安奈編 第二十通 誕生日
風邪が治り数日後、私は朝早く目が覚めた。
窓がカタカタと風で揺れ、外はもう冬景色だ。
パジャマのままの私は、素早くベッドから立ち上がり、軽く伸びをして眠気を吹き飛ばす。そして、おもむろに机の上の携帯に手を伸ばし、胸を躍らせながら雅之にメールを送る。朝早くから迷惑だと言うのを全く感じず、私は自分の喜びを雅之にいち早く伝えたかったのだ。
『ヤッホー! 今日は朝からハイテンションです。何故かと言うと、今日は私の誕生日なのですね♪ 私も遂に17歳に、大人に向って一歩前進♪』
自分が17になった事を伝えたかったのではない。雅之に誕生日おめでとうの一言を言ってもらいたくてそう送ったのだ。返事を待つ間に、私は顔を洗いに洗面所に向う。冷たい水で軽く顔を洗い、歯を磨いていると着信音が鳴る。もちろん、雅之からのメールだ。私は歯ブラシを銜えたまま机の上の携帯を手に取り、雅之からの返事を読む。
『誕生日おめでとう。そっか今日が、安奈の誕生日だったのか……。全然知らなかったな』
そんな雅之のメールに、私は首を傾げる。誕生日を雅之に教えた覚えがあったが、それは私の気のせいだったのだろうか? と、考え込んでいた。
暫く考えたが思い出す事も出来ず、私は雅之にメールの返事を返す事にした。
『あれ? 教えてなかったっけ? 確か教えた覚えがあったんだけど……。私の勘違い? やっぱり、歳かしら? 物忘れが激しいわ(笑)』
少々冗談交じりのメールを送った私は、すぐさま朝食の準備に取り掛かる。フライパンに油を敷き、その上に卵を割り落す。綺麗に黄色の黄身が白身の真ん中で止まるのを見届け、私はフライパンにふたをする。暫し、弱火にして卵全体に火が通るのを待つ私は、着信音に気付きその場を離れる。携帯を片手に握る私はすぐに雅之からのメールに目を通す。
『歳って……(汗) 17になったばっかりじゃないか……』
「そうだよね。私、17になったばっかりじゃない。うんうん。まだまだ、これからだよ!」
雅之のメールに独り言を呟く私は、天井を見上げながら拳を振り上げていた。誰かに見られてたら恥かしいな、と思いながら私は赤面しすぐさまフライパンの卵を見に行く。
その後、朝食の準備を済ませてから、雅之への返事を返す。
『そうだよね。17になったばっかだもんね。まだまだ、若いよ(笑) それじゃあ、今日も一日頑張ろう!』
お互いに今日一日頑張ろうと言う気持ちを込め私は雅之にメールを送った。朝からハイテンションの私に、雅之はどう言う事を思ってるんだろうと、私は思いながら朝食を口にしていた。やっぱり、朝からあんなにテンションが高いと、迷惑かなと思っていると、雅之からのメールが届いた。
『それじゃあ、また後でメールしようね』
「やっぱり、迷惑だったかな。今度からは気をつけなきゃ」
メールを見ながら私はそう呟き、携帯を閉じて朝食を食べた。
その後、やる事を全て済ませた私が、部屋を出ると笑顔で久美子が出迎えてくれた。
「おはよう。今日は安奈の誕生日だね。例のメル友、プレゼントなにくれるかしら?」
「あっ、その事だけど……」
苦笑する私に久美子は少々首を傾げる。そんな久美子に、今朝のメールの事を一部始終話すと、驚き呆れて最終的にため息を吐きながら首を左右に振っていた。
その後、学校まで久美子は幾度と無くため息を吐き、私の顔を見て呆れたように笑みを浮かべていた。
私と久美子が教室に着くと、既に和美と冷夏が私と久美子の事を待っていた。他にも数人の人が居るが、この時間はやっぱり人が少なく、とっても静かで少し不気味だ。私はひんやりする椅子に鳥肌を立てながら、自分の席に座った。
そんな私に、和美と冷夏が笑みを浮かべながらプレゼントを差し出す。
「誕生日おめでとう」
殆ど同時にそう言う和美と冷夏に、私は感激の涙を流しそうだったが、それを堪えプレゼントを受け取る。友達に誕生日を祝ってもらえる事がとても嬉しかった。去年は、誕生日を教えてなかったため、久美子にも和美にも祝ってもらえず悲しい思いをしたが、今年は今までで一番嬉しかった。
プレゼントを受け取った私は、何度も二人に「ありがとう」と、頭を下げていた。そんな私に和美が言う。
「私からのプレゼントは写真立てだ。まぁ、メル友の奴ととった写真でも飾るといいさ」
「ありがとう。でも、マサとはまだ写真とった事無いから、飾るのはまだまだ先になっちゃうね」
「私は、今流行の香水なのよ。きっと、安奈さんも気に入ると思うわ」
「あ…ありがとう……」
香水を見て私は少し固まった。実はあんまり香水の匂いが好きじゃない私は、香水とかには全く興味が無かった。
でも、冷夏が私のために選んでくれたプレゼントなので、近い内に一度ためしにつけてみようと、思った。
安奈編も早二十通に……。番外編と言ってますが、殆ど安奈編に変貌しつつありますね。
これは、番外編としてでは無く安奈編として、連載したほうが良かったかもと、思いつつも楽しく物語を見守っております。
ご愛読してくださる皆様には、色々と評価や感想を頂き、こんなにも『間違いメール』を楽しみにしてくださる方がいるんだと心にジンときています。
それでは、長い後書きになりましたが、これからも『間違いメール 番外編』をよろしくお願いします。