高校三年 一学期―1 (倉田 雅之)
今回から、告白後の物語を皆様にお届けしたいと思います。健介や和彦、その他多数のサブキャラの視線で、高校三年の一年間をお送り致したいと思っております。タイトルの()の中の名前はこの物語の語り手みたいなものです。楽しんでいただければいいと思っております。
高校三年――春。
春休みも終わり、僕は遂に高校三年生になった。
二年の時と何も変わらない学校生活に担任。クラスメイトは変わったが、何故か健介とは同じクラスだった。
幸い、和彦も同じクラスのため、今年は健介とテスト勉強をしないで済みそうだ。
席は三人とも少し離れているが、休み時間は殆ど一緒に居る気がする。殆ど一緒に居ると言っても、それは健介の事であって、和彦とはあんまり一緒には居られない。
その理由は――
「キャーッ! 和彦く〜ん」
「和彦君よ! 待って〜ッ」
「待ってよ〜ッ。和彦〜様」
大小様々な声が混ざり合い、廊下を走り抜けていく。もちろん、その先には和彦の姿があるのだ。
僕も健介もそんな和彦を見ながら、大変だなと呟きながら笑っていた。他人事だから、笑えるのだろうが、きっと僕が和彦の立場だったら、絶対逃げ切れないと思う。
「しかし、意外だな〜っ」
突然、健介がそう言った。何の事か分からず、僕は軽く首を傾げた。
そんな僕の顔を真っ直ぐ見つめながら、ため息を漏らす健介は、何だか僕の事を馬鹿にしているようだった。
少々、イラッとする僕だが、健介に力で勝てる訳も無い為、その怒りは心の奥底に仕舞い込み、
「何が意外なの?」
と、訊くとため息を漏らし呆れた様に失笑し、ため息混じりに答えた。
「お前と安奈ちゃんだよ。俺はてっきりお前の片思いだと思ってたからよ。あんな美人な安奈ちゃんが、お前の様な何のとりえも無い奴を……」
「その駄洒落は面白くないよ」
僕はそう言いながらストローを口に銜える。
そんな僕の顔を睨む健介に、僕は絶対に視線を合わさないようにしていた。
暫くして健介は根負けし、箸を進めながら言う。
「それで、安奈ちゃんとは上手くいってるのか?」
「上手くいってるも何も、以前と何も変わらないよ。毎日の様にメールして、楽しく過してるよ」
「それって、メル友のままって事じゃないのか?」
箸で僕の顔を指差す健介は、怪訝そうな表情を見せた。
ストローでコーヒー牛乳を吸いながら、僕は暫し考える。
その時、机に置いてあった携帯が激しく震え、ガタガタガタと音が響いた。
ストローを銜えたままの僕は、右手で携帯を取った。
画面には安奈の文字が入っており、僕はすぐに携帯を開いた。
「何だ? 安奈ちゃんからか?」
「うん」
「それで、何だって?」
「別に、今何してる? って」
「本当か?」
「本当だよ」
怪しむ目で僕を見る健介。当然、安奈がこんな短いメールを送るはずは無い。
実際は、
『久し振り〜っ。やっと、お昼休み〜。マサの学校も昼休みだよね? 授業中だったらごめんね。早く、マサとメールがしたかったからさ』
と、言う内容のメールだった。
安奈は久し振りと言っているが、今日の朝もメールをしたので、久し振りというわけでもない。
自然と笑みを浮かべる僕は、慣れた手付きで安奈への返事を送る。
『久し振りって、今朝メールしたばかりだよ。僕の所も今は昼休みだから、メールしても大丈夫だよ』
メールを送った僕は、携帯を机に置き健介の顔を見た。
羨ましそうな顔をする健介は、ため息を吐き俯いた。
訳も分からず僕が首を傾げると、健介が顔を上げ言う。
「いいよな。毎日毎日、メールでイチャイチャできて。全く、羨ましい限りだぜ」
「そう? 僕は健介の方が羨ましいよ。由梨絵と毎日会えるんだから。僕なんて会いたくても休みの日だけだよ会えるの」
「でもよ、ゆっくり話せるのは部活が終ってからだぜ。お昼だって、本当は由梨絵と食いたいけど、何かと問題があるだろ? だから、仕方なくお前と一緒だけどよ」
ため息交じりにそう言う健介は、苦笑しながら箸を口に進めた。
ストローを銜えた僕は、呆れながらふと廊下の先に目がいく。そこには、激しく両手を振る一人の女子生徒の姿があった。
それが由梨絵である事にすぐに気付いた僕は、半笑いしながら言う。
「健介の愛しの由梨絵が、向うで健介の事呼んでるよ」
「な、何! ど、何処だ! 俺の愛しの――って、お前!」
少し頬を赤くし、健介が僕に拳を振り上げた。多分、僕の言った言葉が恥かしかったのだろう。
そんな健介に両手を軽く胸の前に広げた僕は、笑っていた。
「ほら、僕なんかの事より、早く由梨絵の方に行った方がいいよ」
「うるせぇ! わかってるさ。戻ってきたら、一発ぶん殴るからな。覚えてろよ!」
健介は席を立ちそう言うが、そんな事を僕が覚えてるわけは無い。きっと、健介もすぐに忘れるからだ。
最近は随分と、健介の扱い方にも慣れてきた僕は、ニコニコと健介の事を見ていた。
教室を出ようとした健介は、ピタッと足を止め僕の方を見て眉間にシワを寄せる。
笑みを浮かべる僕が軽く右手を振ると、健介が、
「その弁当貰っていいぞ」
と、言い残し教室を後にした。僕の机に残された、食い掛けの弁当に目を落とした僕は、唖然としながらため息を漏らした。
右手に持っていたコーヒー牛乳を机に置き、肩を落とす僕はまだ半分も残っている弁当をどうするかと考えていた。
その時、机に置いた携帯が激しく震えた。もちろん、安奈からのメールだった。
『確かに今朝メールしたけど、それっきりだったでしょ? お昼までの時間が私にとっては物凄く長かったの。だから、久し振り、だったの。もしかして、マサは寂しくなかった?』
このメールに少し照れくさかった僕は、テレながらも返事を返した。
高校三年の第一弾は、いかがでしたか? 一応、初めは雅之の視線でお送りしましたが、楽しんでいただけましたか?
次は安奈の視線で物語を進め様と考えております。皆さんの意見や感想などを、聞かせてもらうと嬉しいです。
それから、『間違いメール 番外編』ですが、多分この高校三年編で終わりとなると思いますが、最後までよろしくお願いします。