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安奈編 第三十通 恵利の想い

 雅之の家の大掃除も終盤に差し掛かった時、窓の外で妙な叫び声が聞こえた。

 室内の掃除をしていた私と雅之の妹恵利は、その声に顔を見合わせて首を傾げた。暫くして、健介に担がれて雅之がリビングに現れた。

 雅之はソファーにうつ伏せに倒れ「ううーっ」と、うなり声を上げながら少し表情をゆがめた。私は心配になり、


「どうしたの?」


と、聞いた。一方の恵利、呆れた表情を見せながらシップを一枚持ってきて言う。


「忙しいのに何やってるのよ」

「早く終らせようと思ってさ……」


 苦笑する雅之は腰の痛みに顔が引き攣った。恵利の持ってきたシップを手にした私は、雅之の背中にシップを張りながら言った。


「大丈夫? あんまり無理しちゃ駄目だよ」


 私の言葉にうなり声で返事を返す雅之に、恵利がため息交じりに言い放った。


「お兄ちゃん張り切りすぎ」


 何も言い返せないと言った感じの雅之は、うな垂れ少し落ち込んでいる様だった。

 恵利は少々残念そうに言う。


「お兄ちゃんがその様子だと、今日の年越しソバは無しかな」

「なーにー!」


 恵利の言葉に大声を上げる健介に、私はビックリして放心状態になってしまった。その後、どんなやり取りがあったか覚えていないが、健介はそのまま呆然と燃え尽きた様な感じになり、肩を落とし一言も喋らなかったのを少しだけ覚えている。

 大掃除を終え、私と恵利は夜の街を歩いていた。明日、朝早くから初詣に出掛けると言う事になり、何故か雅之の家に泊まる事になってしまった。母にその事を電話で話すと、軽く了承してくれたが、少しくらい娘を心配してくれてもいいのに。

 そんなこんなで、恵利と買出しに出かけたのだ。


「今日は、本当に助かりました」

「私で良ければ、来年も手伝うよ」

「でも、迷惑じゃないですか?」


 申し訳なさそうな表情で私にそう言う恵利に、私は笑いながら答えた。


「全然迷惑じゃないよ」


 その言葉に安心した様に笑みを浮かべる恵利は、私の顔を何度もチラチラと見て、ゆっくりと口を開いた。


「あの……。もしかしてですけど、安奈さんはお兄ちゃんの彼女ですか?」

「エッ! ち、違うよ。私はただのメル友なんだよ。全然、付き合っているとか、そう言う関係なんかじゃ」


 突然の言葉に焦り慌てる私のリアクションに、恵利がクスクスと笑った。私は恥かしくなり赤面し、暫し俯いた。

 そんな私に、ホッとした感じで笑いながら恵利は言う。


「そっか。何だか安心した。安奈さんが、お兄ちゃんの事想ってくれてて……。少し心配だったんだ私」


 その言葉に首を傾げる私に、恵利は俯きながら言葉を続ける。


「安奈さんみたいに綺麗な人が、お兄ちゃんとメールしてるのは、面白半分なんじゃないかって……。でも、そうじゃなかったんですね」

「私、恵利ちゃんにそんな風に見られてたんだ」

「ごめんなさい。でも私、お兄ちゃんには幸せになってもらいたいから」


 少し悲しげな面持ちを漂わせる恵利に、ふと雅之の言葉を思い出した。あのクリスマスの日のあの言葉を。

 両親が子供よりも仕事を優先していたから色々と苦労したと言う話を。

 私もその話を思い出し少し悲しくなった。そんな私に明るい声で恵利は言う。


「でも、安奈さん大変ですよ。お兄ちゃん人一倍鈍感だから、安奈さんの気持ちに気付くまで」

「エッ。そうなの?」

「そうですよ。全く人の気持ちに気付かないんです」

「何だか、苦労しそうな予感が……」


 私と恵利は笑った。腹の底から。

 その後、雅之の家で雅之が痛みに堪えて作った年越しソバを食べ、今年一年を締めくくった。

 安奈編も三十通を達成。

 何だか、物凄く長い話になっちゃいましたね。でも、色々と本編でかかれなかった裏の話が読めて面白かったりしたりしませんか?

 何だか馴れ馴れしい後書きになりましたが、本日はこの辺で……。

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