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高校三年 夏休み―9 (倉田 雅之)

 今日は、安奈と一緒に街に買い物に来ていた。特に何か買いたい物があると言う訳でもないが、ブラブラと店を回っていた。

 そんな時、安奈がある二人組みを発見した。それは、怪しい格好をした健介と由梨絵の二人だった。

 深々と帽子を被り、物凄く場違いで怪しい格好の二人に僕も安奈も軽く首をかしげた。


「何してるのかな?」

「さぁ? ストーキングじゃない?」

「え〜っ。それは無いでしょ?」

「まぁ、無いとは思うけどさ」


 結局、健介と由梨絵が何をしているのか分からず、僕と安奈は直接聞く事にした。

 こっそりと二人の背後に忍び寄る僕と安奈。そして、安奈が驚かすように声を掛ける。


「何やってるの?」


 安奈が声を掛けると同時に、健介と由梨絵が跳び上がるほど驚く。

 まさか、そこまで大げさに驚くと思わなかった僕と安奈は唖然とした。

 その後、落ち着いた健介から事情を聞き、安奈が不思議そうに首を捻る。


「どうかした?」

「うん。ちょっと」


 僕の言葉に軽く言葉を返した安奈は、腕を組んだまま何かを考え込んでいた。

 何を考えているのか、僕には分からないがきっと重要な事なんだとソッとしておく事にした。


「でも、何で和美の尾行を?」


 僕がそう聞くと、健介はめんどくさいと言った感じの表情を見せ、苛立ったような声で言う。


「さっき話しただろ! 何か、様子が可笑しいから尾行してるって!」

「あっ、そうだっけ?」

「何度も言わせるなよ!」


 ムスッとした表情で前を歩く和美をこっそりと覗き見る健介。

 そんな時、安奈が口を開いた。


「やっぱり変だよ」

「何が変なの?」


 安奈の言葉にすぐに反応した僕に顔を向ける安奈は、落ち着いた様子で言う。


「だって、カズちゃんの実家はこの辺じゃないし、この辺りに知り合いはそんなに居ないはずだもの」

「でも、どうしてこんな所を歩いてるんでしょうね? 待ち合わせの時間が余ったんですかね?」

「待ち合わせって、あいつ彼氏とか居るのか?」


 健介が由梨絵の言葉に少々不満そうにそう言うが、その言葉に安奈が怒ったように言う。


「失礼だよ! カズちゃんだって、彼氏の一人や二人……」

「それじゃあ、二股になっちゃうよ」

「あっ、そっか」


 僕の言葉に納得した安奈は軽く笑った。それから暫く僕達四人は和美の尾行を続けた。

 けど、結局何事もなく和美は駅へと向っていった。まぁ、僕らの無駄足で終ったって感じだ。

 僕ら四人はまだ時間があったので、あの喫茶店で一緒に一休みする事にした。


「結局、無駄足だったな」

「そうですね。でも、何しにきてたんでしょう?」

「さぁな。まぁ、どうせ俺らには関係ないことだろうけどな」


 健介はそう言いながら、メニューと睨み合っていた。そんな健介を見て、笑みを浮かべながらメニューに目を落とした僕は、ふと初めてこの喫茶店に来た時のことを思い出した。

 確か、安奈と初めて対面して、緊張のあまりジャンボパフェを頼んで、凍え死にそうになった記憶が。

 まぁ、今となれば良い思い出だが、あれ以来この喫茶店では結構有名になっていた。一人でジャンボパフェを平らげた男だと。

 そのため、この喫茶店は大分行き着けのお店になっていた。


「思い出すね。初めて会った日の事」

「えっ。そ、そうだね」


 僕の心を見透かした様な安奈の言葉に、驚きながらそう言った。嬉しそうに微笑む安奈は、急にクスクスと笑い出した。

 何と無く笑った理由が分かっていたが、僕は聞く。


「急にどうしたの?」

「ウウン……。初めて会った時、マサここでジャンボパフェ平らげたんだよね。それも一人で」


 やっぱりと思いながら僕は苦笑いを浮かべる。すると、由梨絵が興味津々で食いついてきた。


「エッ! 倉田先輩、ここのジャンボパフェ一人で平らげたんですか!」

「ま、まぁ……」

「凄かったんだよ。もう、一心不乱って感じでジャンボパフェを口に運んじゃって。ビックリしたんだから。その体で平らげちゃうの? って」

「凄すぎです。私も一度食べましたが、あれは一人で食べられる物じゃありませんよ。結局、皆に手伝ってもらいましたよ」

「そ、そうなんだ……」


 僕以外にも、ジャンボパフェを頼んだ人がこんなに身近に居るなんてと、呆れながらそう言った。

 すると、急に意を決した様に健介が言う。


「よし、マサが食えたなら俺もいける! 俺も挑戦する!」

「エエェェェェッ!」


 僕ら三人は驚きに声を上げた。喫茶店の客も店員も皆、僕らの声に驚き視線が集まる。

 店員を呼ぼうとする健介を僕は必死で止めて説得する。


「け、健介。あれはやばいって。止めたほうがいいって」

「何言ってんだ。お前でもいけたんだろ? なら、俺もいけるさ!」

「いや、何か根本的に間違ってる気がするんだけど」

「な〜に、大丈夫だ。お前に食えて俺に食えんものは無い!」

「そう言う問題じゃ……」


 僕は助けを求める様に由梨絵と安奈に視線を送った。だが、由梨絵も安奈も何か楽しそうに笑っていた。

 そして、由梨絵の言った言葉が健介のやる気を更に強めた。


「ジャンボパフェ食べきったら、カッコいいですよ健介先輩」

「おう。お前の為に食べきってやるぜ。店員さん。ジャンボパフェ!」


 目をきらめかし健介を見つめる由梨絵は、もう期待に満ち溢れていて健介もその期待に答えようとやる気満々といった感じだった。

 だが、僕は知っている。あのジャンボパフェの苦しみを。

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