表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/81

安奈編 第二十九通 大晦日の大掃除

 大晦日の朝、私はいつもより早く目が覚めた。外はまだ薄暗く静けさが漂っている中、私は気合を入れて自分の部屋の大掃除を始めた。特に使っていない部屋なので、そんなに汚れても無く、日が昇り始めた頃には掃除も終っていた。

 両親もその物音で目を覚まし、少し早いが大掃除を開始し、私もある程度掃除を手伝い、家を出た。

 どの家も大掃除をしている住宅街を私は、足軽に通り抜け駅前に到着した。この駅で初めて雅之の顔を見たんだよね。なんて、考えると無性に笑みがこぼれた。暫く、一人笑みを浮かべていた私は、時計台の時間を見て焦った。


「あっ! もう大掃除始まってるかも」


 無論、私の家の大掃除でない。私の言ったのは雅之の家の大掃除の事だ。

 昨日、雅之がメールでポロッと、もらした一言で私は手伝いに行こうと決心したのだ。それに、一度雅之の妹にも会っておきたいと思ったのだ。

 もちろん、私が来る事は雅之は知らない。住所は和彦から密かに教えてもらい、雅之を驚かせようという状況になっている。

 携帯で雅之の住所を確認しつつ、細めの街道を歩き進めようやく雅之の家の前に辿り着いた。すでに、大掃除が始まっているのか、中からは掃除機の音が響いていた。


「ここが、雅之の家だよね。何だかドキドキしてきた」


 緊張する私は、玄関の前に立ち尽くし胸に手を当てゆっくり息を吐く。

 その時、私の背後から、


「そこで、何してるんだ?」


と、男の声が響く。心臓が飛び出しそうな位驚いた私は、暫しパニックに陥る。

 驚かそうと思っていたのに、まさか驚かされるなんて、予想外の事で完全に頭が真っ白になっていた。

 その時、雅之の声が庭先から聞こえる。


「あれ? 健介〜ッ。ちゃんと窓拭きやってよ!」

「あぁ。それより、お客さんらしいぞ」

「お客さん?」


 庭先の方から芝を踏み鳴らす音が聞こえ、もう雅之が近付いてきた。雅之の声に、私は嬉しくなって振り返った。

 すると、雅之と健介と呼ばれた男が同時に言う。


「安奈!」「可愛い」


 私の目の前には、私よりも少し身長の高い男が笑みを浮かべていて、一方の雅之は驚きに目を丸くしていた。


「な、何で安奈が……」

「へぇ〜っ。この娘が安奈ちゃんか。話で聞いてたよりも可愛いじゃないか」


 健介と呼ばれた男がそう言って雅之の方を見る。そして、私に彼を紹介する。


「僕の友達の健介」

「どうも、初めまして」


 丁寧にお辞儀した私は、顔を上げて健介に微笑んだ。少し照れる様なしぐさを見せる健介は、肘で雅之を小突き小声で何かを言うが、私には聞こえなかった。少しして、雅之が少し顔を赤面させ健介に言う。


「健介は、早く窓拭きに戻ってよ。大掃除が終らないとそばも作れないんだから」

「はいはい。わかってるって。そんじゃ、邪魔者は消えるかな」


 妙な一言を残し健介は庭先へと去ってゆく。残された私と雅之には、妙な沈黙が続き私の方から声を掛けた。


「ほら。昨日、大変だって言ってたから、手伝いに来たの」

「そ、そっか。それじゃあ、恵利にも紹介したいから」


 そう言って、雅之は私を家の中へと招いた。中では掃除機をかける雅之の妹の恵利が、大声で怒鳴る。


「お兄ちゃん! 窓拭きサボらないでよ!」

「いや、紹介したい人が……」


 雅之の言葉など聞かずに、恵利がハタキで雅之の頭を叩く。


「うわっ、や、やめろよ!」

「問答無用! 働かざるもの食うべからず」

「食うべからずって、何か食べに着たんじゃ」

「口答えしない!」


 圧倒される雅之を見かねて、私が声を掛けた。


「あの……。雅之のメル友の……」


 恵利の動きが止まり、私と目が合う。私もその瞬間に言葉が詰まり、微笑む事しか出来なかった。

 ハタキを払いのけた雅之は、恵利に言う。


「彼女はメル友の安奈。今日、手伝ってくれるって」

「エッ、お兄ちゃんのメル友! こんな綺麗な人が?」


 疑いの眼差しを向ける恵利に、雅之は不満そうな表情を見せて居る。私はただただ微笑むだけで二人のやり取りを伺っていた。

 その後、話がまとまり、私は恵利と一緒に室内の掃除をする事になった。


「それで、お兄ちゃんとはどうしてメル友に?」


 掃除中に恵利が突然質問してきた。本当に突然だったため、私は何と答えて良いのか分からず、悩んだ。

 その末に、出した答えは、


「う〜ん。多分、何処か似た所があったからかな?」

「似た所? お兄ちゃん、成績悪いし、運動できないし、外見も良くないのに、似た所なんてありますか?」

「ハハハッ……。恵利ちゃんって、結構厳しいんだね」

「そうですか?」


 苦笑いを浮かべる私に、恵利は愛らしく微笑む。きっと仲がいいんだろう。

 暫く、雅之との出会いとかを恵利に話し、楽しく掃除を続けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ