安奈編 第十九通 風邪
中間テストが終わり、私は風邪をこじらせベッドで寝込んでいた。
頭はクラクラするし、席は止まらず喉が痛い。
そんな朦朧とする意識の中で、私はふと雅之の事を考える。私が風邪引いたの知ったら、雅之心配してくれるかな。なんて、思いながら「ゴホゴホ」と、咳をする。風邪薬を飲んだのに、そんなに早くは効果が無いらしい。その後、私はいつの間にか眠りに就いていた。
眠りに就いて暫くして、私は久美子と和美の声で目を覚ました。体中汗だくで、着ていたパジャマは汗で体に張り付いている。そんな私の顔を心配そうに見つめる久美子と和美は、優しい声で言う。
「大丈夫か? 随分魘されてたけど」
「怖い夢でも見てたんだよ」
「怖い夢?」
久美子にそう言われ、私はふと夢の内容を思い出す。その瞬間、顔が熱くなり更に熱が上がった気がした。
顔を真っ赤にする私を見た久美子と和美は顔を見合わせ首を傾げる。そして、何やら怪訝そうな表情をしながら私の事を見つめる。その目は『どんな悪夢を見てたんだ』と、言う様で私は渋々と自分の見ていた夢の話をする。
「実は、夢の中でマサに告白されるの」
「ほーッ。告白ですか。全く持って羨ましいですな。って、言うかどこに魘される要素があるんだ!」
「お前は、黙ってろ!」
私に怒りの声を上げた久美子の腹部に和美の拳が突き刺さる。その一撃で久美子はその場に蹲り暫く動けなくなった。
苦しむ久美子を横目に、和美は私に話の続きを話すように言う。
「それで、その後はどうなるんだ?」
「その後、口では言えない様な事が……」
「な、なな何! 夢の中であんな事やこんな事を!」
「多分、和美ちゃんの思ってる事じゃないと思うよ」
顔を真っ赤にする和美に私はそう言い、ため息をつく。そんな私に更に顔を真っ赤にする和美は、顔を激しく振り自分の中に浮かんだ想像を振り払う。
私はそんな和美の姿を見て微笑む。
顔を真っ赤に染める和美は息を荒げながら微笑む私に問う。
「そ、それじゃあ、口では言えない事って何!」
「えっ、その……。キ…キ……キス釣りを……」
その瞬間、辺りに冷たい風が吹き抜けた感じがした。暫く、眉を細める和美が、表情を引き攣らせながらせせら笑う。私も自分で言った事なのに、体中に鳥肌が立ち、苦笑する。
暫く、沈黙が続き和美が呆れた声で私に言う。
「わかった。わかったから、そう言うボケはやめろ。安奈には似合わないし、大体、そう言うのは久美子の担当だ」
「別に、ボケたつもりは無いんだけど……」
「それで、キスの後は何があったんだ?」
「その後、マサが事故にあって……」
「あんた、凄い夢見るんだな。まぁ、ただの夢だし気にする事ないさ」
笑いながらそう言った和美は、苦しむ久美子の背中を叩いていた。
その後、二人が帰り、私は汗で濡れたパジャマを着替えてもう一度ベッドに入った。でも、何だか眠る事が出来ず、右手には携帯を握っていた。雅之とメールがしたくてしょうがなかったのだ。暫く悩みに悩んだ末、私はメールを送る事にした。
まだ、クラクラする頭でゆっくりとメールを打ち込んだ私は、すぐに送信した。
『う〜っ……。辛いよ〜。実は、今日風邪で寝込んでます……。とっても苦し〜よ〜。折角の休みなのに……(泣) 気持ち悪いよ〜』
そんな内容のメールを送った私は、暫く目を閉じてメールの返事が来るのを待った。目を閉じると、やたらと周りの音が耳に聞えてくる。私の部屋の前を通る足音や、蛇口からたれる水の音とか、そして、私の携帯の着信音とか。
着信音!? 少し驚き気味に私は携帯を手に取り開く。そこには、マサと書いてあり、雅之からのメールが届いた事がわかった。
『風邪か……。季節の変わり目は、風邪引き易いからね。でも、メールしてて大丈夫なの? ゆっくり寝てた方がいいって』
この内容のメールに、雅之が私を心配してくれてるんだなと、思った私だが、少し寂しい感じもしていた。もっと雅之とメールをしたかったからだ。休みの日に風邪を引くなんて……。
少し落ち込む私はため息を吐き、ゆっくりとメールの返事を返す。
『ありがとう。今日はゆっくり、休みます……。元気になったら、メールするね……。マサも風邪には気をつけてね』
少し寂しさを込めたこの内容のメールを送った私は、そのまま目を閉じ体を休めた。雅之と早くメールがしたかったから。