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高校三年 三学期―2 (加藤 健介)

 今日で、高校も終わりだ。明日からは卒業式まで三年生は、休みだ。

 その為、今日は午前中で学校が終った。

 することも無く暇だった俺は、いつもの様に雅之の家に来ていた。


「なぁ、何かする事無いか?」

「する事? 勉強でもする?」

「何で勉強になるんだ! 何か楽しい事だよ」

「何か楽しい事? う〜ん。テレビでも見る?」

「テレビ見てるだけで楽しいか?」


 俺が不満の声を上げると、迷惑そうな表情を見せた雅之は、暫く考えて答える。


「それじゃあ、健介は何か楽しい事思いつく?」

「う〜ん。そうだな。彼女とデートとか?」

「由梨絵はまだ学校だよ」

「そうだったな。じゃあ」


 俺は唸り声を上げながら考える。

 あーでもない、こーでもないと考える俺を尻目に、雅之ののん気に家の掃除をしていた。

 俺の目の前を掃除機が横切り、ゴミを吸い取ってゆく。

 その後は、キッチンの方から水の流れる音と食器のぶつかる音が聞こえる。

 きっと、皿を洗っていたのだろう。

 考える俺は雅之がそれらの仕事を終えて戻ってきた時に、口を開く。


「よく考えたが、何も思いつかねぇ」

「まだ、考えてたんだ」


 少し驚いた様に雅之が答えた。

 もちろん、俺は少しカチンと来た。


「何だと、お前、何も考えてなかったのか!」

「そりゃ、僕は掃除しなきゃいけなかったから」

「何だそりゃ! お前、人に考えさせて何やってんだ」

「だって、健介が何かやる事無いのかって聞いたんでしょ? 僕に言われても困るよ」

「ふざけんな! 誰が聞いたとかあるか!」


 俺は怒鳴り立ち上がった。一方の雅之は何故か落ち着いていて、ゆっくり立ち上がりキッチンに向う。

 最近、雅之が俺の事を怖がらなくなった。

 まぁ、それだけ親しい仲になったんだと、実感する。

 雅之がキッチンに行き、一人残された俺は戸惑い怒りも冷めた。

 ため息を漏らし、もう一度ソファーに腰を下ろし頬杖をつく。


「はぁ〜っ。あいつのペースだと、怒りも冷めてしまう」

「でも、怒りながらだと、ケーキも不味くなっちゃうよ」


 そう言いながら雅之がケーキを二皿持って来る。

 そのケーキが視界に入ると、俺はもうさっきまで何を考えてたのか忘れ、ケーキだけをジッと見ていた。

 俺の前にケーキが置かれ俺は、すぐさまフォークを手に取り手を合わせる。


「いただきまーす」

「あっ、言うの忘れたけど、それ由梨絵が作ったのだから――って、遅いか」

「ウガアアアアッ!」


 俺はケーキを口に運びその塩辛さに呻き声をあげた。

 そんな俺を見ながら、雅之は右肩を落としながら半笑いを浮べため息を漏らす。

 流石に俺もこれには怒りが頂点に上った。


「てめぇ! 何食わしとんのじゃ!」

「人の話を聞かないから、そうなるんだよ。それは、昨日由梨絵が一番最初に作った物で、僕が作り方を教えながら何度も作り直して、完成したのがコッチだよって、言おうとしたら健介が勝手に――」

「目の前に置かれたら、食っていいと思うだろうが! 普通」

「言われてみれば、そうかもしれないね」


 笑顔で雅之がそう言う。言われなくても分かるだろう! と、ツッコミを入れたかったが、そんな元気はなくなっていた。

 喉がヒリヒリとしていて、もう声も出したくなかった。


「これ、食べる?」


 雅之がもう一つのケーキを見せる。流石に由梨絵が作ったと、聞いていたためこればかりは食いたくねぇと思っていると、


「一応、試食したけど、最後のこれは美味しかったよ」


と、言い微笑む。

 まぁ、雅之が嘘をつく訳もないと、俺は恐る恐るケーキに手を伸ばす。

 フォークで少しだけケーキを切り、ゆっくり口に運ぶ。

 先程と違って、ケーキの甘さが口いっぱいに広がった。


「ウメェ! おい、これ本当に由梨絵が?」

「そうだよ。何でも、卒業式の時にケーキ作って驚かせるんだって言ってたよ。あっ、これって、言っちゃいけなかったのかな?」

「お前、知らないぞ。由梨絵怒ると怖いんだぜ」

「あ〜っ。まぁ、いいや。健介、ここであった事は聞かなかった事に」


 雅之はそう言い笑った。

 まぁ、俺も別に由梨絵に言うつもりもないし、由梨絵の考えたドッキリに引っかかってやろうと思っていた。

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