安奈編 第二十二通 置き去りの携帯電話
早朝から学校の体育館に私は居た。
足元には大きな旅行鞄が置いてあり、周りは他のクラスの生徒達が大勢居る。
実は今日から修学旅行で、沖縄に行く事になっている。初めて行く沖縄に私は暫し胸を躍らせていたが、今は一人孤独と戦っていた。自分のクラスが何処に並んでいるのか、はっきり分からなくて、体育館をさまよっていたのだ。キョロキョロする私は、背後から聞えた久美子の声に振り返った。
「ちょっと! 安奈、何やってるのよ!」
「久美ちゃん。探したんだよ」
「探したってね……。ここは、一組から四組の集まる場所でしょ! 私達は五組、集まるのは中庭よ! 大体、何回携帯鳴らしたと思ってるのよ!」
「エッ? 携帯、一度も鳴ってないよ」
私は笑いながらポケットに手を入れる。暫く考え、鞄を探る。携帯が何処にも見当たらず、私は朝からの行動を一から思い出す。
朝、目を覚まし顔を洗い歯を磨いた後、シャワーを浴び制服に着替えた時は、携帯はテーブルの上に置いてあり、雅之にメールをしようと思い携帯を取り、時計を見て――。この瞬間、私は大きな声を上げた。携帯が何処にあるのか思い出したのだ。
「アーッ!」
「ど、どうしたの? 急に大声上げて」
「ど、どどどどうしよう!」
慌てる私は上手く舌が回らず、言葉が上手く出ない。他の生徒はそんな私の方に視線を送るが、今はそんな事を気にしている場合では無かった。
そんな私に、久美子は少々呆れながら言葉を発する。
「あーっ! 五月蝿い! って、言うか落ち着け!」
「ご、ごめん。そ、それより、大変だよ〜」
「当たり前でしょ! もう、私達の乗るバス出発するんだから、こんな所で油を売ってる場合じゃないの!」
「エッ、そうじゃなくてさ」
「さぁ! 行くよ」
私の言葉など聞かず、久美子はさっと腕を掴み走り出す。結局、私は何も出来ずバスの中に居た。横では久美子が息を切らせ、後では和美と冷夏が「お疲れさま」と声を掛ける。
そして、バスはピーと音を鳴らしドアを閉め、ゆっくりと学校を後にする。放心状態の私は、その後バスでの出来事を覚えては居なかった。気付いた時には空港に居て、搭乗口から飛行機に乗り、いつの間にか沖縄の空港に到着していた。
多少、暖かな沖縄の日差しを浴びながら、ぼんやりする私はふとため息を漏らす。やっぱり携帯を忘れたのは、私にとってかなりのダメージだった。別に私は携帯依存症では無い、ただ雅之と修学旅行中にメールが出来ないと言うのが、辛いのだ。
そんなぼんやりする私を気遣い冷夏が声を掛けた。
「大丈夫ですの? 学校を出発してから今までぼんやりしてますけど?」
心配そうな冷夏の表情に、私は明るく微笑んだ。折角の修学旅行を私のせいで駄目にしたくなかったからだ。携帯を忘れたのはしょうがないけど、ここはそんな事気にせずパッと楽しもうと、前向きに事を考える事にした。
「ごめん。大丈夫だよ。さぁ、修学旅行とことん楽しむぞ!」
「そうですわね」
「なぁ、何話てんだよ二人でよ」
背後から首に腕を回して凭れかかって来る和美は、そう言いながら笑う。その後、三人で暫くじゃれ合い、集合の合図で自分のクラスに並んだ。先生からの説明が行われ、再びバスで移動を開始した。
初日は、結局色々見て回り終了した。