高校三年 二学期―1 (加藤 健介)
夏休みが終わり、二学期に入った。俺は既に、スポーツ推薦である大学への進学が決まっていた。
その為、他の連中よりは気軽に二学期を迎える事が出来た。でも、気は抜かないで勉強も野球も頑張るつもりだ。
大学に行けば、雅之や和彦の二人の様に俺に勉強を教えてくれる奴も居なくなるだろうから、今の内何とか勉強も皆について行けるようにしようと思ったからだ。
まぁ、その為に学校の夏期講習見たいのを夏休みの間に受けたが、俺には難しくて理解できず、結局和彦に勉強を教わった。
野球も日々一層努力し、絶対にプロになりたいと思っている。それは、俺の小学校の頃からの夢だから。
のんびり教室で欠伸をしていた俺は、ふと教室の雰囲気がピリピリしているのに気付いた。
皆、大学に行くために必死なんだろう。和彦は当たり前の様に教室からは姿を消しているし、雅之は相変わらずのほほ〜んとしている。
全く何を考えているのか知らないが、一応忠告しようと俺は席を立ち雅之の前の席に移動した。
「なぁ、お前進路どうするか決めたのか? 和彦はともかく、お前そんなに成績よくないんだぞ」
「成績よくないのは健介も一緒じゃない。って、言うか僕もう面接受けたよ」
「面接? 何の?」
「何って、就職先のだよ」
「エッ――!」
驚いた。知らないうちに雅之が、面接を受けていたと言う事に。
何も考えずただボーッとしているだけだと思っていたが、意外と行動的なんだとこの日気付いた。
それから、聞いた話によると、何処かのホテルの面接を受けたらしく、今はその合否待ちだそうだ。
俺はそれを聞き、腕組みをしながら頷く。そんな俺を見ながら雅之はニコニコと微笑むが、その目は何やら不安そうだ。
だから、俺は元気付けようと精一杯明るく言う。
「まぁ、心配するなって。ここで落ちたら、次のホテル探せば良いさ。それでも落ちたら、和彦んとこのあの旅館の調理場行けばいいんだし」
「エ〜ッ。それって、何か都合よすぎるんじゃないかな?」
「何言ってんだ。お前の腕があればあそこで料理作ってても可笑しくないぞ」
「そうかな?」
不安そうにそう言う雅之に俺は胸を張り堂々と言う。
「当たり前だって、俺は中学ん時からお前の飯を食った事があるんだ。その腕に自信を持てって」
「健介に言われると、何だか不安だよ」
冗談交じりでそう言う雅之は、俺を見て笑っていた。
俺も何と無くだが笑った。それが、一番良いと思ったからだ。
多分、教室に居る連中は俺と雅之の事を迷惑だと思っているだろうが、それでも大きな声で笑った。
昼休み、俺は一人屋上に居た。タンクの下は影になっていて、ひんやりと冷たく昼寝をするのには打ってつけの場所だからだ。
教室に居てもピリピリとして、居づらいだけだし暫くはこうやって屋上で昼を過す事になるだろう。
冷たい地べたに寝そべって「ふ〜っ」と、一息ついていると、屋上の扉の開く音が聞こえ、誰かがはしごを上がってきた。
俺が体を起こすと同時に、和彦がニッコリと顔を出した。
「よっ! やっぱりここにいたか」
「何だよ。和彦じゃねぇか」
「何だとは何だ。折角、話し相手になってやろうと思ったのに」
「別に、話し相手なんて欲しくない」
俺はそう言って和彦を吐き返すような言葉遣いでそう言い、もう一度寝そべった。
そんな俺を見据える和彦が嬉しそうに言った。
「そういえば、大学推薦で行くらしいな。おめでとう」
「あぁ、ありがとう。それで、お前はどうするんだ? 進路。大学に行くのか?」
「う〜ん。まぁ、そうなるかもな」
「大変だなお前も」
「案外余裕だね。君も来年から大学生だろ?」
「俺はスポーツの方一筋だからな。体さえ壊さなきゃなんとかなるさ」
俺はそう言って笑った。和彦もそれに釣られるように笑う。
その後もなんでもない話をし、ただ笑い続けた。思いっきり。