高校三年 夏休み―6 (国水 冷夏)
海で一杯遊んだ私達は、辺りが暗くなり始めたため旅館に戻ってきていた。
そして、疲れを癒すため温泉に入っていた。皆、笑顔ではしゃぎまわる中、和美一人が浮かない顔をしていた。
温泉に浸かったまま、ボーッとしていて時折ため息を吐く。いつもと何か違う感じのする。
それは、温泉から出てもそうだった。部屋に戻っても、心ここにあらずと言った感じで、ずっと外を見据えたまま何度もため息を吐いていた。
流石にこれは何かあると、思った私はこっそり部屋を抜け出し安奈と久美子の部屋に急いだ。
安奈と久美子は、私が部屋に来ると、不思議そうな表情で私の方を見て言う。
「どうかしたの?」
「まさか、和美を怒らせた? あ〜あ。知らないぞ。和美を怒らせたら、もう止められないよ」
茶化すような感じで久美子がそう言い、私はすぐに首を左右に振り答えた。
「ワタクシが何で和美を怒らせるんですの! それよりも、和美が変なのよ」
「和美が変? いつもの事じゃない?」
「久美ちゃん! いつも変なのは久美ちゃんの方でしょ!」
本人は無意識に出た言葉なのだろうが、その言葉で久美子がかなりへこんでいた。
安奈も悪気があるわけじゃないのだろう。多分、その場を盛り上げようとしたのだ。
結果、それが裏目に出たわけだが――。
「それで、どういう風に変なの?」
「何て言うか。こう、心ここにあらず、見たいな感じ」
「あっ、もしかしていつに無くぼんやりしてるとか?」
「そう! そうなのよ! 何だか、年老いた老人みたいな感じで、外を見たまま動かないのよ」
「やっぱり、カズちゃん何かあったのかな?」
「心当たりでもあるの?」
「うん。今日、海で――」
私と安奈はへこむ久美子を無視して話を進めた。安奈から海であった事を聞き、私は何と無く確信した。
もしや、これは“恋”なのではないだろうかと。
そして、私がその事を安奈に言うと同時に、へこんでいた久美子が、水を得た魚の様に勢いを取り戻し、興味津々といった感じで参加してきた。
「恋! ドーンと来い! なんちゃって!」
「それで、カズちゃん誰に恋してるのかな?」
「う〜ん。誰だろう? これだけだと、まだわからないですわ」
「ちょっと、私は無視ですか?」
「やっぱり、本人に直接聞いた方が良いかな?」
「聞いた所で、教えてくださるでしょうか?」
「コラコラ、完全に私の存在を消さない」
何と無く、久美子が加わると話がややこしくなると思った私と安奈は、完全に久美子の存在を無視してその後も話を進めた。
和美が一体誰を好きになったのか、考える私達だが結局、この時その答えが出る事は無く、私は部屋に戻った。
部屋に戻ると、相変わらず外を見据えたままの和美が、私に気付き声を掛けた。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと、安奈の所に」
「安奈の所? 何しに?」
「今日の夕飯はなにかな? ッて感じかな?」
「ふ〜ん。そう言えば夕飯まだだったな」
今思い出したように和美はそう言った。そして、また外を見てボーッとしていた。
夕飯の時間になり、皆は食堂に集まった。ボーッとする和美は夕飯の時も、一人でボーッとしながら箸を進めていた。
その異様な雰囲気に、集まった皆が可笑しいと気付いていた。
「和美の奴、ちょっと可笑しくないか?」
「そうだね。何と無くボーッとしているって感じ」
「何かとんでもない事のおきる前触れなんじゃないか?」
「まさか、そんなわけ無いよ」
健介の言葉に雅之が笑いながらそう言う。その話を聞いていた私達(私と安奈と久美子の三人)は、ヒソヒソと話をした。
「健介の言うとおり、何かが起きる前触れじゃない?」
「久美ちゃん。そんな縁起でもない事言っちゃだめだよ」
「そうですわ。和美はただの恋なんですもの」
「ただの恋かしら?」
「どういう意味よ?」
久美子の意味ありげな発言に、眉を顰めながら安奈がそう言った。久美子は不適に笑いゆっくりと口を開く。
「もしかすると、結婚してる人かもよ」
「ありえない」
「ワタクシも、ありえないと思いますわ。和美が可笑しいのは、ここに来てからですもの」
「エッ、それじゃあ、このメンバーの中に!」
驚いたように久美子がそういい、雅之、健介、和彦の順に見回す。
その瞬間、ハッとした表情を見せた安奈は焦ったように言い放つ。
「ま、まさか、マサじゃないよね? あの公園の事もあるし――」
「まず。それはありえないと思うわ」
「ワタクシも久美子の意見に賛成ですわ」
「よかった。違うんだ」
「大体、あんなの好きになるのはあんた位よ」
「何それ!」
久美子の言葉に膨れっ面になる安奈は、唇を尖らせブーブーと言い出した。
私と久美子はそんな安奈の顔を見て笑った。