高校三年 一学期―5 (白羽 和彦)
雅之と一緒に安奈とその友達、久美子、和美、冷夏と会っていた。
安奈はトイレに行っていたため知らないが、今物凄い険悪な雰囲気が漂っている。
和美に色々言われたためか、大分肩を落としている雅之。
そんな雅之を心配する健介。
雅之を睨み付け、未だ怒りの覚めやらない和美。
笑ってその場を和まそうとする冷夏。
申し訳なさそうな態度の久美子。
沈黙の漂うこの場に困った表情をする安奈。
皆、色々な表情を見せていた。
そんな俺も、少しばかり雅之が心配だった。
確かに他から見れば雅之と安奈は不釣合いかもしれない。だが、それは、二人の事をよく知らない人が見た場合だ。
俺は、雅之の事もよく知っているし、安奈の事もおおよそは分かっているつもりだ。
だから、分かる。二人は本当にお似合いだと。
「ねぇ。外行かない? 何だか空気が重いって言うか、雰囲気変えたいって言うか」
苦笑する久美子が、その場をどうにかしようとそう切り出した。
その意見に返事をしたのは安奈だった。きっと、この空気をどうにかしたいと思ったのだろう。
「そうだね。公園でも行って外の風に当たろうか」
両手を合わせながら明るく笑顔を見せる。
無理に笑っているのが分かるが、そこは触れずに俺もその意見に賛成する。
「まぁ、こうして黙っているよりも、外で気晴らしでもしたほうがいいかもな」
「そうだよね。和彦君もそう言ってるし。さぁ、行こう!」
安奈がそう言うと、渋々と言った感じで皆が席を立つ。
和美はその間も雅之を酷く睨んでおり、更に空気は重くなる。
「僕が、ここは払うから、皆は先に行っててよ」
「エッ。そんな、悪いよ。ワリカンで良いよ」
「いいって。この位なら、僕のおごりで」
雅之と安奈がレジでそんなやり取りをしていた。
無理して笑顔を作る雅之に、安奈が少し困った様な表情を作った。
渋々、安奈は雅之に会計を任せ、外に出てきた。その間も沈黙するメンバーを見回し、俺と安奈の目があった。
チラチラと雅之の方を気にしながら、安奈は俺の方に足を進めてきた。
不安そうな安奈に俺は何食わぬ顔で言う。
「どうかしたのか? 不安そうな顔して」
「何だか、マサの元気が無い様な気がするの。私がトイレに行ってる間に何かあった?」
どうするか迷った。
本当の事を話すか、話さぬか――。
「特に何も無かった。多分、寝不足なんだよ。久し振りに鈴木に会えると思ってさ」
「そうかな?」
「ユキはそう言う奴さ」
あからさまな嘘をついた。
本当の事を言えば、安奈はその後雅之と会っても、和美が雅之に言った事を気遣うだろう。
雅之にしても、折角安奈と一緒に居られるのに、毎度気遣ってもらうのは辛い事だと、俺は思う。
その為、俺はここで嘘をついたのだ。
「でも、寝不足なら、そう言ってくれればいいのに」
「心配掛けたくなかっただけさ」
俺はそう言って軽く微笑んだ。安奈はそんな私に笑みを返しさっと、久美子、和美、冷夏の三人のもとへと戻っていった。
俺と安奈が話していたのを、聞いていたのか、健介が急に声を掛けてきた。
「なぁ、本当の事言わなくて良かったのか?」
「何だ? いきなり」
不満そうに俺がそう言うと、健介も不満そうな表情をして言う。
「さっきの話しだ。悪いのは和美とか言う奴だぞ。何で本当の事言わないんだよ」
「本当の事を安奈に話しても何にも変わらないし、ただユキと安奈の関係が崩れるだけの気がしたからかな?」
「かな? って、曖昧だな……」
「まぁ、和美って娘も悪気があるわけじゃないんだよ」
笑いながら健介を見る。複雑そうに顔を歪める健介は、ため息を吐き首を左右に振り言う。
「俺には悪気の塊の様に見えたがな」
「そう? 俺には、安奈の事を守る親父さんに見えたけど」
「親父って、あいつは女だぞ?」
健介の言葉に俺は少し呆れて、ため息混じりに答えた。
「たとえ話だろ? それに悪気の塊って言うのよりは分かり易いと思うけど?」
「俺は、感じたまんまに言っただけなんだがな」
和美の方を見ながら健介はそう言う。
相変わらず和美は、雅之の事を睨み付けていた。