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高校三年 夏休み―3 (川島 久美子)

 翌日、私達は早速旅館の手伝いをする事になった。

 私は和美と一緒に温泉の掃除を担当させられ、早速ブラシを持って掃除をしていた。安奈と冷夏は接客業の方に回され、和彦と健介が力仕事、恵利と由梨絵が外回りの掃除をしている。雅之は一人調理場に回され、皿洗いやらゴミ捨てやら雑用を負かされている。

 滑りやすい足場に気をつけながら汚れを落としてゆく。初めは黙々と進めていたが、徐々に集中力が途切れ始め、


「あ〜っ。めんどくさい! 早く午後にならないかな」


などと、口走っていた。意外に真面目な和美は文句一つ言わず、少し怠け気味の私に言う。


「あんた、さっきから口ばっかり動いてるぞ! チャッチャと手を動かしな」

「わかってるわよ。全く、真面目に掃除なんかしちゃってさ」

「私は、あんたと違って真面目なの」


 私の方を向かずブラシでタイルを磨きながら和美がそう言った。

 不貞腐れる私は、ブーブーと言いながらもブラシでタイルを磨いた。

 二時間ほどで広々とした温泉の男湯女湯両方を掃除し終えた私と和美は、暫しの休憩時間を頂いた。

 自分達の部屋に戻り、私は畳みの上に仰向けに倒れこみ息を吐いた。


「はふ〜っ。疲れた……」

「疲れたって、まだ半分も仕事やってないぞ」

「へッ! そうなの?」

「この後、床磨きがあるでしょ」

「はへ〜っ。嘘でしょ〜」

「あんたに嘘ついて何の得があるのよ」


 和美はそう言って呆れた様にため息を吐いた。

 十分間の休憩の後、私と和美は床磨きの仕事に移った。

 広々とした旅館内の隅々まで綺麗に磨いてゆく私達の元に、恵利と由梨絵が外回りの掃除を終えて駆けつけてきた。


「外回り済んだんで、私達も床磨き手伝いますね」

「ありがとう。助かるよ」


 目に涙を浮かべながら私はそう言った。恵利も由梨絵も楽しそうに床を磨き始めた。

 こうしていると、小学校の頃の雑巾掛けを思い出す。よく、みんなで競争した事を。


「ねぇ、恵利と由梨絵は、小学校の頃競争とかしなかった?」

「競争? 何のですか?」


 私の言葉に不思議そうに由梨絵が聞いた。

 あれ? と思いつつ私は当然の様に言う。


「雑巾掛け競争だよ。やった事ない? 端から端まで走っていくやつ」

「私の通ってた小学校って、モップだったんで競争とかは……」

「私の所もモップでした」


 由梨絵も恵利も申し訳なさそうにそう言った。

 私は世代の違いを何と無く肌に感じた。

 それから、時は経ち正午。お昼の時間が回った。私達は皆合流し食堂に来ていた。

 皆と言っても雅之以外だ。雅之はまだやる事があるらしく、今はまだ合流できないそうなのだ。

 少し落ち込んだ様子を見せる安奈だが、皆を心配させないようにと笑顔で振舞っていた。


「今日は疲れた。もう、動けない……」


 私はテーブルに凭れながらそう言うと、和彦がすまなそうに言った。


「ごめんな。コッチの事情で色々と扱き使って」

「いいって、あいつの場合はもっと扱き使っても」

「か〜ず〜み〜。私は奴隷じゃないんだぞ〜」


 私は和美に向って自分の出る一番低い声でそう言った。

 そんな私達に、調理場から出てきた男の人が全員分のコップと冷たいお茶を運んできた。


「お疲れ様」


 男の人がそう言ってコップを置くと同時に安奈が悲鳴に近い声を上げた。


「ま、マサ!」


 その声に、皆顔を上げた。以下にも板前見習いの様な格好の雅之の姿は、別人の様な印象があった。

 驚き目を丸くする私達に、ニコヤカに微笑む雅之は首を傾げ、


「どうかした?」


と、一言言った。

 その言葉にすぐに答えたのは安奈だった。


「凄い、似合ってるよ!」

「そ…そうかな?」


 安奈の言葉に恥かしそうに頭を掻く雅之。確かに今の雅之の服装は似合っていた。

 料理のできる男って感じの雰囲気をかもちだしていたのだ。恵利もその姿には流石にビックリして言葉も出なかったらしい。

 暫くして、雅之はすぐに調理場に呼び出され戻っていったが、何だか生き生きしているように私は見えた。


「しかし、マサの奴、似合ってたな」

「そうですね。倉田先輩、こういう仕事向いてそうですもんね」


 健介の言葉に笑顔で賛同する由梨絵。この二人は昨日からベタベタしていて、見ているだけで無償にイライラする。

 まぁ、それは私のただの僻みなのだが……。


「それより、お昼はまだなのか?」


 和美が少々不満そうにそう言うと、和彦は時計を見て不思議そうに首をかしげた。


「可笑しいな。いつもなら、この時間はお昼なんだけどな……。何かあったのかな?」

「おい。マジかよ。コッチは空腹で死にそうだって言うのに」

「でも、何でもお腹を空かせて食べた方がより一層美味しく頂けますのよ」


 落ち着いた口振りで冷夏がそう言うと、和美も小さな声で「まぁ、それもあるけどよ」と呟いた。

 私もさっきからお腹が鳴りっ放しで、もうそろそろ限界を迎えそうだった。

 そんな時だった。調理場から雅之が料理を運んでやってきたのは。


「お待たせ。何だか時間掛かっちゃって」


 笑みを浮かべながらオカズの盛ってある皿を皆の前に置き、御椀とご飯の入った桶の様なものを運んできた。

 雅之は御椀にご飯をよそって皆に回した。そして、皆手を合わせて「いただきます」と言ってからご飯を食べ始めた。

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