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高校三年 一学期―6 (宮沢 和美)

 喫茶店を出て、公園に来ている。

 静かで殺風景な公園。

 小さな滑り台。

 小さなブランコ。

 小さなシーソー。

 小さな水飲み場。

 小さな砂場。

 全て小さなこの公園の結構広々とした芝の上に、私は腰を下ろした。

 無意識にため息を漏らし、安奈を見る。楽しそうに倉田 雅之と言う駄目男と話をしている安奈に、私はもう一度ため息を漏らした。

 喫茶店で何故、あんな事を言ったのか分からなかった。ただ話しをしに来ただけなのに、どうしてあんな酷い事を――。

 後悔する私は、またまた大きなため息を吐いた。


「大きなため息吐いちゃって。まさか、喫茶店での事今更後悔してるの?」


 久美子が笑顔でそう言いながら私の横に腰を下ろした。

 その横には冷夏も一緒で、冷夏が続けざまに言う。


「少し言い過ぎですわよ。幾ら、安奈の事を想っていてもあれじゃあ」

「わかってる。私も分かってるんだ。けど、何かあいつ見てるとさ」


 そう言い、安奈の傍に居る雅之を見る。その目は自然と厳しい目になる。

 そんな私の顔を見るなり、冷夏が呆れた様に言う。


「ほら。また目が鋭くなってますわ」

「まだ、話もしていないのに、そんな嫌わなくても良いじゃない」

「分かってるよ。たださ、何であんな奴を安奈は好きになったんだろうってさ」


 当然の様な私の考え。

 勉強もスポーツも容姿も全て安奈に到底及ばないあの雅之の何処に、安奈は惹かれたのだろう。そう考えると、次第に先程の怒りが戻ってくる。


「アーッ! 駄目だ! マジムカツク! 何であんな奴に安奈を奪われなきゃいけないんだ!」

「奪われるって……。あんたは安奈の親か」


 久美子もまた呆れた様にそう言う。そう言われた瞬間、私も怒りがスッとひいた。

 そして、ため息が毀れる。肩を落す私はもう一度安奈に視線を送る。

 すると、安奈が視線に気付き振り返り、


「ねぇ! そんな所に居ないで皆で話そうよ」


と、両手を振りながら叫ぶ。もちろん、私は行きたかったが、安奈の傍に雅之が居たため遠慮した。

 遠慮したと言うよりも、あんな酷い事を言って顔を合わせることなんて出来るわけが無かった。戸惑いの表情を浮かべる私に、冷夏が心配そうに声を掛ける。


「和美は、行かないの?」

「ああ。あんな事言った後に、顔を合わせられない。取り合えず、気分が優れないから、休んでるって伝えといて」


 苦笑しながら、私がそう答えると、久美子が落ち着いた感じの声で言う。


「それじゃあ、安奈にはそう伝えとく。気持ちが落ち着いたらあんたも来なさいよ」

「落ち着いたら行くよ」


 私はそう言い、久美子と冷夏を見送った。

 ふと空を見上げた私は、いきなり声を掛けられた。


「隣、良いかな?」


 その声の主は、雅之の友達の和彦だった。優しく微笑む和彦が、私の横に腰を下ろす。

 私は顔も見ず、暫し俯き地面ばかりを見つめていた。そんな私に、和彦が雅之を見ながら静かに口を開いた。


「君は、どうしてユキの事を嫌うんだい? あっ、ユキって雅之の事」


 突然の質問に、私は少し戸惑った。どうして、そんな事を聞くんだと、思ったからだ。

 それでも、私の答えを待つ様に、和彦は黙ったまま前を見る。長い間が空き、私は渋々と答えた。


「嫌いって訳じゃない。ただ、安奈にはもっと良い人と一緒になって欲しいんだ」

「それじゃあ、君の言う良い人ってどんな人なんだ? 勉強の出来る人? スポーツの出来る人? それとも、容姿が良い人かな?」

「な、何だよ。あんた、何が言いたいんだ!」


 何と無く、和彦の言いたい事は分かっていた。だけど、私は怒鳴っていた。無意識の内に。

 頭では分かっているつもりだけど、心ではそれを認めたくないと思っているのだろう。だから、喫茶店でも――。

 私のそんな思いを知ってか知らずか、和彦が言った。


「宮沢さんが、鈴木の事を大切に想うのはよく分かるよ。でも、鈴木は今ユキを大切な人だと思っているんだ。だから、君はそれを遠くで見守ってて欲しい。それから、これは俺の単なる思い込みかもしれないけど、言っておくよ。鈴木とユキは、お似合いのカップルだ」

「何、熱く語ってんだよ。大体、何を根拠にお似合いのカップルなのよ」


 和彦の話しを聞いている私が、何だか恥かしくなり少し頬を赤くしながらそう言った。

 そんな私は、和彦は軽く笑い言った。


「鈴木もユキも相手を思いやる優しさがあるからね。きっと、上手く行くと思うよ。だからさ、俺達はそんな二人の恋を遠くで見守ろうよ」


 和彦のその言葉を聞いた私は、立ち上がり早足で歩きだした。

 もちろん、その先には雅之の姿があった。私は安奈の横を通り、その傍に居た雅之の腕を掴んで歩き出す。


「わわわわわっ」


 急に腕を引っ張られ、雅之は驚いたように声を出した。

 安奈も驚いたような表情をしており、私は足を止めずに言った。


「安奈。ちょっと、こいつ借りるよ!」

「エッ。借りるって、何処行くの」

「ちょっとは、ちょっとだよ。すぐ戻ってくるから」


 私はそれだけ言って、公園の裏手に回った。安奈も追ってきていない様だし、私は雅之の腕を離す。

 戸惑った様な表情を見せる雅之は、私とは一切目を合わさず、オドオドとしている。

 まぁ、喫茶店であんな事を言ってしまったのだ、しょうがないのだけれど。

 そんな雅之を見ながら、私は口を開いた。


「私はあんたを認めない」

「う、うん。それは、前に」

「けど、安奈があんたを想うから、私は暫くあんたに安奈を任せる。でも、もしあんたが安奈を泣かしたら、私はあんたを許さない」


 少々脅す様な形になったが、雅之はキョトンとした表情で私を見て何だか嬉しそうに笑みを浮かべた。

 そして、申し訳なさそうに言う。


「僕、勉強もスポーツも容姿も良くないけど、君が安奈との事を認めてくれるように、頑張る」


 その瞬間、分かった気がする。安奈が雅之を好きになった理由が――。

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