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番外編 健介と由梨絵の恋 後編

 夏休みが終わりに近付いた頃、私がいつもの様にボールをばら撒けていると、倉庫の裏から健介先輩の声が聞こえた。

 また、告白している様だ。夏休みに入りもう五度目になる。

 その度、私は振られるように祈っていた。そのおかげもあり、告白は五戦五敗と負け続けている。

 そして、今回も――。


「ごめん。私、付き合ってる人がいるから」


 その言葉に私は小さくガッツポーズをする。それから、健介先輩の叫び声が聞こえ、暫くして倉庫の裏から健介先輩が出てきた。

 流石に、六戦六敗とあり、少し落ち込み気味の健介先輩と、ばら撒けたボールを拾うフリをする私は目があった。


「今日も、ばら撒けたのか?」

「はい。今日は石に躓いて……」

「この辺に躓く様な石は無い筈だが……」

「えっ、ありますよ。ほら」


 私はそう言って近くに落ちていた小石を拾った。暫し沈黙が続く。

 流石にこの小石には躓かないだろ、と私は思い恥かしくなった。

 そんな私を見据える健介先輩は、少し元気を取り戻した様に笑いかがんだ。


「しかし、こう毎度毎度よくばら撒けるな」

「そうですね。これが、私の仕事みたいなものですから」

「ボールをばら撒く仕事なんて聞いた事無いぞ」

「そうですか? 私はマネージャーの仕事始めてから一日も欠かさずやってますよ」


 この言葉に呆れた様に健介先輩が苦笑した。私はあの日以来健介先輩が怖いと思わなくなり、今ではこんな風に話す事が出来る。

 これも、このボールばら撒き事件がきっかけなのだ。

 毎日地道にボールをばら撒け続けた結果、健介先輩とこんなにも仲良く慣れたのだ。

 今は私のドジっぷりに感謝していた。



 それから、すぐに新学期は始まった。

 私は完全に健介先輩の事が好きになっていた。皆は暴力的で怖いと言っていたが、それは真っ赤な嘘だと、しったから。

 本当は誰よりも責任感が強く、誰よりも頑張りや。それから、寂しがりやなのだ。

 ぼんやり考え事をしていた。告白するか、されるのを待つか。

 幾ら待っても告白なんてされないかもしれない、でも告白する勇気は無い。

 そんな考えをする日が何日か続いた。


「はぁ〜っ。もう駄目〜。考えても考えても何も浮かばない……」


 トイレの鏡に映る自分の顔にそう言ってため息を吐く。そんな私はトイレのドアが開く音に、ビクッと体が跳ね上がる。

 数人の女子生徒が入ってきたのだ。学年は同じ様で何処となく見た事のある様な顔の人。


「っつうか、何なのあの男」

「キャハハハッ。あんたも告白された? 野球部のキャプテンでしょ?」

「そうそう。マジ、あの顔は無いでしょ?」

「自分の事どう思ってるんだか」


 私は彼女達のこの言葉に怒りがこみ上げてきて、涙目で叫んだ。


「健介先輩の事、何も知らないくせに、そんな事言わないでください!」


 それだけ言って、私はトイレをすぐに出た。何か、涙が流れ出していたからだ。

 何故か分からないけど、健介先輩があんな風に思われていると思うと、胸が痛んだのだ。

 誰もいない校舎裏でヒソヒソと無く私の背後で、聞き覚えのある堂々とした声が響いた。


「誰かいると思ったら、由梨絵じゃないか。何してるんだ? こんな所で」

「け…健介……先輩……」

「あん? もしかして、泣いてるのか? あんなにドジしても泣かないのに、珍しいな。もしかして、お前も告白して振られたか。そうかそうか。校舎裏って言ったら告白の定番の場所だもんな」


 何も知らない健介先輩は私を励まそうと、明るくそう言う。

 私は鼻を啜り、健介先輩を真っ直ぐ見つめる。すると、健介先輩も私の顔をジッと見つめる。

 そして、意外そうな表情で言う。


「お前、よく見ると可愛いな。こんな身近にこんなに可愛い娘がいるとは、知らなかったな。俺とした事が、全く気付かないとは不覚だ……」


 そう言いながら悔しそうに頭を抱える。そしてため息を吐き方を落す。

 流れる涙を拭きながら健介先輩の行動を見ている私は、黙ったまま口は開かない。

 そんな私に、更に健介先輩は続ける。


「全く、残念な事する奴がいるもんだ。こんな可愛い娘に告白されて、振る奴なんているんだな」


 その瞬間、私の胸の奥でしまっていた想いが、口から漏れた。


「それじゃあ……。私と……付き合って……ください」

「はぁ? な、なんだって? 俺の聞き違いじゃなきゃ、付き合ってくださいだって? 本気で言ってんのか?」


 私は健介先輩を見つめながら頷く。暫し、困ったような表情を見せる健介先輩は、


「わりぃ」


と、短くそう言い私の右肩を叩く。その直後、止まっていた涙がまた流れ出した。

 健介先輩は焦った様子で、私の顔をみて言う。


「おい! 何で泣くんだよ! まだ、最後まで話してないぞ!」

「も、もういいです!」


 私は泣きながら走り出す。しかし、石に躓きすぐにその場に倒れてしまった。

 うつ伏せに倒れる私に、呆れた様にため息を吐く健介先輩が歩み寄り手を差し伸べる。

 顔を隠す様にしながら、健介先輩の手を取り立ち上がった私に、健介先輩が言う。


「さっき、わりぃって言ったのは、もう一度、俺の方から告白させてくれって言うためだったんだ。大体、告白なんて男から女にするもんだろ? だからさ。俺の方から言わせて欲しい。俺と、付き合って欲しい」


 健介先輩は笑いながらそう言った。もちろん、私の言葉は決まっていた。

 でも、上手く声が出ず、私は健介先輩に抱きついた。

 どうだったでしょう? イマイチ、分かり難かった気が……。

 まぁ、でも、健介の以外な部分が見られた作品になったんじゃないかと、僕はそう思います。

 皆様の感想やアドバイスなど、お待ちしてます。

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