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高校三年 二学期―4 (宮沢 和美)

 今日も、来た。

 目的も無く、電車を降り駅を出る。

 ただこの辺を歩いていれば彼に会えるんじゃないかって、そう想いながら。

 そう、ただ、彼に会いたくてやってきただけだったのに――。

 声がした。彼の声。優しくて暖かな彼の声が。でも、それは私に向けた声ではなかった。


「春奈、コッチだ」

「あ〜っ。和彦! 会いたかった〜!」


 春奈と呼ばれた女がすぐ返事を返し、和彦に飛びつこうとする。

 それを、和彦が右手で春奈の頭を掴んで制する。

 私はすぐに隠れた。心臓が鼓動を早め、私の頭は混乱した。


 誰?

 あの娘は?

 彼女?

 そんな――


 もう、何も聞こえない。何も分からない。どうして良いのか。

 気がついたときには、ストーカーの様に私は二人の後を追っていた。


 いつからだろ? 彼を好きになったのは。

 夏休みのあの日から? ううん。違う。もっと前からきっと彼が好きだった。

 ただ、あれがきっかけで好きだと気付いただけ。

 本当は、初めて会ったあの日、公園で話した時、私は恋に落ちていたのだ。


 必死で二人の後を追いかけた。

 二人の関係を知りたくて。でも、本当は分かっている。

 ただ、それを信じたくなかった。だから――私は、必死だった。


 二人は公園へと入っていった。

 静かな公園。ここで、私と彼は初めて言葉を交わした。

 その公園で、彼は今他の女と話をしている。何を話しているのか聞き取れない。

 本当はもっと近くに行きたい。でも、これ以上近付くと二人に気付かれる。だから、私は堪えた。


 時はゆっくり過ぎていく。

 本当はいつもと変わらないときの流れも、今の私にはとても長く苦しい。

 暫くして、春奈と呼ばれた女が立ち上がった。そして、ニコッと笑って和彦に手を振る。

 和彦も軽く右手を上げて、春奈を見送った。

 そして、和彦も立ち上がり私の居るほうに向って歩き出す。

 実際は私の方じゃなく、公園の出口に向っているのだが、この時の私はもう何も考えられず、無我夢中だった。

 無我夢中で、知らないうちに和彦の前に出ていた。少々驚いた様子の和彦は笑いながら言う。


「あれ? そんな所で何してたの? もしかして、また鈴木達と一緒?」

「わ、私、あんたが好きなんだよ!」


 突然の告白。

 何の前触れも無く、私の口から自然と出た言葉。

 流石の和彦も驚いた表情をして、困った様に笑みを見せる。

 なんてことを言ってしまったんだと、私はその場を逃げた。全力疾走で。

 逃げている途中、何故か涙が溢れ出す。多分、溜りに溜った想いを伝えてしまったから? だと思う。

 そんな私の右腕を、何かがぎゅっと握り締めた。暖かくて優しい何かが。

 立ち止まるが、振り返らない。振り返れば、泣いているのがバレるから。そんな私に、和彦が優しく言う。


「ごめん。辛いだろうけどさ、今ここで俺の返事を聞いて欲しい。多分、今言わないと、もっと君が辛い思いをすると思うから」


 聞きたくない。どうせ、振られるって知ってるんだから、返事なんて聞きたくない。

 耳を塞ぎたかった。そうすれば、聞かなくて済むと思っていたから。


「君も見たと思うけど、俺、彼女が居るんだ。ずっと付き合ってる彼女が。今も好きだし、それはずっと変わらないと思う。だから、俺の事は忘れて欲しい。君の事をこれ以上傷つけたくないから」

「……」


 何も言えない。和彦の気持ちが伝わってくるから。

 どうしたら良いのか分からず、私は和彦の手を振り切ってその場を後にした。

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