安奈編 第二十八通 クリスマスの出来事
二学期も無事に過す事が出来、冬休みに突入した。
冬休みは、サッカー部の仕事は一年に任せ、私は一足先に実家の方に帰ろうと、寮で荷物をまとめていた。
荷物をまとめていると、部屋をノックする音が聞こえ、ドアが開かれ久美子が笑顔で顔を出した。
「あ〜ん〜な〜」
変な声で名前を呼ぶ久美子に、苦笑しながら私は言う。
「どうしたの? 久美ちゃん部活でしょ」
「今日は休んだ。安奈が実家かえるって言うから、見送ろうと思ってさ」
「別に見送らなくてもいいよ」
そう言った私だが、久美子は全く聞いては居なかった。勝手に部屋に上がり、ベッドに座り込んで楽しそうに私のことを見つめている。
きっと、クリスマスの事が聞きたいのだ。
あの日の事はまだ誰にも話してない。私の心の中の思い出なのだ。
黙々と荷物をまとめる私に、痺れを切らした久美子が、
「あ〜っ! 安奈! 結局、クリスマスはどうなんたのよ!」
と、怒鳴った。やっぱりと、私は思いため息を吐き呆れ顔で久美子を見た。
一方の久美子の眼差しは、期待に満ち溢れた目をしていた。
でも、私は何も言わず荷物をまとめを再開した。その行動に、久美子はすぐに言う。
「ちょ、ちょっと! クリスマス、雅之と一緒だったんでしょ? 告白とかされた?」
その言葉に、私は軽く首を左右に振りふとため息を漏らした。
クリスマスの日、告白されると思った時に雅之に言われた言葉は、
「今日は楽しかった。また、遊園地に来ようよ」
だった。少し期待していた私は、雅之に微笑み返す事しか出来なかった。
私はその事を思い出し、もう一度ため息を吐く。
「何? もしかして振られたわけ?」
「ち、違うわよ! あの日はとても楽しくて、お互いいい感じになったの!」
「なら、何で放さないわけ?」
久美子は意地でもクリスマスの話を聞きたいらしく、積極的に私に絡んでくる。
あまりにしつこい久美子に、私は仕方なくクリスマスの出来事を話した。
すると、久美子が残念そうに私の右肩を二度叩いた。
「そっか。キスまで行けなかったか」
「何でキスなのよ」
「告白されたら、キスで返事を返すに決まってるでしょ?」
「それは、ちょっと違うんじゃない?」
軽く久美子の言葉を否定する私は、半笑いしながら荷物まとめをする。
そんな私の言葉など耳に届いていない久美子は更なる妄想を繰り広げていた。
「そう。クリスマスに告白されキスを交わし、そのまま夜の街で……」
「後は……。教科書かな」
完全に久美子の事を無視して独り言の様に呟く私は、教科書を机の上から幾つか取り鞄に綺麗に並べた。
綺麗に片付いた部屋を一通り見回し、ベッドに座り妄想をする久美子を見て、もう一度部屋を見回す。
教科書と一通り荷物の入った鞄を、玄関の側に置いた私は軽くシャワーを浴びた。
その後も、久美子は一人妄想の世界をさまよい続けていた。