高校三年 冬休み―1 (加藤 健介)
冬休みに入り幾日が過ぎ、大晦日がやってきた。
もう、毎年恒例となった雅之の家の大掃除を手伝うため、俺は朝も早くから家を飛び出した。
家の大掃除をやりたくないという理由もあるが、一番の理由は雅之の作る年越しそばを食べるためだ。
雅之の家に向って歩いていると、曲がり角から丁度安奈が出てきた。
「あっ! 健介君」
「おっ。安奈ちゃんもマサの家に行くのか?」
「うん。大掃除の手伝いに。健介君も?」
「まぁね。家に居ると色々させられるからな。それに、マサの作る年越しそばを食いたいから」
俺がそう言うと安奈が口を隠しながら笑う。
別に変な事を言ったつもりのない俺は、それが不思議でしょうがなかった。
そんな俺の気持ちを悟ったのか、安奈は答える。
「健介君の気持ちも分かるな。確かに、家に居ると色々させられちゃうもんね」
楽しげに安奈はそう言う。
その後、俺と安奈は何と無く盛り上がり、雅之の家に到着した。
「今年も来たんだ」
到着早々、不満そうな表情で俺を見ながら恵利が言う。
そして、安奈の方に顔を向けると笑顔を見せ言う。
「おはようございます。安奈さん。今日は忙しいのに手伝いに来てくれてありがとうございます」
「別に、忙しくなんかないよ」
「さぁ、入ってください」
俺とは対照的な扱いの安奈は、恵利に連れられ家の中へと入っていった。
一人取り残された俺は、虚しくその場に立ち尽くし一言。
「何か、俺の扱いひどくねぇ?」
それから、俺は雅之と家の外回りの掃除を開始した。寒い中、冷たい水をホースから出しながら、窓掃除をしていた。
毎年の事だが、この寒さはやっぱり辛い。それは、雅之も一緒だと思うが、雅之は嬉しそうに笑みを浮べながら、鼻歌なんか歌って窓を拭いている。
「ふふふ〜ん。ふ〜ん」
「お前さ、寒くないのか?」
鼻歌を歌う雅之に、俺は不満げに訊く。その質問に、雅之は笑顔で答える。
「寒いけどさ、今年も安奈が来てくれたのが嬉しくてさ」
「そうかい。そりゃよかったな」
「どうかしたの? 何だか不満そうだけど」
少々、首を傾げ雅之が聞く。
まぁ、不満といえば不満だ。
何でこうも俺と安奈の扱いが違うんだ。
そう言いたかったが、何と無く言っちゃ悪い気がし、それはいわなかった。
「別に、不満じゃないさ。今年は去年よりも冷えると思ってさ」
「あ〜あ。そうだね。今年は結構寒いね」
「だから、さっさと窓掃除終らして中入ろうぜ!」
「でも、早く終ると、中の掃除も手伝う事になるけど?」
俺の方を見てニコニコと微笑む雅之に、俺はガックリと肩を落としため息をついた。
そんな俺を元気付けようとしたのか、雅之が思い出したように、
「でもさ、早く大掃除終れば、早く年越しそばが食べられるかもよ」
と、言い笑顔を俺の方に向ける。
年越しそばか……と、思いながら俺の頭の中に雅之の作った年越しそばの映像が映る。
その瞬間、俺の心の奥底からやる気がジワジワと湧いてきて、一気に爆発した。
「ウオオオオッ! そうだ! 俺は、年越しそばの為に今日は来たんだ! さっさと終らして年越しそばを食うぞ!」
「うんうん。そのいきだよ。頑張れ」
完全に雅之に乗せられ俺は黙々と窓を拭いた。