安奈編 第三十三通 手作りチョコ
三学期が始まりあっと言う間に二月に入った。
クラスの女子はバレンタインデーを目前にソワソワとし始めていた。私もその一人だ。
自分の席に座り一人深刻そうに悩む私は、陰気な雰囲気をかもち出していたのだ。そんな私に、久美子と和美がいつもの様に声を掛けた。
「今度は何悩んでるんだ?」
「どうせ、バレンタインの事でしょ?」
「そう。そうなの。バレンタイン……。どうしたらいいかな?」
顔を上げ二人の目を見つめる。私に見つめられ、久美子も和美も少し表情を引き攣らせ苦笑した。
そんな二人の目を見つめる私に、背後から冷夏が声を掛けた。
「どうしましたの? 悩み事ですの?」
すぐさま冷夏の方に顔を向けた私は、冷夏の目を見つめた。
軽く首を傾げた冷夏は微笑み「どうしましたの?」と、もう一度聞いた。
久美子と和美が経緯を話し、私は頷きながらも冷夏の目を見つめ続けた。
話を聞いた冷夏は笑いながら答える。
「そうでしたの。でしたら、当日に会いに行ったらよろしいのでは?」
「でも、学校あるし……」
「本当に好きなら、行くべきだと思いますわよ」
「それに、クリスマス前に学校休んでるんだし、この際サボっても関係ないわよ」
久美子が大笑いする。私はそんな久美子を見つめため息を零した。
その後、散々悩んだ末、私は当日に雅之に会いに行く事に決めた。私の誕生日の時に、雅之は会いに着てくれたのだから、私もこれくらいしないとと、思ったのだ。
学校が終ると、即座に自分の部屋に帰宅し、チョコを作り始めた。雅之への思いを込めて一生懸命作ったチョコは、砂糖と塩を間違えた事に後々気付き、作り直す事になった。
「う〜っ。砂糖と塩を間違えるなんて……」
作りたての砂糖と塩を間違えたチョコを目の前に、私はため息を吐く。
失敗したのがショックで私はベッドに横たわり携帯を手にした。そして、ふとあることを思い出した。
それは、雅之が料理が上手と言う事だ。雅之に聞くのはどうかと思ったが、この際しょうがないとメールを送った。
『今日はサッカー部の練習がお休みです♪ 久し振りに部活が休みで、何だかゆっくり出来そう。そう言えば、明日はバレンタインデーだから、チョコを手作りしようと思うんだけど、どうやったら美味しいのできるかな?』
メールを送り天井を見上げていると、着信音がなる。雅之からの返事が届いたのだ。
私はすぐに体を起こしメールを読んだ。
『チョコはあんまり作ったこと無いから、詳しく分からないな』
その雅之のメールに、
「そうだよね」
と、相づちを打った私は、頷きながらメールの返事を書く。
『そっか。それじゃあ、今から色々研究するんで、また明日ね』
こんな返事を返したが、本当は最後に『楽しみにしててね』と書いたが、明日ビックリさせようと、その言葉は消したのだ。
雅之と少しメールをしてやる気を取り戻した私は、早速チョコ作りを再開した。チョコ作りを再開して、暫くして久美子が部屋に遣ってきた。
ベッドに腰を下ろし、チョコを作っている私を見据える久美子は、テーブルの上にある失敗作のチョコに目を落す。
「ねぇ、このチョコ食べても言いの?」
「エッ! だ、駄目!」
私は驚き振り返りそう言ったが、手遅れだった。既にチョコは久美子の口の中にしまわれていた。
笑いながら私を見る久美子は明るく、
「もう、食べちゃった」
と、言ったがその後、久美子はその塩辛さにのた打ち回ることになったのだ。