高校三年 夏休み―5 (宮沢 和美)
青々と広がる海に立つ白波を見据え、私は堤防の上に腰を下ろしていた。
浜には大勢の人がおりビーチパラソルを幾つも立ててあった。Tシャツを着たままの私は、ボーッとそんな砂浜を眺めている。別に、何か興味のある物があるわけでもなく、ただボーッと眺めていた。
海辺では恵利と由梨絵が「キャーキャー」と、騒いでおり、遠くの方では健介が水飛沫を上げながら泳いでいた。冷夏と久美子は――。何処に行ったのか分からない。まぁ、こうも人が一杯居れば分からなくなるのは当然なんだろうけど……。
ボーッとしている私は沢山の声の中、微かに安奈の声が聞こえた。それに遅れて、雅之と和彦の声も。
私はすぐに振り返り安奈を探す。だが、人が多く見つけることは出来ない。
その時、突如強い風が吹き、堤防の上に立っていた私は、体を煽られ堤防から足を滑らせた。
「キャッ!」
久し振りに女の子の様な悲鳴を上げたその時、
「オット」
と、声がして私の体を誰かが受け止める。お姫様抱っこの様な状態だと、分からない私は恐る恐る目を開いた。
私の視界に飛び込んだのは、和彦の顔で心配そうに言う。
「大丈夫か? 怪我とかしてないだろうな?」
何故か、胸がドキドキと鼓動を打つ。
頭はもう真っ白で言葉も出ない。そんな時、安奈と雅之が駆け寄る。
「カズちゃん、大丈夫? 駄目だよ、あんな所でボーッとしてたら」
「でも、和彦も凄いな。見事に受け止めて」
「いや。たまたま通りがかったら、宮沢さんが振ってきてとっさに体が――。それで、買って来たジュースを投げて……」
和彦がそこまで言ってすぐ、何処からか悲鳴が響いた。きっと、和彦の投げたジュースを頭から被ったのだろう。氷も入ってただろうから、とても冷たかったと思う。
私達はバレない様にその場を後にした。もちろん、和彦にお姫様抱っこされたままで。
暫く走り、落ち着いた所で私を降ろした和彦は、あんなに走ったのに息を乱さずに言う。
「いや〜。ビックリしたね。ハハハハハッ」
「わ、笑い事じゃないよ……。僕…もう走れないよ」
「相変わらず、体力が無いな」
「しょうがないだろ。滅多に運動なんてしないんだから」
「まぁ、これで少しは運動になっただろ?」
和彦と雅之の二人がそんな会話をしている中でも、私の胸は鼓動を早めていた。
大人しくしていた私を心配してか、安奈が小声で話しかけてきた。
「どうかした? 今日は、何だかいつものカズちゃんっぽくないよ」
「だ、大丈夫。心配しなくていいよ。私は全然平気だから」
焦りながら早口でそう言った私を、さらに心配そうな目で見つめる安奈。失敗したと、私は思った。
いつもなら、冷静に対処できたのに、今日は何処かが可笑しかった。
そんな私に、安奈が更に問い詰めるように言う。
「さっき、落ちた時に何処か怪我したの?」
「怪我はないって。大丈夫だ。心配しすぎなんだよ安奈は」
「そう? なら、いいんだけど……」
そういいながらも、心配そうな目の安奈に私は微笑んだ。