高校三年 二学期―3 (白羽 和彦)
とある日曜日。
俺は駅前に来ていた。
まぁ、待ち合わせの様なものだ。
待つ事十分、待ち合わせの相手が駅から出てきた。
俺は、そいつに向って軽く手を振り名前を呼んだ。
「春奈、コッチだ」
「あ〜っ。和彦! 会いたかった〜!」
俺を見つけるなり、そう叫び駆けて来る春奈は俺に飛びつこうを大手を広げる。
そんな春奈の頭を右手で押さえた俺は、呆れ口調で言う。
「止めろ。人前だぞ。しかも、大勢の。それに、もう少し静かに出来ないのか?」
「ぶ〜っ! うち、メチャメチャ、寂しかったんよ。もうちょっと、優しくできんの?」
「あ〜の〜な〜。なら、何で夏休みに連絡しないんだ」
目を細めそう言うと、春奈は不満そうな表情を見せた。
春奈と会うのは、バレンタイン以来で、結構長い間寂しい想いをしていた。
本来は夏休みに会う予定だったが、急に春奈が旅行に行く事になり、会えなく却下となったのだ。
しかも、夏休みの間、メールも電話も一切無く、それはそれは寂しい毎日だった。
「それで、その荷物は?」
俺は、何やら大きく膨らんだ鞄を指差し質問する。
すると、良くぞ聞いてくれたといわんばかりに声を張り上げ春奈が答えた。
「これな、和彦へのお土産。うち、夏休み旅行いってな、そりゃ楽しくて」
「はいはい……。それじゃあ、その話はもう少し落ち着いた場所で聞くよ」
「う〜っ。うちは、話したくてウズウズしてるん。どこでもいい、静かな場所いこ」
「そうだな」
俺はそう言い、ゆっくり足を進めた。
その間も、少し変わった口調の春奈の言葉を聞きながら、軽い相づちを打つ俺。
傍からから見れば、付き合っている様には見えないが、俺と春奈はこれで結構仲が良い。
それは、俺が春奈のあの変わった口調が好きだと言う事もあるし、何より春奈の話しが聞けるのが嬉しかった。
こうやってやり取りしてると、本当にホッとする。相手の生の声が胸に響き安心出来る。
俺と春奈は遠距離恋愛の為、電話やメールで相手の事を確かめるが、電話やメールでは本当に元気にしているかなんて、分からない。
だから、会って話が出来るこの時が唯一相手の事がよく分かるときなのだ。
暫く歩いていると公園に着く。
俺は芝の上に腰をおろし、春奈がその横に座った。
「ふ〜っ」
「あ〜っ! ため息吐いた! うちと居るのは楽しくないん?」
「いや。最近、色々あってね。疲れてるんだよ」
「あっ! もしかして、あの男か? あの冴えない」
一瞬誰の事を言っているのか分からなかったが、「冴えない」と言うところで誰の事を言ってるか理解した。
それに、この辺で春奈の知っている人と言えば一人しか居ない。
きっと、雅之の事だ。俺はそう思い、笑いながら言う。
「ユキは、別に冴えない男じゃないぞ」
「ちょっと! ユキって、誰? うちの前で他の女の名前呼ぶなんて!」
怒った口調でそう言う春奈に、俺は呆然とした。
まぁ、確かにユキと聞いたら女の勘違いするのも無理は無いが、『冴えない男』って、言ってるのに――。
呆れながら、俺は少々ため息交じりに言葉を返した。
「あのな。ユキは女じゃない。男。バレンタインの時あったろ? あいつが、ユキ」
「えっ! あいつ、ユキって言うン? どう見ても女の名前――」
「だから、俺がそう呼んでるだけ、本名は雅之。一々、面倒だな」
「うち、和彦の事心配してるんよ。他の女に取られんかって」
そう言って、春奈が泣きそうな目で俺を見る。そんな春奈の顔を見ていると、何だか心が安らぎ口元に自然と笑みが浮かぶ。
この時間が一番の幸せだ。何ヶ月に一回とかしかあえないからこそ、この時を大切にしたいと思った。
今回は和彦の恋をちょっとだけお話しました。結構、上手く行ってるんですね。遠距離って大変なのに。うんうん。良い事です。
そろそろ、ラストに向けてスパートを掛けなきゃいけないのに、イマイチ調子が乗らないんですね。やっぱり、連載が終るのは寂しいですから。
でも、どんな物語でも、始まれば終わりが来なければなりませんからね。だからこそ、より一層頑張れるんですよね。何か、変な事言ってますが、最後までよろしくお願いします。