高校三年 一学期―4 (川島 久美子)
安奈の彼氏『倉田 雅之』と、直接話をすべくため、私、和美、冷夏の三人は、安奈と一緒にとある駅の前に居た。
駅のすぐ目の前には噴水があり、右側には大きな時計台が見える。
そう、ここは安奈が彼氏である倉田 雅之なる人物と初めて会ったあの駅なのだ。
もちろん、その事を知っているのは私と安奈だけで、和美と冷夏はそんな事は全く知らない。
待ち合わせ時間から、暫し遅れ雅之が到着した。
少し地味めの雅之の横には、モデルの様なスラッとした体型の男と凶暴そうな顔付きの男の二人が居た。
「ごめん。遅れて」
申し訳なさそうに頭を下げる雅之に、安奈が笑顔で答えた。
「ううん。大丈夫だよ」
その言葉に、雅之はホッとした様に顔を上げる。安奈と雅之は私達の事など忘れたのか、微笑みながら見詰め合っていた。
ムカツク。こんな近くであんな風にイチャつかれると、物凄く腹が立つ。
多分、そんな事を思ったのは私だけではないと思うが、皆それを口にはしないのだ。
そんな中、初めに口を開いたのはモデルの様な男だった。
「どうも。俺はユキ、雅之の友達の白羽 和彦。よろしく」
和彦と名乗る男は私達に軽く会釈する。
すると、何を焦ったのか凶暴そうな男も自己紹介を始める。
「お、俺は、加藤 健介。マサの親友だ」
胸を張り威張るようにそう言うが、別に興味など無い。
とりあえず、適当に自己紹介を済ませてしまおうと思い、作り笑いを浮かべながら答えた。
「私は、川島 久美子。よろしく」
明るい感じの声でそう言うと、それに続くように、和美、冷夏と自己紹介をする。
「宮沢 和美だ。よろしく」
「国水 冷夏です。よろしくお願いします」
不機嫌そうな態度の和美に対し、優しく笑顔を振りまく冷夏。先が思いやられる。
静かな喫茶店に移動した私達は、テーブルを二つ並べ向かい合っていた。
気まずい雰囲気が立ち込めており、沈黙が続く。その原因となっているのは、きっと和美だと、私は思った。
実は、雅之が待ち合わせ場所に来た時、和美は眉間にシワを寄せながら雅之のことを睨んでいたのだ。
そんな中、健介が雅之に小声で話しかけた。席の近かった私はその一部始終を聞き取った。
「あの和美って娘が、お前の事ずっと睨んでるぞ。謝ったほうがいいんじゃないか?」
「えっ? 謝るって僕何か悪い事したかな?」
健介の言葉に不安そうな表情を見せる雅之は、横目で和美の方を見る。だが、すぐにオドオドした様に視線をはずした。
きっと、物凄い剣幕で雅之を睨んで痛んだと思う。私も和美に睨まれたら、絶対に直視できないから。
「も、もしかして、遅刻した事怒ってるのかな?」
「知るか。大体、遅刻したくらいであんなに怒るか?」
「分かんないけど、それ以外思い当たらないよ」
不安一杯と言った感じの雅之は、かなり怯えているように見える。
本人が心当たりの無いのは当たり前だと思うが、和美も和美だ。
ただ睨むだけと言うのは、何か言われるよりも怖い。私も、あの和美の目に何度やられたか。
そんな険悪なムードの中、安奈が席を立った。そして、恥かしそうにトイレに向う。きっと緊張していたのだろう。
安奈がトイレに行くと同時に、今までただ睨んでいた和美が口を開いた。
「私は、あんたが安奈と付き合うなんて認めない」
「和美!」
和美の隣に座っていた冷夏が叫ぶ。そして、雅之の横に座っていた健介が、何故か目付きを変える。
一方、雅之は表情を変えず笑みを浮かべながら和美に言う。
「ごめん。僕も、わかってるんだ。安奈と不釣合いだって事は……」
「だったら、今すぐ別れてくれ」
「ちょっと待てよ! 何でお前が二人の事に口出しするんだ!」
テーブルを右手で叩き健介が立ち上がった。その音は店内に響いた。
客も店員も私もその音に驚いた。睨み合う和美と健介の二人は激しく火花を散らせる。
「安奈は、私の大事な親友だ。運動も出来なきゃ勉強も出来ない駄目人間なんかと、安奈を一緒にしたくネェ!」
「ちょっと、和美言いすぎだよ!」
何とか止めようと私はそう言う。だが、そんな事和美が訊く分けなかった。
「大体、あんたなんかが、安奈に告白するのがありえないんだよ!」
「待てよ! 好きな人に告白するのが、行けない事だって言うのか!」
「お前は黙ってろ! 私はこいつに言ってんだ!」
和美は雅之を指差して言う。完全に周りの事など見えていない和美は、本来の目的である事を忘れていた。
私達は雅之に会って話をする事が目的だったのだが、もう話をする余裕なんて無かった。
冷夏も私も和美を止めようとしたが、全く止める術はない。そんな時、雅之が口を開いた。
「健介。もう良いよ」
「お前、好き放題言われて悔しくないのか!」
「でも、運動も勉強も出来ないのは本当の事だし、身長だって安奈より少し小さい。安奈に相応しくないって言うのは、僕が一番よくわかってるんだよ」
「だからってな」
少し落ち着きを取り戻した健介が雅之を心配そうに見据える。
一方の和美は一向に怒りをむき出しにしている。そこに、何も知らない安奈が戻ってきた。
その後、言い争いは無かったかの様に静まりかえり、また沈黙だけが続いた。