高校三年 二学期―6 (倉田 雅之)
電話を切り、僕は和彦の方を見た。
電話の相手は安奈で、電話をしたのは和彦が和美の事を気に掛けていたから。
僕も、今日、初めて知ったが、和彦がこの前和美に告白されたらしい。もちろん、彼女がいるため断ったらしいが――。
その事を電話で話すと、安奈も驚いていた。多分、安奈もそのことを僕に言われた知ったんだと思う。もう、授業が始まるチャイムが鳴っているが、僕も和彦も、おまけに健介も屋上から移動するつもりは無かった。
やっぱり、和美の事が心配で勉強する気になれなかった。
「は〜っ。和彦に彼女が居なければな……」
深くため息を吐く健介は、フェンスに背中を任せ座り込んだ。僕も和彦もその場に座り込み、暗い面持ちでため息を漏らす。
別に僕が落ち込む事じゃないけど、僕も和彦の気持ちが分かるため何だか暗くなってしまったのだ。
暗い僕と和彦に対し、案外いつもと変わらない健介が呆れた様な表情を見せる。
「お前らが落ち込んでどーすんだ。全く」
「皆が皆、お前みたいに能天気じゃないんだよ」
俯いたまま和彦がそう言う。ため息を吐く健介が、僕の方を見て首を振る。
僕も険しい表情をして、ため息を吐いた。
「でもさ、心配だよね。安奈達も知らなかったみたいだから」
「そうだな。こんな事なら、もっと早く連絡しとけばよかったな」
「全くだ。大体、何で今まで黙ってたんだ!」
「お前が五月蝿いからだ」
「何だと!」
今にも喧嘩しそうになる健介と和彦の間に、僕が入りそれを止めた。
「二人が喧嘩してもしょうがないよ」
「分かってるけどよ!」
「ごめん。健介」
健介に小さな声で謝る和彦。こんな和彦を見たのは初めてで、僕も健介も少し戸惑った。
いつもなんでも出来ると思ってたから、ちょっとビックリした。
「いいさ。俺だって、少し言い過ぎた」
健介も恥かしそうにそう言った。僕はホッとして、二人を見た。
あんな風に言い合いになる事もあるけど、二人は本当は仲が良いと分かっているから。
「何事も無いといいね」
「そうだな。こればっかりは、俺達の出る幕じゃないからな」
「しかし、女って不思議だよな」
ふと、健介がそんな事を言い出す。
僕も和彦も何が不思議なのか分からず、首を傾げると僕と和彦の顔を交互に見ながら言う。
「だってよ。女って、簡単に男の事を振るじゃないか。そんくせ、振られると落ち込んで部屋に閉じこもるって、不思議じゃねぇ?}
「そうかな? 男の人にも居るんじゃない? 簡単に女を振る人は」
「でも、そう言う奴は女に振られても、俺には他にも女は居るんだって、すぐ立ち直るだろ?」
「知らないよ。そんな事」
「大体、そうなんだって。それに比べると、女って不思議だろ?」
健介はそんな風に言うが、僕にはあんまり理解できない。元々、恋愛経験も少ないから、そんな事分かるはずが無い。
そんな僕と健介のやりとりを聞いていた和彦は、落ち着いた様子で言う。
「男と女って言うのは複雑だからな。特に恋愛においては」
「なぁ、和彦もそう思うだろ?」
「俺は健介の意見に賛成した覚えは無いよ。ただ、女は男よりも恋愛に真剣だからね」
「ふ〜ん。そうなんか?」
和彦の言葉に少々不満そうに健介が頷いた。
僕は何故か何と無くだが、和彦の言葉に納得してしまった。
まぁ、それが本当に正しいかなど、僕には分からない。
それに、恋愛には何が正しいという答えなどないと思う。




