高校三年 二学期―7 (鈴木 安奈)
放課後、私達(私と久美子と冷夏)は足早に寮へと帰った。
もちろん、それは和美に会って話しを聞くためだ。
と、言ってもそう簡単に和美が部屋から出て来るとも思えないし、話をしてくれる保障も無い。
それでも、何とか和美には元気になって欲しいと、私たちは必死だった。
息を切らせながらも、何とか和美の部屋の前に来た私たちは、力強くドアをノックした。
だが、部屋の中は静かで反応は無い。でも、部屋に和美が居るのは確かだ。
「やっぱり、出てこないか……」
「どうする? 久美ちゃん」
「どうするって、ここは、強行突破でしょ? 冷夏! 管理室で鍵借りてきて!」
久美子のその言葉に私も冷夏も驚きを隠せず、戸惑っていると久美子が更に強い口調で言う。
「冷夏! 急いで! 容疑者に逃げられるわ!」
「は、はい! 分かりましたわ!」
何だかよくわかんないけど、久美子の気迫に押され冷夏が管理室に向った。
残された私と久美子は、他の生徒達の視線を集めていた。まぁ、あんな事を大声で叫べば、視線を集めるのも分かるが、これは私に堪えられるものじゃなかった。
「久美ちゃん。容疑者って言うのはどうかと思うよ」
「何言ってんの! こういうのは気持ちから入らなきゃ駄目よ!」
「気持ちからって……」
呆れてこれ以上何もいえなかった。暫く待っていると、冷夏が和美の部屋の鍵を持って戻ってきた。
苦しそうに肩で息をする冷夏を、急かすように久美子は言う。
「さぁ! 早く鍵を!」
「す…少し……休ませて……」
「こうしている間にも、容疑者が逃げ――!」
急にドアが開いた。ゴンッと、鈍い音が廊下に響き、久美子の体が仰け反った。
私も冷夏も突然の事で、仰け反る久美子の体を思わず避けてしまい、久美子がそのまま廊下に倒れた。
その時も、ゴンッと鈍い音が響いたため、多分頭部を廊下に打ち付けたのだと、思った。開かれたドアの向うには、目を赤くした和美の姿があり、ボサボサの髪を手で梳いていた。
「容疑者、容疑者って、私は犯罪者か!」
「か、カズちゃん!」「和美!」
ほぼ同時にそう叫んだ私と冷夏は、涙目で和美の事を見た。
真っ赤な目で私と冷夏を見る和美は、目を細めると横たわる久美子を指差し言った。
「あれ、そのままだとやばいんじゃないか?」
「あーっ! そうだ! カズちゃん! 部屋で休ませて良いよね!」
「まぁ、散らかってるけど少しなら」
「さぁ、冷夏。久美ちゃんを運ぶよ!」
「そうですわね。このままじゃまずいですものね」
私と冷夏は廊下で横たわる久美子の体を抱えて和美の部屋へと入った。
部屋は電気が消えてるため薄暗く、少し散らかっている。私と冷夏が久美子を連れて部屋に入ると、和美は少し散らかった部屋を掃除し始めた。
多分、散らかっている部屋を見られるのが嫌だったからだと思う。
久美子をベッドに寝かせると、私と冷夏はベッドの横に座った。ゴミを片付ける和美は、私と冷夏を見て恥かしそうに笑みを浮べる。
「散らかっててごめんな。それで、今日はどうしたんだ?」
「和美が、もう二週間近く学校休んでいるから心配になったんですわ」
「そっか。何も連絡してなかったからな。悪い悪い。明日には行くよ」
「もう、大丈夫なの?」
私は心配でたまらなく少し声が震えた。そんな私に笑いながら和美は言う。
「大丈夫だって。そんなに心配するような事じゃないさ」
和美は笑うが、その目はまだ少し悲しげだった。まだ、立ち直れてないのだと、分かった。
でも、私は何て言って良いのか分からず俯いた。何だか涙がこぼれそうだった。何も出来ない私が情けなくて。
そんな時、冷夏が静かに口を開いた。
「話は全部聞きましたわ。雅之達から」
その言葉を聞くなり、和美が動きを止めた。
「そう。それじゃあ、私が振られたのも聞いたんだ」
「えぇ。聞きましたわ」
「でも、もう大丈夫。振られるのは知ってたし」
「もっと早く相談してくださればよかったのに。私たち友達でしょ?」
急な話しの展開に和美が目を丸くする。それでも、冷夏は話を進める。
「諦めては駄目ですわ。恋は持久戦ですのよ。一度振られても、また、次がありますわ。その時までチャンスを窺うんですわ!」
「チャンスって、あっちは彼女がいるからな」
「何を仰るの! 彼女がいるなら、彼女と別れるまで待つんですわ」
「それって、いつになるかわかんないだろ」
「私は決して諦めませんわ!」
「あーっ。わかったわかった。もういいって。私も大分泣いたからもう元気になったし、ちゃんと明日から学校行くって」
和美がめんどくさそうにそう言うと、冷夏が「駄目ですわ!」と、言い出しその後延々と冷夏の恋の話を聞かされた。
でも、その話を聞いている時の和美は楽しそうで、何だか安心した。