高校三年 二学期―5 (国水 冷夏)
今日も、和美が学校を休んだ。
理由は分からないが、今日でもう二週間くらいになる。
先生も連絡が無くて、困っていて、和美の部屋にも言ってみたが電気も消えていて誰か居る様には見えなかった。
私も、久美子も、安奈も、和美の事が心配で、勉強も全く手に付かない。
もうすぐ中間テストだというのに。
「今日で、二週間か。これは、何かあったと見るな」
腕組みをして、渋い表情を見せる久美子は、「むむむむ〜っ」と、唸り声を上げ右手を顎に添えた。
すると、久美子の前に座る安奈が、心配そうに俯きながら、
「このまま、学校辞めたりしないよね?」
と、泣きそうな声で言う。
けど、そこは久美子がその場を盛り上げようと声を上げる。
「大丈夫! 大丈夫よ。多分、もう少ししたら学校来るよ」
「だけど、今日で二週間だよ。連絡もないし……」
「確かに、連絡が無いのは気になりますわね」
安奈の言葉に私も同意し、久美子の方を見る。
更に渋い表情を見せる久美子は、「う〜ん」と、唸り声を上げ額に右手を添える。
そんな久美子に何かを期待しても、無駄だと思った私はすぐに安奈の方に顔を向けた。
そんな時だった。急に安奈の携帯が激しく震えたのは。
「な、なななな何?」
「もしかすると、和美からかも!」
「そ、そそそそうかも! お、おおおお落ち着かなきゃ!」
期待する久美子と安奈には悪いと思ったが、私は携帯の画面に出ている名前を見てため息を吐き言う。
「和美じゃありませんわ。倉田さんですわ」
「倉田? だれそれ? 安奈、倉田って人と知り合い?」
「くらた? 倉田……。倉田? う〜ん……」
急に考え込む安奈は、本気でど忘れした様で雅之の苗字が倉田である事に、気がついていなかった。
その間も震え続ける携帯は、急に震えるのをやめ静かになる。多分、留守電に入ったんだと思う。
音が鳴り止むと同時に、思い出したように安奈が電話に出た。
「もしもし! マサ? どうしたの?」
ようやく、思い出したようだ。
そんな安奈を見ながら、私と久美子は話した。
「ねぇ、普通、彼氏の苗字って忘れるものかしら?」
「どうだろう? ほら、安奈って、意外と不思議ちゃんって感じじゃない」
「不思議ちゃん……」
何と無く久美子の言う不思議ちゃんと言う言葉に、私も納得してしまった。
確かに、何処と無く安奈は普通の人と違う感じが漂っていたから。
暫く電話で話をする安奈を、私と久美子は見ていた。
「うん。今、全然大丈夫だよ。どうして?」
電話の相手である雅之にそんな返事を返す安奈。それから、暫くして、
「エッ! カズちゃんが! うん。うん。わかった。ありがとうね」
安奈はそう言い電話を切り、私と久美子の方を見る。
そして、急に席を立ち私と久美子の腕を引っ張り教室を出た。
腕を引っ張られる私と久美子は訳も分からず、ただひたすら走った。
走り続け、足と止めた場所は、屋上だった。多分、誰にも聞かれたくない話でもするんだろう。
「ハァ…ハァ……。じ…実は……」
「あんた……。ハァ…ハァ……。少し考えて走りなさいよ。冷夏、半分死んでるわよ」
「ゼェ…ハァ……ゼェ…ハァ……」
私は元々運動が出来る方じゃない。そのせいで、安奈のペースで走らされ、完全に息が上がっていた。
そんな私に気付いた安奈が、驚いたように言った。
「ご、ごめん! つい、本気で走っちゃった!」
「だ…だいじょう……ぶ……」
微かに笑みを浮かべた私だが、心臓は破裂しそうな勢いで鼓動を打っていた。
それから、暫く休んだ後、安奈は話しを始めた。
「実は、和彦君がカズちゃんを振ったんだって!」
「はぁ! 何で和美が和彦に!」
「あっ、もしかして、和美は和彦のことを?」
「でも、あの和美がだよ? ありえないって」
久美子が否定的にそう言い笑うが、私も安奈もムスッとした表情で久美子を睨んだ。
流石の久美子もそれには少し驚いたようで、少し表情を引き攣らせる。
「そ、それじゃあ、今日、確かめに行こう。その方が早いし」
「うん。そうだね。それじゃあ、放課後」
「授業終ってからね」
私達が頷くと同時に、チャイムが鳴った。もちろん、私達は全力で教室に走ったが、結局、遅刻してしまった。