の感想やメッセージをいただき誠に嬉しく思い感謝しております。

 読者の皆様、この物語を最後まで読んで下さりありがとうございました。まだまだ、人に感動を与えたりする作品は書けませんが、人に感動を与えられる作品が書ける様努力したいと思います。

 本当に、ありがとうございました。

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