高校三年 一学期―3 (加藤 健介)
五月になり、すぐの事だ。
いつもの様に雅之と昼飯を食ってると、いつもの様に雅之の携帯が激しく震えた。
多少羨ましがりながら、俺が雅之の方を見ていると、雅之は複雑そうな表情をしながら俺の方を見る。
箸を銜えたままの俺は、眉を顰め雅之を軽く睨むと苦笑しながら雅之が言った。
「どうしよう」
「安奈ちゃんからのメールだろ? 何か不都合の事があるのか?」
「それがさ……」
雅之が俺に事情を説明する。
安奈からのメールで、今週の土曜日会わないかと言う事だ。
これだけなら、普通だがその後に、
『友達も一緒にだけど大丈夫?』
と、付け加えられていた。
俺は何と無く嫌な予感がしていた。今更、友達も一緒に会おうだなんて、変だと思ったからだ。
「何で、またこの時期に……」
「僕に言われても……。どうしたらいいかな? 安奈には会いたいけど……」
ウジウジと悩む雅之に、俺はため息を吐く。雅之が悩みだすと限が無いからだ。
悩む雅之が答えを出す間、俺はのんびりと箸を進める。
昼休みが刻々と過ぎて行く中、一向に答えを出さない雅之。何をそんなに悩むのか、分からない俺は呆れ口調で言う。
「なぁ、何をそんなに悩んでるんだ?」
「だってさ。友達も一緒なんだよ? 怖いじゃないか」
「怖いって、別に向うだけが友達呼ぶわけじゃないだろ?」
「エッ、もしかして健介、来るつもり?」
驚いたようにそう言う雅之は、来て欲しくないといった表情を見せた。
もちろん、俺は一緒に行くつもりだ。たとえ、雅之が来るなと言っても、隠れてついていくだろう。
雅之が安奈の友達に何を言われるか分からないし、いざとなれば俺が――。
拳を握り締める俺に、迷惑そうな表情の雅之がため息交じりに言った。
「でも、健介って土曜日予定があるんじゃないの?」
「何を言う! 友達よりも大切なものなどあるわけがないだろう!」
俺のこの言葉に更に迷惑そうな表情を見せる雅之は、俺と目を合わせようとしなかった。
暫く沈黙する俺と雅之に、廊下の窓を開け和彦が声を掛けてきた。女子を振り切ってきたのか、少々息が上がっているが、ニコヤカに笑みを浮かべている。
「どうした? 何だか暗いぞユキ」
「それがよ」
雅之に代わって俺が和彦に説明する。
説明が終ると、和彦は「そっか」と、小さく呟いただけでその後は黙っていた。
それだけかよ、と思う俺は和彦の顔を軽く睨んだ。すると、和彦が思い立ったように言う。
「よし。俺も一緒に行くよ。健介だけだと不安だしさ」
「何だよそれ! 俺がマサの足を引っ張るとでも思ってるのか!」
「そうだね。健介はすぐに他の女に手を出しそうだからね」
「お、俺はそんな事しねぇ! 由梨絵がいるんだ!」
立ち上がりそう叫ぶ俺を両手で押さえる和彦は、相変わらず笑みを浮かべており完全に俺を茶化している。
冗談とは分かりつつも、何故か俺はカッとなってしまう。そんな俺の事を和彦は面白がっているのだ。
だから、俺は和彦の事が苦手だ。
暫く、黙って話を聞いていた雅之は、ようやく笑みを見せ口を開いた。
「ありがとう。二人とも」
「いいって。俺達、友達だろ? 困った事があれば何でも相談に乗るし、いつでも助けてあげるよ」
俺が言いたかった事を、全て和彦に言われてしまい、俺は結局何も言えなかった。
まぁ、俺も言うか悩んでた所だったし、和彦が言ってくれて本当はホッとしていた。
あんな言葉、俺には恥かしくて言えそうになかったからだ。
今回、初めて健介の視線で物語を書きました。雅之や安奈とは違い、少々強気な健介は結構、苦手です。と、言うよりこんな感じで進めて大丈夫かなんて、思います。
ちょっと、と言うよりかなり複雑な物語の進め方ですが、色んなキャラの視線を読者の方に楽しんでいただければいいと、考えております。