安奈編 第三十五通 苦いコーヒー
学期末テストも無事に終わり、春休みに入った。三学期はアッと言う間に過ぎ、もう春休み。このままだと、すぐ卒業だなと、感じる。
丁度、実家に帰ってきていた私は、朝早くから上機嫌だった。理由は色々だが、一番の理由は雅之の家に行けると言う事だった。
ついでに、雅之の家に行く事は既に恵利に許可をとっているため、堂々と行く事が出来る。もちろん、雅之はこの事を知らない。
軽い足取りで家を出た私は、足早に雅之の家に向った。雅之がどんな顔をするんだろうと、思いながら私は笑みを何度も零した。
そして、雅之の家の前に着くと、何だか緊張し中々チャイムを鳴らす事が出来ずにいた。
「どうしよう。ここまで来て、緊張するなんて……」
深呼吸を三度やり私は心を落ち着け、チャイムに手を伸ばす。ドアの中からチャイムの音が響くが、誰か出て来る気配は無く、私はもう一度チャイムを鳴らした。
すると、今度は足音が聞こえてきて、ぶつくさと何かを呟きながら雅之がドアを開いた。
微笑む私と目が合う雅之は、黙ったままで何も言わないため、私の方が先に口を開いた。
「大丈夫? もしかして、風邪で寝込んでたとか?」
「だ、大丈夫。ちょっと、ビックリしただけだから」
少し声の裏返る雅之に、私は微笑みながら更に言葉を続けた。
「ヘヘヘッ。ドッキリは成功って事だね」
私のその言葉を聞いて、雅之は笑った。私と雅之は暫し玄関で笑い続けた。
その後、雅之は私を家の中に招きいれ、リビングルームのソファーに座るように薦めた。
ソファーに座った私は、暫し部屋の中を見回す。そんな私に、雅之がキッチンから聞く。
「何か飲む? って、言っても麦茶とコーヒーしかないけど」
「そうだな〜。それじゃあ、コーヒーでいいよ」
私はそう言ってキッチンに立つ雅之に微笑みかけた。雅之は微笑みながらブラックコーヒーをカップにいれ、私の元に運んできた。
コーヒーの香りが漂う。苦いのは苦手な私は、ブラックのコーヒーを目の当たりにし、複雑な心境に。
そんな私に、雅之が聞く。
「砂糖とミルクは必要かな?」
私は少し迷う。無理して苦いのを飲むべきか、ミルクと砂糖を入れてごまかすか。
迷いに迷った末の結論は、
「うん。必要かも。苦いの苦手だから」
と、正直に言う事にいたった。微笑む私に、雅之も微笑み返しキッチンに砂糖とミルクを取りに向った。
棒状の袋に詰められた砂糖を二つとミルクを持って、雅之が戻ってきた。微笑む雅之はテーブルの前に座ると、
「砂糖は一つでよかった?」
と、私に訊く。とりあえず、笑いながら私は答えた。
「うん。多分、大丈夫だよ」
そう言い、砂糖とミルクを受け取った私は、コーヒーに砂糖とミルクを加えスプーンでかき混ぜた。
ゆっくりとそれを口に運んだ私は、
「まだちょっと苦かった……」
と、涙目で言った。雅之はそんな私を見て笑っていた。