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安奈編 第三十四通 想い

 バレンタインデー当日。

 私は朝からソワソワとしていた。授業中も時計ばかりを気にして、全く授業に集中できず挙句先生には怒られる始末。

 こんな事で大丈夫なんだろうか? と、一抹の不安を抱えつつ私は午前の授業を乗り切った。


「メル友の所に行くのか。まぁ、頑張れよ」


 和美が右手の拳を胸の位置で握り締め、私を激励してくれる。それに対し、私は軽く笑みを返し、


「ありがとう。頑張るよ」


と、言った。


「相手の目をジッと見つめて渡すのよ」

「そうですわ、相手も目を見つめられるといちころですわ!」


 何故か、私にアドバイスを送る久美子と冷夏は、目をギラギラに輝かせ何やら期待に満ち溢れた目をしていた。何を期待しているのか大体予想はついているが、今日はチョコを私にいくだけなので久美子や冷夏の考えている様な事は一切無いと私は胸の中で断言した。

 とりあえず、三人から元気と勇気を貰った私は足早に学校を抜け出し駅へと向った。案外、空いている電車に乗り込み、私はホッと座席に腰を下ろした。


「うんうん。大丈夫。ここまでは、うまく行ってる」


 などと言う独り言を呟き、手の平に人と言う字を何度も書きながら口に流し込んだ。

 多分、こんなに緊張するのは高校受験の合格発表以来だと思う。何だか脈が速くなり頭の中が真っ白になり始め、私はもう何も考えられなかった。

 電車に長時間揺られ、ようやく目的地に到着した私は、携帯で時計を確認する。


「は、早過ぎた……」


 時刻は二時三十分。普通、午後の授業が終るのが、四時くらいだから――。

 ため息を漏らす私は、とりあえず雅之と初めて会った時に行ったあの喫茶店へと来店した。

 とりあえず、ここで時間を潰そうと考えたのだ。喫茶店に入ると、店員が私を席に案内しメニューを渡す。私は何と無くコーヒーを頼み、時間まで一息入れていた。

 静かな店内に流れる曲に耳を傾け、私はコーヒー一杯で一時間を過した。会計を済まし、外に出た私は寒さに身を震わせ足早に雅之の学校の方に向った。


「うわっ! もう、下校してる人が居る!」


 雅之の高校の校門前に到着した私は、携帯で時間を確認しながら下校する生徒を目視する。まだ、午後の授業終る時間じゃないけど、と思う私だが何処の高校も同じ時間に授業が終るとは限らないと言う事に気付き、小さくため息を吐いた。

 こんな事なら、授業の終る時間を恵利に聞いておくべきだったと後悔する私だが、すぐに気持ちを切り替え雅之の家の方に向って走り出した。滑りやすくなっている道に、足をとられ私は激しくしりもちをついた。


「う〜っ。尻餅ついた……」


 すぐに立ち上がった私は軽くお尻を擦りながら、足元に気をつけ歩みを進めた。

 道で滑って尻餅をつくなんて恥かしいことだが、誰にもその光景を見られておらず私はホッとした。

 ゆっくり歩みを進める私は、


「うう〜っ。まだ、お尻が痛いよ……。でも、雅之と一緒の時じゃなくてよかった」


と、小さく呟いた。暫く進んでいると、私の携帯にメールが届いた。雅之からではなく久美子から。


『どう? チョコは渡せた? もしかして、今一緒に居るのかな? お邪魔だったかしら?』


 完全に私の事をからかっている久美子に、返事を返すべきか悩んだ私は、決断した。とりあえず、チョコを渡した後にメールしようと。

 今はメールなんかよりも雅之を探すことが最優先事項なのだ。


「ごめん。久美ちゃん」


と、言いながら携帯を閉じた。

 暫くして、私は雅之の家の前に辿り着いた。しかし、電気は点いておらずまだ帰ってきてはいないようだった。


「まだ、帰ってないんだ……。メールしてみようかな?」


 携帯を右手に握り私は考える。その末の決断は、メールを送らないと決まった。

 折角、雅之を驚かそうとして来たのに、メールをしちゃ意味がない気がしたのだ。

 そして、私はもう一度雅之の高校に向った。向ったと言うよりは戻ったと言う方が正しいかもしれない。

 学校前に到着したが、既に多くの人が下校しており、雅之の姿を探す所ではなかった。


「はう〜っ。これじゃあ、探し様がないよ〜」


 戸惑う私に聞き覚えのある女性の声がした。


「安奈さん……ですよね」


 その声に振り返った私の前には眼鏡を掛けた一人の女性が立っていた。


「あなたは確か、美樹さんでしたよね」

「はい。お久し振りです」


 私は美樹と殆ど同時に会釈した。少し気まずい雰囲気の私と美樹。

 一応、美樹が雅之に告白して振られたと言う話を、初詣に行った時に聞いたからである。

 そんな私に、美樹は微笑み優しい口調で言う。


「もしかして、倉田君に会いに来たんですか?」

「えぇ……。でも、中々見つからなくて……」

「それなら、必ず倉田君の通る帰り道知ってますよ」


 美樹はそう言って私をそこに案内してくれた。その途中、私に雅之への想いを色々と話してくれた。

 何だか美樹の話を聞いていると、私は罪悪感でいたたまれなかった。きっと、雅之が私と会わなかったら美樹は、雅之と――。

 心の痛む私に美樹は言った。


「私はこれでよかったと思ってます。倉田君は安奈さんと一緒にいる時の方が楽しそうに笑ってますから」

「エッ! そ、そんな事無いよ」

「私にはわかるんです。きっと、倉田君と安奈さんは――」


 美樹はそう言うと足を止めた。私もすぐ足を止め美樹の方を見る。先ほどの言葉の続きが気になったのだ。

 暫し沈黙が続くが、美樹が私の顔を見て微笑み言った。


「私、帰り道こっちなんです。それから、ここで待ってれば倉田君に会えますよ。それじゃあ」

「あっ! 待ってさっきの言葉の続きは……」


 足早にその場を後にする美樹から返事は無かった。一人取り残された私は、呆然と立ち尽くしていた。

 その後、私は雅之にチョコを渡す事が出来たが、美樹の最後に言いかけた言葉がどうしても忘れられなかった。

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