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安奈編 第五通 雅之との初めての対面

 期末テストが終ってすぐの日曜日。

 私は久美子と電車に揺られていた。休みとあって結構混み合う車内で、吊り革に捕まる私は、自然とため息をこぼす。そんな私の態度に、隣にいた久美子が呆れた態度で言葉をかける。


「何、ため息なんて吐いてるのよ」

「だって〜……」

「そもそも、あんたから誘ったんでしょ! 今更、後悔しても遅いの!」

「そうだよね……」


 もう一度私はため息を吐く。

 私が電車に乗っているのは、実は雅之に会う為だ。その理由は、雅之にテスト期間中にメールを送ってしまい、その結果、雅之が補習になってしまったからだ。雅之は気にしなくて良いよって、言ってくれたけど……。そう言うわけにも行かないし、取り合えず雅之にあって一言謝りたいと思ったのだ。

 そして、久美子が一緒なのは、私が心細いから影から見ていて欲しいと頼んだのだ。久美子は謝るならメールで十分だって、言って物凄く不満そうだった。まぁ、メールでも謝ったけど直接会って話してみたいと、心のどこかで思っていたのかもしれない。

 しかし、待ち合わせの場所に近付くに連れ、不安になり落ち着きがなくなり始めていた。


「ど、どどどどうしよう! もうすぐ待ち合わせの場所に着いちゃうよ」


 慌てふためく私は、オドオドとした行動をしている。そんな私に落ち着いた様子の久美子の声が聞こえてくる。


「少し落ち着いたら?」

「わ、わわわわかってるよ! で、でもね……」

「はいはい。それじゃあ、深呼吸して……」


 私は久美子に言われた通りに深呼吸を何度か繰り返す。すると、次第に体が楽になり、心も自然と落ち着きを取り戻していた。何とか落ち着きを取り戻した私に、久美子が携帯を見ながら言う。


「あと5分程度ね。まぁ、メールの内容からすると、大した男じゃなさそうだから、少し話したらすぐに帰るよ」

「わかってる。謝るだけなんだから」

「まぁ、相手に襲われない様に気をつけるのね」

「マサはそんな事しないよ」


 悪戯っぽくそう言って笑う久美子に、私はとっさにそう答えてしまった。その瞬間、なぜか顔がカッと熱くなり、急に恥ずかしくなった。そんな私の顔を見るなり、久美子は意味深な笑みを浮かべ、続けざまに言葉を発する。


「ほほ〜っ。もしや、顔も知らないメル友に、優しくされて惚れちゃいましたか?」

「ち、ちちち違うよ! そんなんじゃないよ!」

「その焦り様は図星ですな。ホホホホホッ」


 そんなに焦っているつもりは無かった。どちらかと言えば、落ち着いてる風な感じで言ったつもりだったのだが、全く落ち着いてはいなかった様だ。甲高く私をからかう様に笑う久美子に、少しカチンと来たが、なぜか言い返す事は出来ない。久美子の言う通り、私は少し雅之に引かれ始めていたからだ。

 そして、私は膨れっ面のまま電車を降りた。隣には楽しげに微笑む久美子の姿も。


「もう、まだ怒ってるの? ちょっとからかっただけじゃない」

「別に、怒ってなんかいないもん」

「いや……。十分怒ってるよ」


 そう言う久美子に返事を返さず、私は駅を出る。駅の外には、大きな噴水とその右側に大きな時計台が建っている。そして、噴水の周りには大勢の人が集まっている。多分、この内の半分が私と同じ待ち合わせの人達だろう。

 困り果て立ち尽くす私の耳元で、久美子がそっと呟く。私はその声に驚きすぐさま振り返り言う。


「く、久美ちゃん! びっくりさせないでよ!」

「それより、メールで何処にいるか聞きなさいよ。何時までたっても会えないわよ」

「そ、そうだね」


 取り合えず久美子の言う通り、メールを送ることにした私は、自分の服装を詳しくメールに書き雅之に送る。その後、暫くして雅之からのメールが届く。


『僕が探すより、安奈が探した方がいいかも……。黒い服の上に薄手の上着を着てて、黒い長ズボン……』


 私はこのメールを見た瞬間、すぐに声を上げてしまった。完全に久美子が横にいることさえ忘れて。


「あっ! いた!」


 その瞬間、雅之が私の方を振り返り、隣にいた久美子はすぐさま人混みに紛れて行く。

 振り返った雅之の姿は、私の初期の想像とは遥かに違い、優しそうな顔付きで髪も意外と普通な感じだった。私よりも少し身長が低いけど、そんなの全く気にならなかった。

 初対面の私と雅之の間には妙な沈黙が流れる。緊張からか、言葉が全く思いつかないが、私は恐る恐る声を出す。


「マサだよね?」


 そんな私の質問に、雅之も緊張していたのか、裏返った声で返事をする。


「エッ、あっ、はい」


 顔を真っ赤にする雅之は急に俯きオドオドし始める。オドオドする雅之に、私も急に不安になりそれが、言葉になる。


「どうしたの? もしかして、会わなきゃよかったとか思ってる?」

「えっ、そんな事無いよ!」


 急に大きな声でそう言う雅之は、私の顔を見て更にオドオドとする。そして、キョロキョロとしながら、雅之は口を開く。


「あ、あの……。た、立ち話も、何ですし……、あの店入りませんか?」


 雅之の指差す先には結構大きめの喫茶店があった。久美子は話をしてすぐに帰るのよと、言っていたが、私はそんな言葉さえ忘れ、雅之の言葉に軽く承諾し喫茶店へと移動した。



 喫茶店に移動した私と雅之は向かい合わせに座りあっていた。雅之は、私の顔を見ようとせず、何だか切ない気持ちになった。でも、そんな気持ちを表情に出すまいと、必死で笑顔を向けた。

 また、沈黙が続く私と雅之の間に、助け舟を出すかの様に注文をとりに来る店員。店員はニコヤカに微笑みながら、言う。


「ご注文は?」


 私はとっさに目に付いたメニューの名前を言った。


「私はチョコパフェで、マサは何にする?」


 私に声を掛けられた雅之は、なにやら慌てふためきながらメニューを指差す。その指差す先には、ジャンボパフェの文字が堂々と映し出されている。結構、大食いなんだなと、少し驚いた私だったが、ジャンボパフェが届いた時の雅之の表情は物凄く驚いていた。

 その瞬間、雅之が大食いじゃないとわかった私は、心配になり雅之に声を掛けた。


「だ…大丈夫? こんなに食べられるの?」

「だ…大丈夫だよ……」


 ぎこちなく微笑む雅之は、スプーンでパフェを口に運ぶ。一生懸命、スプーンを口に運ぶ雅之の姿を見ていると、何だか自然と笑みが浮かんでいた。

 そして、ジャンボパフェを完食した雅之は、少し背を丸め身を震わせている様に見えた。


「うう……。か…完食……」

「大丈夫?」

「う…うん。全然……、平気だよ……」


 そう言いながら微笑む雅之だけど、私にはとても大丈夫そうには見えない。その後、雅之の震えが止まったのは、喫茶店を出る前くらいだった。

 少々、更新が遅れてしまいました。最近、どうも書くペースが落ちてきている様で、これからも更新が暫し遅れてしまうかもしれません。愛読なさる皆様には、申し訳ないと言うしかございません。

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