高校三年 三学期―1 (鈴木 安奈)
もう三学期になった。
あっと言う間に卒業しちゃうんだと、考えると何だか少し切ない。
久美子・和美・冷夏の三人と会えるのも、もうあとわずかなんだと。
ぼんやり窓の外を見ていると、廊下から久美子と冷夏に呼ばれた。
何の様かも分からず、私は席を立ち廊下に出る。
「何?」
「私、就職決まったんだ」
「エッ、本当?」
久美子の言葉を疑う訳じゃない。ただ、驚いたのだ。
胸を張る久美子は、「本当」と力強く言い笑みを浮かべる。
久美子の就職が決まり、私は嬉しかった。これで、全員進路が決まったから。
「それで、どんな所?」
「それが、陸上部のある会社でさ。面接で思いっきり走りたいんですって言ったら、何か合格しちゃった」
「本当、強運の持ち主ですわね」
「これで、みんな進路が決まったんだね」
笑顔で私が言う。
すると、不思議そうな表情を冷夏と久美子が見せた。
何故か分からず、私が首を傾げると、冷夏が聞く。
「安奈は、進路決まってたんですの?」
「うん。就職、決まったよ。言ってなかった?」
「聞いてないよ。何時決まったのよ!」
「冬休み始まる前くらい?」
そう。冬休み前には既に就職が決まっていた。
でも、クリスマスで忙しかったから、皆に言うのを忘れていたのだ。
久美子も冷夏も少し不満そうな顔をしていたが、すぐに笑顔に変わる。
四人全員の進路が決まった嬉しさから。
放課後までその余韻が残り、帰りも皆で喜んでいた。
「でも、皆進路決まってよかったね」
「それは、そうと、安奈は報告しなくていいわけ?」
「報告? 誰に?」
「あんたの彼氏よ」
久美子と和美に言われたハッとする。
そう言えば、雅之には進路の話をまだしていないのだ。
雅之の進路については聞いていたけど、自分の進路は一度も話していない。
これは、すぐに報告しなくてはと、私は携帯を取り出した。
「今、報告するんですの?」
「うん。心配してるかも知れないし」
そう言いながらメールを打つ。
『マサ。報告遅れたけど、私進路決まったんだよ。冬休み前には決まってたんだけど、色々あって言うの忘れちゃってたんだ。ごめんね』
メールを送信して、私は携帯を閉じ「よし」と小声で言った。
それから、暫くして、雅之からのメールが届く。
『よかったね。コッチは、和彦が大学受験受けるんだって。和彦の事だから心配はしないけどね』
メールを読んだ後、「大学受験か……」と、呟く。
和彦も大変だなって、思いながら私は返事を送る。
『そっか。和彦君受験するんだ。大変だね。でも、和彦君だったら、余裕かな』
そのメールにすぐに雅之の返事が返ってくる。
『アハハハハッ。まぁ、確かに余裕かも知れないね。でも、本人いわく、油断すると足元すくわれるだって。受験が終るまで何が起こるかわからないから、気を引き締めるんだっていってたよ。う〜ん。僕ももう少し和彦を見習わなきゃいけないね』
このメールの内容に、私も少し笑った。
和彦らしいな。と、思ったから。
私も、和彦を見習わないといけないと思った。